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【医療マガジン】エピソード3 妃菜と百田の出会い(後編)

2杯目のオレンジペコを飲み干すと、直子は一時停止ボタンを解除した。クールな美しさを振りまきながら、小町のシャープなベシャリが繰り広げられる…。
 
でも、この番組を観ている大勢の人たちのたっくさんある価値観ごとに、逐一、良い医者の判断基準を提示するのは非現実的よね。だからね。この限られた時間の中では、患者側にとっての「最大多数の最大幸福」を追求していくしかないってぇこと。簡単に言っちゃえば、あなたたちの幸せな人生に貢献してくれる可能性が高い医者をどう見極めるか。そんなところかしら。
 
現代を生きる私たちの死因の殆どは生活習慣病と称されるものなの。この世に生を受けてから長いこと人間を続けるうちに、私たちの身体には少しずつガタがくるというわけ。そして中年と言われる年代にさしかかると、糖尿、高血圧、高脂血症、骨粗鬆症等の症状が出始める。

そしてその延長線上には、日本人の三大死因であるがん・心筋梗塞・脳梗塞といった影がちらついてくるのよね。逆に、予想外の感染症や事故・ケガ・自殺などで亡くなるというのは、現代社会においては少数派なの。だから、あなたたちも含めた「最大多数の患者」とは「生活習慣病の症状を既に持っている人および予備軍」と定義するこしにします。
 
そして、美容や健康について、これまでに多くの相談を受けてきた経験から、そんなみなさんがこれからの人生に対して抱いている願望の最大公約数を設定するとこうなるわね。それは、「50歳過ぎくらいから何かしら生活習慣病の症状が出てきたものの、日常の活動に支障がない程度に症状をコントロールしながら、最後のさいごまで人生謳歌したい」ということ。たぶん、ほとんどのみなさんは賛同していただけるんじゃないかしら。これを具体的な日常生活の過ごし方に書き換えるとこうなるわね。
 
私たちにとって幸せな人生とは、「私たち自身が決めた寿命までの長い歳月を、然るべき範囲内で、好きなように自由に過ごせる人生」。健康上あるいは身体上多少の不具合があったとしても、明るく楽しく前向きに毎日を送っていける。これが長生きしなければならない時代の幸せな生き方なんじゃないかしら。
 
例え寿命だけを無理して延ばしたところで、自分の好きな食べ物を自分の口で食べられない、美味しいお酒も嗜めないというのでは人生を堪能しているとは言いがたい。自分の足で散歩したり、お風呂に入ったり、友だちとお喋りしたり、映画や芝居を観たり、旅行にいったり…。若い頃と同等とはいかないまでも、心身ともに愉しく潤いのある日々を過ごすことができる。それこそが健やかで幸せな熟年ライフというものではないかしら。
 
そう考えれば、最大多数の患者にとって理想的な医者とは、こうした患者の幸せを実現できるように応援してくれる医者ということになるでしょお?

だから…。

百田寿郎さん……。あなた、大正解!
そして、鶴田妃菜さん。あなたも核心をついてる。お見事! 

他の人も、具体的な定義がされていれば及第点です。みなさんそれぞれの価値観があるでしょうからね。逆に、「腕がいい」とか「患者本位」とか言ってる人は、実に表面的で抽象的で情けない限り!
 
気づけば、百田と鶴田が笑顔を交わしながらシェイクハンドしているではないか。直子、ジェラシー!
 
