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保険診療で治療できるホクロ

美容クリニックを受診される方が相談されるホクロの中には、内心では(それ、保険診療でも治療してもらえるんだけどな・・)と思いつつ治療しているものが少なくありません。
そのような患者さんには、「これまでに皮膚科や形成外科で相談されたことはございますか?」とお尋ねしますが、だいたいは「受診したことがないです」と答えられます。
おそらく「ホクロは美容」といった通念があるのだと思いますが、場合によっては5倍ぐらいの費用負担となり、非常にもったいないなと感じています。

保険診療を行わない美容クリニックに雇用されている立場では、患者さんに保険診療を勧めることはクリニックの収益を損ないますので、こちらから保険診療を勧めることはできません。
そのようなケースでは、いつも心苦しい思いを抱えながら治療をおこなっています。
(これは私が独立を考えている理由のひとつでもあります。患者さんにとって最もメリットの大きい治療の選択肢を提案できる仕事がしたいと考えています。)

今回は、そんな保険診療で治療してもらえる可能性が高い「ホクロ」の特徴や、保険診療の医療機関を受診することの利点について紹介してみたいと思います。


こんなホクロは「皮膚腫瘍」


客観的に見て、医師が「皮膚腫瘍」を疑う(否定できない)ようなホクロであれば、保険診療の扱いで「皮膚腫瘍切除術」を行ってくれる可能性が高いです。

「皮膚腫瘍を疑う」状況とは、以下のようなケースが挙げられます。
・盛り上がっている
・徐々に大きくなってきている
・悪性腫瘍(悪性黒色腫=メラノーマなど)が疑われる

盛り上がっているかどうか、についての判断は、診察してくれる医師によって異なるでしょうが、誰が見ても明らかに盛り上がっていれば、基本的には「皮膚腫瘍」と見なしてくれると思います。

また、もとは平らであったものが徐々に盛り上がってきた、というエピソードを伝えれば、「皮膚腫瘍」であると見なしてもらえる確率は高まると思います。

このようなホクロの場合には、下手に美容外科に相談して高額な治療を売り込まれる前に、良心的な皮膚科や形成外科を受診するのが良いでしょう。

なお皮膚悪性腫瘍の代表である悪性黒色腫(メラノーマ)を疑う所見として、頭文字を並べて「ABCDE」と呼ばれる特徴が知られています。
・A: asymmetry 非対称性の病変
・B: border irregularity 不規則な外形
・C: color variegation 多彩な色調
・D: diameter enlargement 大型の病変(特に6mm以上)
・E: evolving lesions 経過の変化
※参考(写真あり):
   https://p.ono-oncology.jp/cancers/mela/03_feature/01.html
(Eには enlargement 急激な増大 や、elevation of surface 表面隆起 といった説もありますが、いずれも正しいと思います)

これらの所見が見られるようでしたら、美容どころの話ではなく、早く皮膚科を受診した方が良いです。


保険診療におけるホクロの治療

小さいものでは、局所麻酔下の手術(くり抜き法、もしくは切除縫縮)を行ってくれる可能性が高いと思います。
保険診療で炭酸ガス(CO2)レーザーによる治療を行ってくれる施設もあるかもしれませんが、保険診療の観点では、かなりグレーな診療になるかと思います(レセプトの返戻のリスクを負うのは医療機関であり、患者さんではないですが・・)。

大きいホクロ(たとえば6mm以上)については、保険診療の手術を行っても、それなりの長さの傷跡や変形が残ってしまう可能性があります。
保険適用外とはなりますが、まずはCO2レーザーで治療してみて、傷跡の残り方に応じて、傷跡を目立ちにくくするような治療(他の種類のレーザーや手術など)を検討してみることも、選択肢のひとつではあると思います。
(CO2レーザーで生じた傷跡を切除することは、もとのホクロを切除する手術と比べ、結果に大差は生じないと思われます。ただし、美容治療で生じた傷跡に由来する醜状を対象とした手術については、基本的には保険の適用外になるかと思います。)

なお上記の基準に当てはまる場合でも、受診先の皮膚科や形成外科の医師の判断で、切除術よりもCO2レーザーを勧められるケースも少なくないと思います。
例えば、数mm程度の小さいホクロ、目・鼻・口などに近く切除による機能的・整容的リスクが大きい場合が考えられます。
また皮膚悪性腫瘍が疑われるような大きいホクロについては、いきなり切除するのではなく、まずは「生検」という処置を行うことが勧められる場合もあります。

ちなみに形成外科ではなくて皮膚科を受診した場合、手術適応と判断されたとしても、施設や医師が手術を積極的に行っていなければ、形成外科の受診を勧められることもあります。

逆に皮膚科ではなくて形成外科を受診した場合、医師が皮膚病変の診断に確信がもてなければ、先に皮膚科を受診することを勧められることもあります。

治療を希望される「ホクロ」の状況によるところですが、
「そもそもホクロかどうか、悪いもの(悪性腫瘍)ではないかが心配」という場合には皮膚科を、
「治療の内容や、治療後の傷跡や変形について意見を聞きたい」という場合には形成外科を受診するのが良いでしょう。


保険診療の医療機関を受診することの利点

保険診療による切除ではなくCO2レーザーによる治療を希望されるような場合であったとしても、いきなり美容クリニックを受診する前に、お近くの皮膚科もしくは形成外科を受診して、治療の方針(CO2レーザーによる治療の妥当性)について相談してみることをお勧めします。
基本的に、美容クリニックでのカウンセリングはクリニックの収益を最優先しており、決してあなたのメリットの最大化を優先した提案をしてくれるわけではありません。
特に、ホクロの部位によって異なる肥厚性瘢痕を生じるリスクについて、正しく教えてくれる美容クリニックがどれぐらいあるかについては疑問がありますので、まずは保険診療のクリニックで相談してみた方が良いと思います。
初診料だけなら大した負担ではないでしょう。


このような情報が皆さんのお役に立てましたら幸いです。


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