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慎ましい9人の女性

 「ブトヨ」が示唆しているのは、自己抑制である。

全く同じ衣装を着た9人の女性で踊られるのが正式で、ぴったりと合う同一の動き、感情を見せない表情は、彼女たちが一人一人の人間を主張するものではなく全体。9は完全数として考えられ、踊り手は9つの人体の穴、9つの人間の欲望、9つの星座、9つの宮殿の儀礼門を示している。

ジャワ人の宮殿の重要な点は、宮廷の踊りと華やかな儀礼のための永久的な建物であるという点、伝統を重んじる南西アジアは「劇場国家」と分析する学者もいる。ルイ14世時代なら、政治技術と舞台技術との繋がりを理解することは困難ではないであろう。

ヨギャカルタの宮殿では、パビリオンで行われる。このと呼ばれる場所は、彫刻のある、黒と金の柱で支えられた高い屋根がある。古代ジャワの寺院のレリーフにも見て取れる。そこには、現代の宮廷の踊り手に似た優雅な姿が掘られている。

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その他の宮廷の踊りと同様に、衣装には入念な準備がある。皇室の花嫁衣装になるだけでも数時間を要する。各々が銀メッキの糸で刺繍したベルベットの胴着を着け、スカーフを腰に巻いて金色のベルトで固定、銀メッキ、金メッキの龍の形の腕輪、小さなダイヤモンドのついた胸飾り。斜め模様のバティックの長い布を足に巻きつける。素足で大理石の床を音を立てず動く。

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音楽は主に打楽器で、ゴング、シンバル、シロフォン、ドラム、フルート、2弦のリュートである。

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真髄はジャワ人にとって大切な、「バランス」と「静寂」である。9人の踊り手は大部分を一致した動きで踊り、ゆっくりとしたステップの場合、弓のように足を出し、床から心もち持ち上げる時は爪先を上へと反りあげる。膝を外側に向けてわずかに曲げ、まず踵が床についている方の足の位置を変え、体重を爪先に向かって前方にかける。歩くという日常動作を美しく、それだけでもないが、様々な様式化されたものがある。もちろん名称もある。ゲドラックは、床に垂らした布を後ろに蹴り、その足を軸足の後ろに持っていき、爪先でタップする。

またフォーメーションも象徴的で、3人づつの3列の郡系をとり、内面的な変化を表現している。2人だけが他の7人から離れるものもある。ヒンドゥー教の「マハーバーラタ」「ラーマーヤナ」の古典的な叙事詩も、インドより伝わり物語の場面を作っている。

※こちらは前回ご紹介した、第三代マタラム王国国王のスルタンアグンの創作。初代マタラム王国国王(パヌンバハンセノパティ)とインド洋の女王の恋愛物語をテーマにする。7人又は9人のダンサーで演じられる。

ジャワ島の伝統的舞踏は、静かで、内面を大切にし、集中力、慎重さや穏やかさ、まさに慎ましいジャワ人の在り方を表すものである。

次回はジャワ島の古典舞踏で男女で踊るものを紹介したいと思う。




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