私が考える理想の財産承継
20年間もの長きにわたり、数多くのみなさんの終活支援をする過程で、いつしか財産承継の理想モデルのようなものを考えるようになりました。折々に多少のマイナーチェンジこそありますが、基本部分はかたまっています。
ご参考までに紹介しようと思います…。
事あるごとに一貫して、「四捨五入百世代(50歳以上)にもなったら、いつ何が起きるかわからないので、一刻も早くそなえるべきだ」と繰り返していますが、そなえるべき事柄の中でも特に重要なのがおカネの問題です。
子どもたちにいくらぐらいの財産を残すのか。もちろん、残さないという価値観もありますが、円滑な老後や納得いく老後のためには子どものサポートが不可欠である以上、依頼事項に係るコスト相当分くらいは渡してあげるのが筋だと思います。
親子関係が良好、あるいは、親側にお子さんへの思い入れが強い場合には、やはりできるだけ多くのおカネを残してあげたいと考えるのではないでしょうか。そういう親世代の人たちに対しては、生前相続(*造語)をお奨めしています。要は、元気なうちからおカネを渡してあげるのです。そのほうがお子さんだってうれしいし、親への感謝の気持ちも大きいはずです。当然、親に対する態度や接し方にも、自然と感謝の気持ちが投影されることでしょう。
つまり、過酷な現代を生きる若い世代にとっては、親がこの世からいなくなる云十年後のことよりも、今が重要なのです。未来のおカネよりも今のおカネに価値があるのです。
なので、自分が描くエンディングまでの道のりを実現させようと思うのなら、早くからお子さんにもその気になってもらったほうがいいのです。その気になってもらうためには、おカネを前払いしたほうが絶対にいい。理由は、お子さんの側に、親の老後を支えようという覚悟が定まるからです。
あとはおカネの渡し方です。ムダな贈与税を払いたくないというのは当然でしょう。非課税が適用される贈与の仕方はいろいろあります。ですが、手続き的にめんどくさいこともまた事実です。
いちばんポピュラーなのが、「贈与を受けるひとり当たり、年間110万円までは税金がかからない」という、贈与税の基礎控除ルールです。これによって、子や孫に対して、比較的簡単に計画的におカネを渡すことができます。ですが、気を付けなければならないことがあります。それを怠ると、せっかくの工夫も国税当局から否認されてしまうことが増えているのです。
例えば、10年をかけて毎年100万円ずつ、わが子におカネを渡していくことを考えてみましょう。いわゆる「暦年贈与」とか「連年贈与」とかいうやつです。よくあるのが、毎年の子どもの誕生日とか、クリスマスとか、正月とかに、定期的に子どもの口座に送金するというやり方です。
ところが、このように連年贈与を行うと、贈与開始時点からの合計1,000万円の贈与意思があったものと解釈されてしまい、贈与税の一括納税を強いられるリスクがあるのです。
「ちょっと待ってよ!年間基礎控除額の範囲内でしょ?」
そんな声が聞こえてきそうですが、連年贈与の場合、最初の年に1,000万円の贈与があったものと見なされみなされかねません。とても厳しい話ではありますが、贈与税の申告が必要ない110万円以下であっても、税務署が待ったをかけてくる可能性大だと心得ておいたほうがいいでしょう。
では、どうするか?
対策としては、毎年ごとに親子双方に贈る意思と受け取る意思があった証として、贈与契約書を都度作っておくことです。あるいは、毎年の贈与金額をアトランダムに変動させていくことも有効です。今年は、999,568円。来年は、843,600円。再来年は、1,076,334円…といった感じです。
それから、未成年の相手に贈与する場合によくあるのが、贈与した人がそのおカネを受け入れた預金口座と預金通帳を管理していて、届出印まで自ら持っている…というケースです。
で、相手が成人したときとか、大学に入学したときにサプライズで渡してあげよう…みたいな感動的な話なのですが、これはアウトです。首尾よく非課税でおカネを渡せるかどうかは、税務署が本当に贈与の事実があったと認めてくれるかどうかの一点にかかっています。税務署に贈与を否認されないためには、その事実を示す証拠を残しておくことが重要です。
具体的には、贈与契約書を作成し、贈与の意思が双方にあったことを文書化にしておくこと。100%の安心を得るためには、公証役場で確定日付を取得するようにします。その上で、贈与する側の預金口座から贈与する金額を引き出し、もらう側の預金口座に毎年、不定期的に振り込むこと。もらう人は自分名義の預金口座をつくり、届出印は必ず贈与者とは違うものにすること。通帳、印鑑、証書などは贈与を受ける側が自ら管理すること。年間の贈与金額が110万円を超えないようにすること。以上です。
いかがでしょうか。かなり面倒臭いというのが正直なところかと思います。
つぎに、住宅取得資金の贈与非課税ルールです。住宅取得は生前贈与のチャンスです。子どもが住宅取得を行う際、700万円まで親が非課税で贈与できるという制度もあります。しかも、その住宅が「省エネ・耐震・バリアフリー」であれば、1,200万円までOKです。
この制度を使うと、年間贈与非課税枠の110万円と合算できるため、最大で1,310万円まで非課税で渡すことが可能です。直系尊属(両親や祖父母)からの贈与が対象であるため、おじいちゃんやおばあちゃんがお孫さんの住宅取得を支援する際にも活用できます。
ただし、贈与を受ける側が成人していて、かつ、年間所得が2,000万円以下であることが前提です。さらに、住宅の床面積制限、中古住宅の場合の築後年数制限に加え、住宅販売会社から、贈与税の非課税限度額の加算の対象家屋である事を証明する「住宅性能証明書」を交付してもらう必要があります。
