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【医療マガジン】エピソード8 永太郎と直子の出会い(後編)

直子はもはや、勝田博士の講義に夢中になっている女学生だった。

「すごいわっ! 患者大学よ、患者大学!」

瞬間的に、華乃宮小町の言葉がよみがえってくる。
 
「ただ単に、血圧だの血糖値だの、目先の数値を調整するために薬を処方する医者がいかに多いことか。こういうのを対症療法と言うんです。こんなことを何年も続けていたら、私たちのカラダはどうなると思う?

クスリ漬けですよ、クスリ漬け! みなさん、イメージできるかしら? 
体内の水分が減っていく高齢者の場合、クスリを分解したり排泄したりする機能が低下しているから、来る日も来る日も何種類ものクスリを飲み続けていれば、その残骸がカラダの中に残ってこびりついて、挙句の果てに悪さをするんです。
 
最近では、過度なクスリの服用が認知症を引き起こす要因であることもわかってきているんですからね。要は、私たちの不健康を根本的に改めない限り、何の解決にもならないということ。私たちにとって本当につきあっていく価値のあるかかりつけ医っていうのは、目先の対症療法ではなく、病気の原因である悪しき生活習慣を改めさせて根本から治療してくれる医者なんだってぇこと。ここを理解しておかないと、結局大変な目に遭うのは患者のほうなんだということを、しっかり肝に銘じておく必要がありますよ。いいですかぁ~っ!」
 

また、井之頭全人医療クリニックでは、患者さんをサポートするためにチーム医療を行っているとのこと。チームメンバーは、週一回のカンファレンス、月一回のグループワーク、専門学会の年次大会を通じて反復学習することで一貫性のある全人医療の実践を目指しているのだそうだ。
 
具体的には…、クスリを乱用しない全人的医療を実践指導するドクターを中心に、カウンセリングを行う公認心理士、運動療法と看護ケアを行う看護師、食事改善に向けた栄養指導を行う管理栄養士、免疫力を高めるカラダのツボを刺激したりストレッチ指導を行ったりする鍼灸師、音楽の力で健康維持や機能回復を指導する音楽療法士。他にも、温泉療法やヨガを体験できる環境まで整っている。これだけのプロフェッショナルがチーム一丸となって、ひとりの患者さんをサポートするのである。
 
たまたま途中に顔を出した公認心理士からは、「カラダの問題のみならず、心理的なことや環境にかかわること、さらには患者さん個々の生きがい(生きる意味とか目的)に気づかせてあげることで、その人をトータルに健康にして差し上げたいという気持ちで、日々、患者さんと向き合っているんですよ」という話を聴くこともできた。
 
勝田博士は、さいごにこう結んだ。
 
あなたにしかできない健康な生活を取り戻し維持できるよう、私たちと一緒に努力していきましょう。そして、あなたにしか創れない「あなたらしい人生」を、是非、花開かせてください。
 
 
あっという間の15分だった。こうした話をはじめて訪れた患者さんすべてに対して、勝田が自ら聴かせているという。信じられない話だ。しかも、通院を始めたら、自動的に「患者大学」を受講する権利まで手に入る。クスリという名の化学物質の力で数値コントロールして健康的に見せるのではなく、生活そのものを抜本的に見直し改善させることで、おおもとの原因を取り除いて真の健康を取り戻すことのできる場所。それが井之頭全人医療クリニックなのだ。
 
勝田博士と別れた後は、公認心理士の女性が各フロアを案内してくれた。6階は診察室と検査室だったが、5階は学習とエクササイズの空間。そして、驚いたのが4階で、ここは研究の空間だ。莫大な量の検査データや症例を分析し、新しい薬や治療法の開発に取り組むシンクタンクである。
 
 
医者の品定めをしに訪れたはずの直子だったが、結果的には『しらこわ』での学習の一環で、社会見学に来たかのような不思議な感じだった。問診の結果、クスリを処方されなかったばかりか、初診料以外の費用は一切発生しなかったのだから驚きだ。
 
帰り際に受付で渡された「お困りごとホットライン」のチラシを見て、ダメを押される思いだった。なんと、同院の患者さんたちは、24時間365日対応の電話相談サービスを利用できるのである。健康上のことだけではない。日常的な困りごと、老い先へのそなえのこと、人間関係のこと、エンディングのこと。どんなことでもひとつの窓口で相談に乗ってくれる。

おまけに、必要とあらば、費用は発生するものの、実務の代行にまで対応してくれるという充実ぶりで、子どもたちと離れて暮らしている親世代にとっては、まさに痒い所に手が届く盤石のサポート体制が敷かれているのだ。
 
 
家を出る前に『しらこわ』で話題になっていた、かかりつけ医の相談体制のことがフラッシュバックする。華乃宮小町は言っていた。
 
「厳しいことを言うようですが、いのちを預かる医者という仕事においては、24時間365日、いつでも相談に対応できる体制を用意していてくれるのがあるべき姿じゃないかしら。診察を終える際には、『何かあったら休日夜間でも気にせず連絡してください』と言葉を添えてくれる。

さらに、健康上の相談以外にも対応すべく専門スタッフや窓口を設けてくれていたら申し分ないわね。だって、いくらカラダの不具合だけが改善されても、他に不安や心配事を抱えていたのでは本当の健康にはなれないものね。本当に望ましいかかりつけ医というのは、そういうことまで含めてよ~く患者のことを理解してくれていて、実際に対応してくれる医者であってほしい。そう思うわね。まぁ、なかなかいないでしょうけどね。そんな理想の医者は……」
 
小町節が炸裂だ。
 
勝田永太郎…。全人医療…。
そうだ! つながったわ…。完全につながった!
 
直子は、わが意を得たりといった表情で、品定めチェックシートを記載すべく、カフェをさがしながら吉祥寺駅方向を目指すのだった。

【参考図書】
何がめでたい! 日本人の老後 医者には決して書けない「老後の十戒」 | 山崎 宏 |本 | 通販 | Amazon

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