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介護が必要な親は障害者?

ある企業で、介護費用の負担軽減をテーマにお話をしてきました。というのも、同社の人事課長によれば、全社員の約10%の親御さんが、すでに要介護認定を受けているとわかったからです。ただ、社員の平均年齢が40歳以上の場合、大体こんな割合になるのですが…。

セミナーには30人ほどが参加してくれたのですが、『特別障害者手当』と『所得税の障害者控除』については、なんと全員がご存知ありませんでした。さらには、要介護認定を受けた親御さんの実家に出向く際に、飛行機や新幹線の割引を受けられることも! あと、フェリーの乗船料金ももちろんです。つまり、要介護状態であれば、障害者福祉もしくは精神保健福祉の対象にもなり得るわけで、そうなればダブルで恩恵を受けられるのですから絶対にお得です。

ということで、タイトルの質問の答えは、社会的な位置づけとして、『要介護者も障害者』ということになります…。

で、障害者の優遇措置について整理していきましょう。この、『措置』…という表現は好きではないのですが、まぁ便宜上ご勘弁ください。

まず、特別障害者手当ですが、障害者手帳をもらっていなくても問題ありません。主治医に『特別障害者手当用診断書』を書いてもらって、自治体の障害福祉課に提出するだけです。支給要件は、要介護4以上で在宅療養中の人です。

ただし、注意してほしいのは、『在宅』というのは別に自宅でなくても構いません。民間の老人ホーム、サ高住、グルホも介護保険法においては在宅扱いですからね。対象にならないのは、特養・老健・介護医療院といった公的施設のみです。

このあたりのことを知らない医療関係者や地方公務員が結構いて、「ご自宅じゃないとダメですね」とか、「この程度じゃムリですね」とか、いけしゃあしゃあと言ってくる場合があるので気をつけましょう。別に、そういう人たちが判定する問題じゃありませんので。審査するのは都道府県です。

診断書があって、障害者本人の年収約560万円以内、配偶者もしくは扶養義務者の年収が850万円以内であれば、審査はクリアされるはずです。支給金額は月額27,980円と、かなりデカいです。毎年2月、5月、8月、11月に三ヶ月分が指定口座に振り込まれます。

つぎに、所得税の障害者控除ですが、障害者である親族を扶養している方は、所得税の障害者控除を受けられます。要支援~要介護2までなら27万円。要介護3以上の特別障害者のなら40万円。同居している場合には75万円が所得金額から差し引かれます。なお、障害者控除は、扶養控除の適用がない16歳未満の扶養親族がいる場合でも適用可です。

この障害者控除は、過去5年に遡って適用することができるので、要介護3以上で、扶養者の所得税率が30%の場合であれば、40万円×30%×5年で、60万円も戻ってくることになります!

さいごに、障害者手帳についてです。要介護状態の人のなかには、障害者手帳をもらえる人もいます。主治医に『身体障害者診断書・意見書』もしくは『精神障害者保健福祉手帳用診断書』を書いてもらって、自治体の障害福祉課に申請します。

その結果、障害者(1級~6級)に認定されると「障害者手帳」の交付を受けることができます。ただし、認定日は、初診日から1年6ヵ月経過時点からなのでちょっと時間はかかりますが、メリットが大きいのでトライすべきだと思います。

障害者手帳があれば、税制優遇は受けられるだけでなく、新幹線は乗車料金5割引きだし、飛行機は25%オフだし(ただ早割の方がお得)、公共交通機関やタクシーも割引されるし、携帯電話や水道料金だってそうだし、路チューOKだし、スピード違反ほぼほぼ見逃してくれるし、NHKの受信料他にもいろんな割引あるし、学生なら障害者枠で進学・就職できる確率がグンとあがるし…。結構いいことだらけです。

もう時効なので書きますが、私も若い時分には、障害者手帳を持ってる後輩のクルマ(クルマにも当然、障害者マークあり)で繁華街に出かけていって、お店の真正面に駐車して飲んでたこともありましたっけ。申し訳ないです…(謝罪)。