 
でも、いいかしら。ここからが重要なんですよ。
こういう視点から、あなたたちのまわりを見渡してみてごらんなさい。果たして、これから先の長い長い期間にわたって、みなさんの健康や幸福に貢献してくれそうなドクターがどれだけいるかしらね。もしかしたら、私の本か何かを読んで、受け売りでホームページとかに書いてる医者もいるかもしれませんね。まぁ、知ってる限りは見当たらないけれど。結論を言ってしまえば、なかなか見つけることはできないでしょうね。いまの日本という国には、医者側にもいろいろな事情があるから…。

それでも私は、みなさんが100歳まで健やかで幸せな日々を送っていくためのパートナーとなり得る医者を、なんとか探し当ててほしい。心からそう願っているわ。
 
だから…。医療との向き合い方や医者とのつきあい方をろくに考えずに、たまたま出会った医者に盲従してしまったり、必要もないのに医者漁り(ドクター・ショッピング)をしてムダな時間とおカネと健康を損なう人たちが許せないの。虫唾(むしず)が走るわね。
 
たしかにいいかげんな医者も多いけれど、それ以上にいいかげんな患者が多いこともまた事実。ご覧になってるみなさんも、胸に手を当てて考えてみてほしいわよね。何も考えずに、受け身の姿勢で、ただ漫然と惰性で医者通いを繰り返してるようなダメ患者さんたち。

そんな人たちを悔い改めさせて、少しでも円滑な人生を過ごせるように…。そう思って、今回、『しらこわ』からの出演オファーを受けることにしたの。
 
そして。百田さんと鶴田さん。あなたたちの番組であれば、私でよければまた呼んでくださいな。知性と感性の波長がある程度は合うと思えたので」
 
「ありがとうございます。とても光栄です。華乃宮小町さんのお話の内容はもちろん、その際立ちすぎるキャラは、『しらこわ』のコンセプトのために存在しているにちがないと思えるひと時でした。是非またお越しください。ねっ、鶴ちゃん」
 
「はいっ。なんか、視聴者のみなさんの人生を有意義なものにするために、具体的に役に立つお話を、こんなにドラマティックにお話しいただける方はなかなかいないと思いました。感動しました!」
 
小町は涼しげにひとつ頷くと、カメラ目線をバシッとキメて口を開く。
 
「じゃ、今回の話をまとめておきましょう。もしも、これから先も、私を『しらこわ』に呼んでくださるのなら…。生活習慣病の症状を既に持っている人および予備軍のみなさんのために、『50歳過ぎくらいから何かしら生活習慣病の症状が出はじめたとしても、日常の活動に支障がない程度に症状をコントロールしながら100歳まで人生をエンジョイできるよう具体的に実践指導してくれるドクター』を百田さん・鶴田さんと一緒に探していくことにしましょう。そして、そんな良い医者が全国に一人でも増えるように、『しらこわ』から情報発信していきましょう。以上です」
 
すばらしい! 直子、感激。
 
鶴ちゃんが締める。
 
「本日のスペシャル・ゲストは、華乃宮小町さんでした。それでは、CM前にキメていただきましょう。お願い致しますっ!」
 
「散る桜 残る桜も 散る桜…。人生100年時代の老い先案内の女神、華乃宮小町、見参っ」
 
そして一連のパフォーマンスからの、バッキュ~ン!である。
 
スタジオの拍手喝采がCMに切り替わり、直子は考える……。
この女神のことを、自分はかつてどこかで目にしていたということか。だから彼女が夕べの夢に出てきたということなのか。そりゃあそうだろう。今朝がたの夢の中で出てきたキャラクターが、そのまんまリアルな世界に登場するなどということはあり得るはずがない。きっと以前にどこかで華乃宮小町を観る機会があったんだわね。

そう自分に言い聞かせながら、直子は摩訶不思議な感覚の中をたゆとうていた。
 
 
【資料室だより】
「1年以上継続して通院した結果、症状は改善しましたか?」
生活習慣病の症状を理由にクスリを飲み続けている後期高齢者100人にこう訊いてみたところ、YESはわずか12名でした。ただし、症状が改善した後も通院を続けているわけですから、根治したとは言えません。

最も多かった回答は、「良くなったり悪くなったり」で46人。ついで、「何とも言えない」が28人。残りの14人は驚愕の「改善が見られない」。

にもかかわらず、同じ医師のもとへ通い続けているという驚天動地!
正直、私には理解ができません…。

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