【老親リスクを回避せよ10】終活ブームのウソ

老老地獄を回避する術はないものでしょうか。

痛ましい事件の被害者になってしまった人たちの近親者は、異口同音にこう言います。

「まさか、自分の親(配偶者、親戚)がこんなことになるとは思ってもみなかった」

でも、果たして本当にそうでしょうか。

巷では、ここ数年、終活ブームが花盛りです。早い段階から、元気なうちから老い支度をしておこうという機運が高まっています。新型コロナによる孤立死の急増で、その機運に拍車がかかっています。関連する本も溢れています。ワイドショーやバラエティ番組にも、よく取り上げられています。テレビのみならず、ラジオ、雑誌にしても、終活をテーマに掲げさえすれば、それなりの反響を得ることができると言われています。B層と呼ばれる人たちが、こぞって終活ブームに乗っかるからです。

問題意識の低い人たち、問題意識のない人たちだって、さすがにこうした話題を小耳にはさむ確率は高いはずです。ならば、自分や家族にそんな事態が起こったとしてもおかしくはないと、漠然とでも意識することがあるのではないでしょうか。まったくないとしたら、もう精神が死んでいるも同然です。私はそう思う。

でも、老いの問題に対して問題意識の高い人たちにだって、老老地獄に墜ちてしまうリスクが潜んでいます。彼らは積極的にその手の本を買います。テレビで紹介されれば、タイトルをメモ書きして本屋で注文します。ときに、地域の公民館で開催されている啓発講座にも顔を出すでしょう。

少子化の影響で学生数不足で経営難の大学が、苦肉の策でオープンカレッジと称してシニアたちをけしかけるようになって久しいですが、かなりの金額を払って通学するシニアも多いのです。学ぼうとする姿勢は現役学生の比ではありません。真剣そのもの。講師の話に大きくうなずき、そしてわかった気になり、満足して、連れ立った友人・知人たちと、帰りがけにお茶してにぎにぎしく会話を楽しんで、買い物をして帰路に着く……。

そしてその頃には、老いに備える意識も知識もかなり薄れてきています。翌朝になればかけらもない。そして、これではいけないとまた同じことを繰り返すわけです。

そうだからこそ、終活ブームを煽る側の人たちにとってはおいしいのです。ゴールがないビジネスはもっともおいしい。同じネタを何回でも使いまわして、コストをかけずに収益を上げることができるからです。コンサルティングファームのビジネスモデルと同じです。かさにかさにかかって、シニアに寄ってたかってくるのです。

もちろん、家の外に出て、自分の足で移動して、人と接して、楽しい時間を過ごすことには価値がある。老後の暮らしに潤いを与えてくれるという意味においては有効だろう。しかし、こうしたことが本当の意味での「終活」になっているかというと、残念ながらちがうというのが私の持論である。

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