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世界が変わったとき

彼の育児日記を読む。
毎年この時期になると読み返す。
子供を産もうと決めてから自分の世界が変わった様子が良くわかるから。その記憶を。

難産だった。不適合妊娠で低体重、予定日より1週間も遅れ陣痛が始まってから3日間苦しむ。意識がもうろうとする中で父の夢をよく見ていた。夫は医師からこのままではお産の継続が難しいので緊急手術になるとの説明を受けその際の命の選択も。3日目に最後の促進剤を打ち恥骨骨折と輸血をしながらやっと産まれてきた息子。息子は父の生まれ変わりのような気がした。

担当医は眠らない私を心配し「ご自分の身体はどうですか?出血は増えていませんか?身体は痛みませんか?」と。
出産後自分のことなんて全く考えてなかったし出血が増えてるかどうか歩けない身体になっているということも意識にすらのぼらない。ただただ必死に自分以外の存在を守っていて何度も何度も呼吸を確認しこのまま健康で元気に生きてくれるよう祈り続けた。1時間未満の睡眠であってもちょっとの音で目が覚める。季節外れの蚊が出た時なんかは少しでも寝て身体と精神をまともにしておくべきか見つけて殺めるべきかを真剣に30分以上悩んだりもして。
とにかく彼を少しでも傷付ける可能性がある存在は絶対に許さないという最強ホルモンであふれていた。

目が合っただけで痛みを忘れるとか、泣き声を聞くだけで乳腺がはるとか、へその緒がとれただけで号泣できる世界線があるとか、というよりそんな自分がいたとは。
あの時身体をさすり手を握ってくれた夫はお星さまになってしまった。私の脳のしわはどんどん減っていく、けれど彼が生きているだけで心のひだは増えていく。彼がいくつになっても。

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