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断層の夢

 今朝は奇妙な夢を三つほど見た。

第一の夢

 僕は世界地図を眺めている。誰かが僕に少数民族のことを説明している。非インド=ヨーロッパ系民族が大半を占める地域に、ぽつんとインド=ヨーロッパ系民族の村が点在している。その民族は滅亡の危機に瀕している。その民族は日本について何かを知っている。

第二の夢

 僕は高崎を歩いている。高崎の中心には大規模な商業施設や高いビルが立ち並んでいるが、周辺に向かえば向かうほど建物は低くまばらになっていく。道の途中でプールを二軒見つける。僕は訝しむ。今までここにプールはなかったはずだ。なぜ狭い地域にプールが二軒も建っているのだろう。中を覗くと、小学生たちが流れるプールで楽しそうにはしゃいでいる。一瞬、僕もプールではしゃぎたい、という思いが胸裏に湧き上がる。しかし僕はそれを諦める。僕はもう小学生ではない。いい歳をした大人が一人であのようなプールに入っても、不審に思われるだけだろう。僕は一抹の寂しさを覚えてプールをあとにする。
 道は丘陵地帯へと向かっていく。道路は丘陵を掘って出来た人工の谷間に伸びている。丘の斜面が人為的に切り崩されている。人為的に切り崩された丘の斜面に、びっしりと墓石が並んでいる。丘の斜面は霊園になっていたのだ。その霊園に僕は薄気味悪さを覚える。死人や幽霊が怖かったのではない。白い石の行列がそのまま不気味さを醸し出しているのだ。
 そして僕はついに足を止めた。僕の目の前の歩道は、高さ二~三メートルほどの断層によって断ち切られていたのだ。断層の周囲には濡れた雑草が生えている。背伸びしても見えないが、どうやら断層の上にも道は続いているようだ。断層の上に向かって金属製の階段が伸びている。全部で五段ほど、ハシゴのような急な階段だ。階段の中腹にはなぜか信号機がくくりつけられている。信号機は赤く光っている。下から二段目の段には一対のスニーカーが踵を揃えて綺麗に置かれている。
 僕は意を決して階段を上り始めた。すると金属製の足場はくるりと回転して僕を空中に放り出した。その直後、僕は自宅の布団の上にいた。変わった箇所は何もない。ただ天井の長方形の板が、やけに例の階段の足場と似ているように感じられた。

第三の夢

 ダンテとメフィストフェレスが対話をしている。正確に言うならば、僕は「ダンテとメフィストフェレスの対話」が書かれた本を読んでいる。ダンテとメフィストフェレスとは奇妙な組み合わせだ。ダンテはウェルギリウスと、メフィストフェレスはファウストと対話するべきではなかったのか。しかし夢の中の僕はその奇妙さに気付いていない。

 メフィストフェレスがダンテに問う。詩は幸福な人間のためにあるのか、それとも不幸な人間のためにあるのか。
 ダンテが答える。幸福な人間は詩を必要としない。詩は不幸な人間のためにある。世界に不幸があればあるほど、詩はその価値を高めるのだ。
 メフィストフェレスがダンテに問う。それなら天国に詩はないのか。
 ダンテが答える。左様、天国に詩はない。
 メフィストフェレスがダンテに問う。それなら聖書は詩ではないのか。
 ダンテが答える。我々が知るような聖書は天国にはない。人間の言葉で書かれた聖書など、聖書と呼ばれるに値しないだろう。天国にはただ神の言葉で書かれた聖書のみがある。
 メフィストフェレスがダンテに問う。神の言葉で書かれた聖書は誰が読むのだ。
 ダンテが答える。当然、天上にいます高貴なお方が読むのだ。
 メフィストフェレスがダンテに問う。言葉は誰かと誰かが交通するためにある。自分に向かって語りかけるためにしか用いられない言葉など、荒唐無稽だ。
 ダンテが答える。恐らくお前のところの主人もその言葉を理解できるはずだ。
 メフィストフェレスがダンテに問う。サタンのことか。
 ダンテが答える。左様。そもそもサタンとは悪の神アフリマンであり、善の神アフラマズダと絶えざる闘争を行なっており……

 このあたりで僕は「これってゾロアスター教じゃないか?」ということに気付いた。次の瞬間、僕の意識は夢から目覚めた。

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