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『チェリまほ The Movie』を観て〜内容と感想その2 気になった事

今回映画を観ていて、一つ引っかかったことがあった。
それはキスシーンだ。

ドラマでも結局なかった(と言えると思う)が、最終回の最後になんとも美しいエレベーターでのシーンがあり、私としてはあれはとてもよかったと思っている。
実際に皆まで見せるのではないところが、なんとも日本的で奥ゆかしい感じがして、町田くんのリードによる絶妙なタイミングが二人の甘い雰囲気と相まって、実際にしているかしていないかではなく、世界のチェリまほファンに自慢したいくらいの美しいシーンになったと感じたし、今もやはりよいシーンだった思っている。

ただ、今回映画を観て、ちょっと残念だと感じたのはキスシーンがなかった事。連想させるシーンはあったが、実際にはなかった(と言っていいと思う)。
何が残念かと言えば、話の流れや互いを慈しみあう二人の愛情溢れる優しい演技の中で、優しいキスシーンがある方が自然だったのに、それがなぜか別の形に変えられてしまっていたこと。

安達が事故に遭い容態がわからない中、すっかり心の平静を失って取り乱し、雨降りしきる長崎に駆けつけた黒沢。ようやく安達に会えたものの、安達を永遠に失うかもしれない恐怖で心身ともにボロボロになり、体裁を取り繕う余裕ももはやなくなり、二人きりの部屋で、これまでの寂しさや不安を口にして涙を流す。そんな弱り果てた黒沢をいたわり、気遣い、愛しみながらそっと黒沢の髪に触れる安達。
二人きりの静かな部屋で、二人が互いへの愛情を改めて強く感じ、もう決して離れたくないと思うシーン。

ここに、そっと触れるだけの優しいキスシーンは、やはりあってほしかった。

単に二人のキスシーンを見せるための話の流れであれば、おそらくそのシーンばかりがやけに話題になり、作品の品位も下がったかもしれない。でも、このシーンはそういうものではなく、二人の優しい思いやりと愛情が溢れた大事なシーンで、二人が触れ合うのもとても自然な流れだった。

キスを連想はさせるが実際には避けられた理由はなんなのだろう。
新型コロナの事情なのか、本人たちの強い希望なのか、周囲の”大人な”事情なのか、作り手側の最初からの方針だったのか、素人の私が思いもよらないような拠所ない事情か。

仮に主演の二人が、なんらかの理由でどうしても避けたいと言ったなら、それは仕方がないとも思える。お互いを信頼し敬愛し普段もずっと仲睦まじい二人が、この作品に並々ならぬ思い入れを持っているにもかかわらずそれでもこれだけは避けたいと言ったならば、仕方がないと思える。
ただ、作品作りに大して真剣で妥協を許さないプロフェッショナルな印象を二人に対して持っているので、それは私には想像しにくい。
だとすればやはり感染症対策だろうか。確かにそれもまた、現状を考えればやむを得ないとも思える。

いずれにしても、あのシーンを思い返すと、何かしっくり来ない感じはやはり今も拭えない。
来週もう一度見に行ったら、印象は変わるだろうか。

そうは言っても、こんな不穏な状況の中、この作品が無事に世に出て、自分も無事映画館で観られたことに感謝している。
2020年のドラマ放送を見逃してがっかりして暮らしていたところに舞い込んだ映画化の話とドラマの再放送決定。この数ヶ月かけて、遅れてきた『チェリまほ』ファンの私も、なんとか”間に合った”感じだ。
いつまでも大切にしたい、優しい作品。
この辛い辛い事ばかりが次から次に起こる現実の中、バランスを失って倒れそうになる心を癒してくれる本当に嬉しいプレゼントだった。