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【医療マガジン】エピソード7 蒼と百田のランデブー(2/4)

この時期の直子は、『しらこわ』の年末イベント、「究極のかかりつけ医大賞」に向けて猪突猛進していた。華乃宮小町から伝授されたチェックシートを手に、週に2件のペースで近隣の診療所を「風邪気味で」という理由で受診していた。かかりつけ医4人のうち、かろうじて眼科の若いドクターだけが「究極のかかりつけ医」の候補だった。
 
が、これでは弱い。『しらこわ』の「究極のかかりつけ医大賞」にノミネートされるためには、もっとインパクトのある医者を探し出さねばならない。品定めを始めた当初は緊張を覚えていたものの、今では何の不安もなくなっていた。むしろ、ウキウキワクワクして楽しかった。チェックリストは、すでに完全に頭の中に刷り込まれていた。とにもかくにも、百田寿郎にナマで会いたいという目標もしくは恋心が、直子に若さと情熱をもたらしていた。毎日が楽しくて、充実感に満ち満ちていた。
 
しばらくすると、仲良し三人組の素子と美子もこの話に便乗することになった。そんなふたりに、直子は、華乃宮小町が乗り移ったかのように、事あるごとに繰り返し伝えていた。
 
「挨拶は人間関係の基本よね。医者は偉いんだから患者に名乗らなくていいなんて法律はないわよね。ましてや年長の私たちにね。最初が肝心よ。こっちが名乗ってるのにスルーして診察に入ろうものなら、『ちょっとお待ちなさいなドクター、あなたのお名前なんてぇの!』って具合に言ってやりなさいよ。ひとりの人間対人間として向き合える関係じゃなければ、あたしのかかりつけ医になんて死んだってなれませんよっつうの!」
 
はじめての品定めにドキドキしていた素子と美子には、
 
「日本の医療制度というのは保険証さえ持っていれば、日本全国どこの病院だろうが診療所だろうが、自由に受診する権利があるの。かかりつけ医がいるからといって、遠慮は一切不要なの。わかるかしらぁ?
 
私なんてね、果たして今回の医者はちゃんと名乗ってくるかしらって、ワクワクしながらその瞬間を待つようになっちゃったわね。一体どんな医者がどんな登場の仕方をするのか、楽しみで仕方がないの。で、実際に対面してみて予想が当たったとき、ハズレたとき。いずれにせよ、ゲーム感覚で楽しい思いができるんだから。
 
まぁとにかく、よ。患者と医者もひとりの人間同士なわけでしょ。最初の出会いというのはその後の関係を決定づけてしまいかねないわ。多くの場合、患者はなにかしら苦痛があって医者に会いに行くわけじゃない?だったら、そんな迷える子羊に対して医者はどのような言動をしたらいいのか。これは極めて重要な問題であるはずよね。でもまぁ、これまでのところ、このあたりのことには無頓着な医者ばかりだわねぇ。
 
百田寿郎さんが言っていたわ。『残念なことに、診察室で患者にみずから名乗らない医者が本当に多い。仕事上のことで訪問したときでさえ、半分の医者は名刺も出さない。信じられない。もしかすると、日本の医者の挨拶レベルは、おそらく小学生の子どもよりも低いのではないかと感じた時期があった。そんな医者の常識に慣れるまで結構な時間がかかった』ってね。まったく、困ったもんだわよねぇ。まぁそんなわけだから、ゲーム感覚で医者を人間観察すると思えば、緊張なんてしなくなるんじゃないかしら。ねっ。そうでしょう?」
 
と、口調まで小町そのまんまである。
(To be continued.)

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