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【医療マガジン】エピソード9 観音寺暁子と勝田永太郎の出会い(後編)

「ん? 全人的? げっ。全人的っ?」
 
どこかで聞いたような…。あっ!これでしょ、これぇ。全人医療クリニック~。そう言いながら、今朝もらってきた井之頭全人医療クリニックの印刷物をパソコン画面にむかって懸命にヒラヒラと掲げて見せる直子だが、当然、スタジオには届かない。
 
隙のない華乃宮小町がタイムリーに解説する。
 
「全人的という表現は、ただ単に病気を診たり、特定の臓器を調べたり、そういう身体的な観点からだけ患者を診るのではなくって、その病気に罹患した患者そのものを全体的に観察しながら診療しなさいという意味なのね。
 
たしかに、私たちの体調不良や異変というのは、必ずしも身体的な要因のみならず、環境的なもの、心理的なもの、精神的なもの。そういうすべてのものが相まって、症状として表れてくるんだって・・・、みなさん思うでしょう? 
 
そういうところまで配慮しながら診療に当たることを、統合医療とか、全人的医療とか表現してるわけ。病気や症状や特定の臓器を診るのではなく、患者全体、その人を全体的に診る。ある意味、かかりた医にもっとも求められる条件かもしれませんね」
 
ここですかさず、観音寺。
 
「その通りだと思います。小町さんの話を聴きながら思い当たったことがあります。『かかりつけ医にいろいろなことを相談できたらいいのに…』という患者のニーズ・ウォンツに応えて、私どもに『お困りごとホットライン』を委託してきた診療所はごくごくわずかです。でも、そのほとんどが、初診の時から患者さんの生活や人生を理解するために時間をかけて聴き取りをしたり、再診以降も、適宜カウンセリングを通じて治療の評価や検証を行ったりしながら、次のアクションに繋げていく…。そんな診療スタイルを敷いているんですよね。
 
例えば、吉祥寺にある某診療所では、そんな診療スタイルを全人的医療と呼んでいました。で、病気の原因はすべて患者がこれまでに送ってきた生活や人生の中にある。だから、本当の意味で病気を取り除き、健康を取り戻せるのは患者本人しかいない。つまり、患者自身が治療の主体であり、医療者はそれを側面からサポートするに過ぎない。だから、医療者は決して驕りたかぶってはならない。患者にはその自覚を持ってほしいとおっしゃってました。その意味で、医者中心ではなく、患者中心医療なのだと聞いて、なるほどと納得した記憶があります」
 
全人的医療に、患者中心医療…ですかぁ。これって、もしかすると、「究極のかかりつけ医」選びの両輪かも、ですね」と鶴ちゃん。
 
「米国では、かかりつけ医というのは「ホームドクター」に当たるんだけれど、クライアントの家に出向いていって、いろいろな会話をしながら診療をする関係の中で、ひとりの人間同士としての信頼関係が深まっていくのよね。鶴ちゃんが言うように、全人的医療と患者中心医療というのは、クルマの両輪かもしれないわね」
 
時ここに至って、直子は確信する。
 
つながった・・・。すべてが・・・。完全につながった!
 
観音寺暁子が例として持ち出した吉祥寺の診療所というのは、今朝おとずれた勝田永太郎にちがいないと。なんというラッキー。自分はとんでもない当たりくじを引いたのだと。
 
よし。井之頭全人医療クリニックで、「究極のかかりつけ医大賞」にエントリーするぞ!
 
 
『しらこわ』の終盤では、すでに「究極のかかりつけ医大賞」には、すでに全国から100近いエントリーが届いていること。エントリー締め切りまで3週間を切った今、ひとりでも多くのドクターをエントリーしてほしいということ。応募書類の中から「究極のかかりつけ医」候補を10人に絞り込み、クリスマスイブに最終選考会をナマ配信すること……が改めて告知された。
 
 
直子はパソコン横のカレンダーに目をやりながらスケジュールを確認。一週間以内に応募書類を書き上げて投函することを決意した。そして、姿勢を正した上で、いつものようにエンディングの儀式に臨む。
 
百田のマイルドな表情がアップになる。
 
「それではみなさん。よろしいですかぁ~っ。今夜も明日も明後日もぉ~、ムゥイビエン!」からの、左手のピストルで、「バッキュ~ンッ!」
 
 
【資料室だより】
「かかりつけ医に満足していますか?」
後期高齢者100名にそう訊いてみたところ…。
★YES・・・14名。
★どちらかと言えばYES・・・45名
★どちらかと言えばNO・・・33名
★NO・・・8名

この結果をどう捉えるかはむずかしいところです。全体的には6割近い人が「満足している」ことになりますが、ほとんどが消極的満足だからです。一方で4割超の人がかかりつけ医に満足していないという事実。医療に携わる者としてはスルーしていい調査結果ではないと思います。

続けて、満足していないと回答した41名に対して、「にもかかわらず、かかりつけ医にしている理由は何ですか?」と訊いてみました。複数回答可としました。結果は…、
① 途中でヤメられないから(20人)
② とりあえず、なんとなく(16人)
③ クスリをもらいたいから(15人)
④ 家や職場に近いから(14人)
⑤ 土日や夜間もやっているから(9人)

何というか…。
医師のみなさん、これでいいのですか? 臨床医としての誇りとか、ないのですか? 医療ビジネスに関わるものとして、なんだかとても悲しい気持ちを禁じ得ない私です…。

【参考図書】
何がめでたい! 日本人の老後 医者には決して書けない「老後の十戒」 | 山崎 宏 |本 | 通販 | Amazon

Amazon.co.jp: 目指すは!“かかりつけ医”より“かかりた医”でしょ!: 患者も医者も知っておきたい20の“常識” : 山崎宏: 本

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