とにもかくにも、ここまで書いてきたことはあまり知られていないし、障害者手帳なんて持ちたくないという人も多いのですが、介護は長丁場になるので絶対に申請すべきです。


ところで、厚労省障害福祉課『障害福祉分野の最近の動向』(令和4年3月)によれば、日本の障害者総数は964.7万人。全人口の約7.6%です。そのうち半分以上が高齢者です。内訳は、身体障害者が436.0万人、知的障害者が109.4万人、精神障害者が419.3万人となっています。障害者数全体は増加傾向にあって、近年の顕著な傾向として、精神障害と障害児(18歳未満)の伸び率が高いことがあげられます。

また、認知症の患者数は600~700万人、MCI(早期認知症)の人が300~400万人と言われているので、こちらもまた1,000万人です。認知症の人がどれくらい精神障害者手帳を交付されているかデータがありませんが、イメージ的には、国民の10人にひとりは障害者ということになります。かなりインパクトのある数字だと思いませんか?


とちもセンシティブなテーマではありますが、DE&Iの時代であることは認識した上であえて書いてしまうと、先天的に障害のあった人たちも含め、子どもというのは計画的に作るのがベターだと、私は思っています。親であれば遺伝ということまで含めて熟考した上でジャッジすべきなのかと…。

いろいろな相談を受けてきて感じるのは、結婚でも出産でも介護でも、やっばりプランしておくことがとても大切だということです。障害を持ってうまれてきたお子さんや、親の介護をせざるを得なくなったお子さんの人生が円滑にいくようにと配慮することは、どう考えても親の役目だと思うのです。少なくとも、わが子の生活や人生に支障が生じるようなことは避けるようにしてあげるべきかなと…。まぁ、このあたりの価値観は、同業(社会福祉士)の間でもわかれるところです。

正直に言ってしまえば、そもそも社会福祉士のなかで私は亜流です。どういうことかと言うと、福祉や医療の現場では、(相談者よりも)当事者ファーストが大前提です。それに対して、私の事務所では相談者ファーストを徹底しています。介護がテーマであれば、(子どものことよりも)要介護状態にある親のこと。親の障害がテーマなら、(親のことよりも)子どものことを優先にして対応を決めていくわけです。

もちろん本当は、親子双方にとって最善な問題解決法を提案したいところではありますが、それがむずかしい場合もあるわけです。郎ん介護について言えば、子どもが複数いれば尚更のことです。『相談者=親世代』であればノープロなのですが、実際にはお子さんのうちのひとりが相談者であるケースがほぼすべてですから、基本的に、相談してきたお子さんにとってベストになる解決策を提示しているのが現状です。

また、あっさりと「親」とか「子」とか言いましたが、別に高齢者だけが親ではありません。現実問題としては、相談者は子でもあり親でもあるわけです。つまり、親の介護問題で苦労しているお子さんは、同時に、自分に介護が必要となった場合のことについてもプランしておいてほしいのです。実際のところ、80歳の老親が要介護になってしまった50歳の人よりも、50歳の親がそうなってしまった20歳の若者のほうがはるかに大変です。インパクトがデカいです。


ということでまとめるとするならば、そなえあれば憂いなし。そなえるのであれば、早いに越したことはない…ということになるでしょうか。

社会福祉士である私としては、もちろんリスクが現実のものとなってしまった際の問題解決をしていくのが役割なわけですが、それ以上に重きを置いていくべきなのが、転ばぬ先の折れない杖を提供していくことだと認識しています。この点もまた、多くの医療や介護の現場の人たちとは異質な点かもしれませんね。


さあ。今年も残すところ50日余りとなりました。日に日に秋も深まって、気温も下がっていくと思います。冬になると、介護に絡んだ哀しい事件や事故が増えてきます。夏場には限界状況に耐えられる人も、冬場に同じ状況になってしまった場合には乗り切ることができず、残念な行動に出てしまいかねない…ということです。


もしも読んでくれたみなさんのまわりに、運悪くそういった苦境にある誰かがいたとしたら、是非教えてあげてください。

「ひとりで抱え込まずに、相談援助の国家資格である社会福祉士を頼っていってみたらどうか。地域包括とか社協とかに行けば、必ず社会福祉士がいるから。本物の社会福祉士に出会えれば、きっと問題解決に力を貸してくれるはずだよ」と。




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