続いて、教育資金に係る贈与非課税ルールの話です。直系尊属が教育資金を最大1,500万円まで非課税で贈与することができます。もらう側は30歳未満であることが前提で、銀行で教育資金専用の口座を開設する必要があります。実際に教育関連に係った領収書や振込明細書等のエビデンスを残しておく必要があります。また、30歳になった時点で使い切らなかった残金には贈与税が課されます。
また、結婚・子育て資金に係る贈与非課税ルールというのもあります。最大1,000万円までが非課税となります。ただし、結婚資金としては300万円までです。もらう側は、「結婚・子育て資金管理契約」を締結する時点で、20歳以上50歳未満であることが前提です。教育資金の場合と同様に、専用の口座開設が必要です。50歳になった時点で使い切らなかった残金に対して贈与税が課税されます。
これだけまとまったおカネを元気なうちから子や孫に渡せるので便利な制度ではありますが、かなり細かいルールや長年にわたる書類管理が求められるので、ちょっと複雑であることは否めません。自分のおカネを使うのに、こうまでも面倒極まりない手かせ足かせを強いられるのは、非常に不条理に感じますが、法律なので致し方ありません…(涙)。
さいごにもうひとつ、相続時精算課税についてご紹介します。相続時精算課税は、60歳以上の親が20歳以上の子どもに対して2,500万円まで非課税で贈与できるというルールです。通常の暦年課税110万円と比べるとかなり大きな非課税枠になります。
ただし、文字通り「相続の時に精算する」ことになるので、親が亡くなった時点で、他の相続財産と合算して相続税を計算する必要があります。仮に、亡くなった際の財産が1,000万円で、相続時精算課税を活用した贈与額が2,500万円であった場合、3,500万円が相続税計算上の総遺産額となります。
また、一度この制度を選択すると、通常の暦年課税(年110万円)は使えなくなるという決まりがあるため、長期的かつ計画的に行う必要があります。つまり、親が亡くなるまでの間に使い切ってしまったほうがいい…。
そう言えるかもしれません。でも、親がいつ亡くなるかなど神のみぞ知るですから、個人的には、あまり節税効果は感じていません。
さて、お待たせしました!
現時点で私が考える最強の贈与についてです。
結論。親がわが子のために家を建てて(あるいは購入して)、子に使用貸借させる! もちろん、親が亡くなった後は、子どもが相続します。
さて、どうしてこの方法がすばらしいのでしょうか?
数千万円単位で現金を持っている親に限ってのことですが、例えば、2,500万円の余剰資金がある場合、地方であれば戸建ての新築が買えたりします。1,500万くらいで中古物件を購入して、リフォームしてもいいでしょう。これを親がおカネを出して、親名義にしておくのです。そこにわが子をタダで住まわせる。 これが、いわゆる使用貸借です。
この方法のすばらしい点は3つあります。
1.子ども側にローンが発生しないので、その分、子にお金が残る(その分を贈与したのと同じ)。
2.不動産の価格はふつう下がっていくので、相続税的に有利。
3.子は、「親から与えられた家に住む」という事実が残り、親は生きてるうちから子に感謝される。
親が自分のおカネで家を建てた(購入した)のですから、子どもの側はローンを組む必要がありません。2,500万円のローンを組んで、金利1.5%、20年返済だと、おそらく年間の返済額は150万円くらいになります。トータルの返済額は3,000万円です。
逆に言えば、これが子どもの支出とならずに手元に残るわけです。子どもが40代・50代だとすると、まだまだ自分の子(親から見たら孫)に、教育資金など、何かとお金がかかる世代ですから、年間150万円が浮いたら大きいはずです。
さらに、110万の非課税枠の贈与も使えば、さらに有利になりますよね。事実上150万円の贈与に加えて、さらに110万円ですから、合計260万円/年です。 これはドデカい!
また、不動産の価格は下がるのが常識です。木造の建物は、20年もすれば評価額はほぼゼロです。土地だって、日本のほとんどの地域では下落していきます。そうすると、今70歳くらいの親が90歳で相続を迎えるとしたら、現在2,500万の不動産は、相続時の評価額は数百万円程度まで下がるのではないでしょうか。2,500万円が500万円くらいになったとしたら、2000万円もの評価減です。
子どもの側にしてみたら、本来であれば返済するはずのローン3,000万円を支出しなくて済むうえ、相続時に2000万円のも評価減が受けられるので、合計5,000万円のメリットがあることになります。
仮に現金で5,000万円を生前贈与しようとしたら大変ですよね。 110万円ずつなら45年もかかってしまいます。ですから、とても旨味のある相続対策と言えるのです。
そして、何よりも大きいのは、子ども側の親に対する感謝の念です。これ、老親にとっては何よりの喜びであるはずです。だって、仮に子どもが相続でもらうのであれば、当の親はすでに天に召されていますから「ありがとう」のひと言さえ直接聞くことはできません。
でも、生前に家を建てて(購入して)あげて、可愛いわが子を住まわせてあげれば、「お父さん、お母さん、ありがとう!」となりますよね。毎日毎日、自分は一円たりとも費用負担をせずに親名義の家に住めているわけですからね。
当然、親と接する態度も違ってくるはずです。相続で渡したら、感謝はされても死後のことですが、生前に渡すことができれば、すぐに感謝されます。これって、親にとっても大きいです。何よりも、子どもの側に親に対する感謝と尊敬の念。そして、こんなにまで自分に良くしてくれる親の老い先を、できる限り支えていこうという覚悟と責任が自然と根づくのです。
これぞまさしく、永遠の親子愛で紡ぐ魔法の終活に相応しい財産承継術だと自負しています。
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