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赤いスイートピー

松田聖子の「赤いスイートピー」に関する話です。短いです。

1982年にリリースされた松田聖子8枚目のシングル「赤いスイートピー」は、数ある松っちゃん(松田聖子)の楽曲の中でも屈指の人気を誇る曲で、世代を超えて歌い継がれる名曲です。作曲/松任谷由実、作詞/松本隆という「三本松トリオ」の手によって完成したこの名曲の素晴らしさについては、すでにさまざまな角度から語られているため今回は言及しません。

歌詞の解釈についてもさまざまありますが、松っちゃん(松本隆)本人から語られた「『心の岸辺に咲いた赤いスイートピー』はあくまでも心象風景である」というのが一定のアンサーなのかなと思っていて、「実在しないこと」というのがポイントだと理解しています。

その上での個人的な話なんですが、「赤いスイートピーみたいだな」と思った出来事があります。

母方の祖父母は大変仲が良く、子供や孫の写真よりも夫婦二人で行った旅行先で撮った写真のほうが圧倒的に多いような人たちで、なんというか「恋人感覚」を残したままに歳を重ねてきたタイプの夫婦でした。定年してからは更に好き放題していたみたいで、帰省のたびに増える記念写真を見ては「こいつら遊びまくってんな」と思っていました。

とはいえ時間は流れるもので、まずは祖父が亡くなりました。体調を崩してからの期間も短く、所謂介護/看護疲れのようなものもあまり存在しない状態からのスピード逝去だったので、火葬の際に泣き崩れる祖母を見て「まあ突然だったしなあ」と思いましたが、なんというか既に十分な高齢だったことに加えて「人が死ぬ」ということに対して比較的ドライに捉えていたので、火葬場の待合室にあった漫画が「幽遊白書」「BLEACH」「シャーマンキング」という徹底した「死」のチョイスだったことに笑ったりしていました。

そこから数年後、祖母が亡くなりました。祖母については半年程度の闘病期間を経て、そろそろ覚悟しとけよっていうタイミングで招集がかかったので病床に行ってみると、ほとんど食事もできないくらいに衰弱した姿がありましたが、まだ本人には「無理っす」とは伝えていないらしく、親類からは「元気になったらみんなでお花見行こうね」とか「ひ孫の顔を見ようね」という励ましの言葉が聞こえていました。

ただ、本人は既に気付いていたみたいで、お見舞いに訪れた親類やドクターにも「もう無理なんでしょ?」ということを何度も確認しているとのこと。そこで、火葬場の漫画のラインナップを見て笑っていた極度乾燥行為を評価された上で、私が「無理っす」をやることになりました。

で、「無理っす」については本人もわかってることだったので結構すんなり伝えることができたんですが、「(せっかくだから)やっておきたいことはあるか」と聞いたところ、「おじいちゃんともっと一緒に過ごしたかった」という返答がありました。

この言葉を聞いたとき、祖母にとって祖父と過ごした約60年間は紛れも無く「青春」であったということ、そしてそれは今祖母の前に実在していないということを強く認識しました。仕事や子育てといった苦楽を共にする生涯のパートナーでありながら、やはりどこかで出会った頃のような「恋人同士」の気持ちが残っていたからこそ、最期まで「一緒に過ごせなかったこと」に後悔が残ったんだろうなと思います。

そして「I Will follow You あなたについてゆきたい」という歌詞の通り、その数日後には息を引き取ったんですが、喪失感というよりは「これで良かったんだろうな」という安心感と「天国でもお幸せに」という気持ちがあって、「冥福を祈る」とはこういうことなのかなと思ったりしました。

そういう経験から「赤いスイートピー」を聴くと、若かりし姿の祖父母が仲睦まじくデートをしているような光景を思い浮かべてしまいますし、公園とかにいる仲良し老夫婦を見ても「この人達にも若くてキャッキャウフフしてる頃があったんだろうな」とか想像してしまいます。

結婚生活を続ける以上「どっちかが先に死ぬ」のは、ほぼ避けられないイベントであって、それは大きな喪失感を伴うものだとは思うのですが、一方で「心の岸辺=彼岸」で再会できる相手が存在するということはとても幸せなことなのかもしれません。

夫婦の形というのは夫婦の数だけ存在していて、それらを「正しい」「間違っている」みたいに分けることはできないと思いますが、客観的に見て私の祖父母は「良い夫婦」であったと思いますし、そこには「良かった頃の気持ちを忘れないこと」という秘訣があるように思います。

これからご結婚される方や、既にご結婚されておられる方においては、「老夫婦になったとき、どういう関係性でありたいか?」という視点で考えてみると、何かヒントになるものがあるのかもしれませんし、その基準となる「良かった頃」を共有することが良い夫婦のスタートなのかもしれません。

そして、皆から笑顔で祝福される結婚式という行事は、二人が「良かった頃」を思い出すための標石になるのかなと思います。

店長、ご結婚おめでとうございます。末永くお幸せにお過ごしください。

※松田聖子・松任谷由実・松本隆を指して「三本松トリオ」とかは多分言いません。

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