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芹摘姫 どろろで語るむかしばなし

むかしむかし、ある都に、とある高貴な君がおりました。
やがて帝となられるこの君は毎日、東と西の宮を行幸するのを日課としておりました。

そしてあるお正月の明けた初めてのお節句の日です。
君の行幸が始まりました。
沿道には高貴な姿を見ようと、多くの者が集まり、人垣を作っていました。
君はとある川端を通りかかりました。
するとそこでは、数人の娘が芹を摘んでおりました。
彼女たちも君が通りかかると、作業をやめて一斉に君の見送りをしました。
でも、その中で…
ある一人の娘だけは、手を止めず、無心に芹を摘み続けていました。



不思議に思った君は、馬を降り、居た堪れなくなって娘に話しかけました。
「正月を迎えたとはいえ、川の水は、まだまだ冷たい。なぜあなたはそれでも芹を摘むのか。」

君に話しかけられ、娘はようやく顔をあげました。
「見苦しい所を通られ、申し訳ございません。私が幼き頃より粥を食べさせてくれた母が病気なのです。母に美味しい粥を食べさせてあげたくて、こうして芹を摘んでいるのです。」



娘は続けました。
「寒中の水は最も澄み、この水で浄化された植物は、癒しを与えると言います。君のお姿は毎日拝める事ができますが、尊い水は、今日これきりなのです。」

その言葉を聞き、君はいたく感動しました。
そして娘を自らの手元へ招き入れ言いました。

「今からそなたの母親を迎えに行こう、そして、わが妻となっておくれ。」



こうして娘は、君の皇女となりました。
芹を摘んでいた事から、芹摘姫と呼ばれました。
子どもも儲け、末永く幸せに暮らしたとの事です。

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