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【医療マガジン】エピソード9 観音寺暁子と勝田永太郎の出会い(前編)

さて、井之頭全人医療クリニックの品定めから帰宅した直子は、ネットサーフィンしながらうとうとしてしまったらしい。ハッとして目を覚ますと、時計の針は午後5時半を少し回ったところだった。
 
あぶない、あぶない。
 
この日は午後6時から、『しらこわ』のナマ配信があるのだ。今の時代は便利なもので、仮に見逃してしまったとしても、あとでいくらでも観ることができる。が、あこがれの百田寿郎とジャストナウを共有できるナマ配信には、ナマであるがゆえのドキドキワクワクがある。その渦中に身をゆだねることが、週に一度の贅沢な時間。直子にとっては、ドーパミンやセロトニンといった快楽ホルモンと、適度なアドレナリンが分泌されるゴールデンタイムなのだ。
 
番組の冒頭、いつものように百田と鶴ちゃんの和やかな掛け合いが展開される。
 
「もうめっきり秋になってきましたよねぇ」
「そうですね。鶴ちゃんの場合、秋といえば何の秋ですか?」
「ええ~っ。そうですねぇ…。松茸の秋、ですね!」
「面白いですね~っ!ふつうなら、食欲の秋とかになるんだと思うんですけど、ピンポイントで松茸の秋とは…」
「大好きなんです!あれだけは、この季節に欠かせません。ところで百田さんは、何の秋ですか?」
「私の場合は、やっぱり読書の秋でしょうかね。秋の夜長に本を読むというのは風流韻事ですよね、私にとっては。ただ…」
「ただ?」
「夜更かししてしまうと、明け方なんてかなり冷え込みますからね。窓を開けた途端に、『ドックショ~ンッ!』なぁ~んてね」
「あはははは。今日のは面白いかも~」
「まぁ、秋だけに、「オ~サムッ」(オータム:秋)となるわけでして…」
「百田さん、さえてるぅ~」
「オホン!お褒めにあずかりましたところで、今日も楽しくお過ごしください。『知らなきゃこわ~い現代ニッポン10の真実』。鶴ちゃん、今日のテーマとゲスト講師の紹介をよろしく哀愁で~す」
 
「はいっ。年末の『究極のかかりつけ医大賞』に向けて、本日も医療編です。テーマは、かかりつけ医の説明力。ゲスト講師には、美容と健康のカリスマで、老い先案内の女神・華乃宮小町さん。そして、濱(ハマ)のお困りごとクイーン・観音寺暁子さんをお迎えしています。そしてひな壇は、いつものように、いろいろなブレイク前の芸人さんたちでぇ~す」
 
「おいおい。そりゃひどいでしょお~。おいおい、ちょっと鶴ちゃ~ん!」
 
スタジオに笑いがおこって、ニヒルに微笑みながら天海祐希、じゃなくって、華乃宮小町のアップ。
 
「もしかしてもしかして、究極のかかりつけ医は手術より話術かしらぁ? 今日も直球勝負でまいります。散る桜 残る桜も 散る桜。人生100年時代の老い先案内の女神、華乃宮小町です。よろしくっ!」
 
拍手喝采の中、真矢みき…じゃなくって、観音寺暁子が続く。
 
「またまたお呼びいただいてありがとうございます。時は今、生涯青春、 人生薔薇色!お困りごとクイーン、観音寺暁子です。ボンソワ~ル!」
 
よっ! ヒュ~ヒュ~ッ!
 
「そして、司会進行は、ミスター終活・百田寿郎と、鶴ちゃんこと鶴田妃菜でお届けしてまいりま~すッ」
 
オープニングの段階から、直子のテンションはうなぎのぼり。孫たちにパソコンのこと、インターネットのこと、SNSのことを教えてもらって、決して大袈裟ではなく、日々の生活のみならず人生までもが変わったように思えてならない。その象徴が、この『しらこわ』だった。勝田永太郎の井之頭全人医療クリニックで教わった、カラダ・ココロ・環境に加え、生きがい(生きることの意味や目的)が伴ってこその健康であり、そして幸せなんだ……という理屈がとてもよく実感できる。そう思うと、世の中のすべてに感謝したくなる直子であった。
 
 
華乃宮小町が口火を切る。
 
「早速ですが…。みなさんのかかりつけ医の説明ぶり、いかがかしら?わかりづらくないですか?感じ、悪くないですか?
 
今回はちょっとむずかしい話になるけれど…。とても重要なことだから、がんばってついてきてもらいたいわね。意外と思うかもしれないけど、実は患者と医者の間には、診療契約という契約関係があるの。とくに契約書を交わすことはないんだけど、理解しておいてほしいのは、そんなこととは無関係に『診療契約』という概念が存在しているということ。
 
でね。その契約内容っていうのは、ズバリ、『医者が医療を施すことによって患者の健康を回復すること』なの。でも、実際の医療行為には少なからずカラダや生命の危険が生じる可能性も否定できないし、治療法が複数ある場合だって多いでしょ?そこで患者側には、いかなる治療を受けるべきか、自分自身で決定する権利が認められていて、これを自己決定権というの。
 
とは言っても、通常、患者は医療についての専門知識を持っていないので、診療に当たる医者には、専門家として患者の診療状況を説明する義務が課せられている。これがよく話題になる「医師の説明義務」ということなの。最近では、かっこよく「インフォームド・コンセント」なんて言われていますけどね。この言葉は「説明を受けた上での同意」と訳されるんだけれど、患者側の言い分としてはネガティブな声が大勢を占めていてね。その理由が次の3点なの。
 
① 言葉がむずかしくてわからない。また、質問しても理解できない。結果として、頷いているしかない。
② 杓子定規な説明の仕方が多いように感じる。
③ 選択肢を与えてくれない。結局は医者のやりたいように任せるしかない。
 
どうかしら。あなたが通っているお医者さんたちは、あなたの知りたいことをキチンと説明してくれているかしら?そして、あなたはその説明をキチンと理解できているかしら?」
 
直子は、自分のかかりつけ医や、品定めで訪れた医者たちを思い浮かべてみる。「あのお医者さんの話はわかりやすいなぁ~」とすぐに感じるのは、眼科のかかりつけ医と、勝田永太郎のふたりだけだった。
 
「おそらく、並の医者は、患者の現状と見通しについて一応は何かしらの説明はするかもしれない。患者が求めれば、紙に書いて渡してくれる場合もある。そして、「わかりましたか?」と杓子定規に尋ねはしても、腹の中では(患者の意向などお構いなしに)既に治療方針は決めてある。そんな感じじゃないかしら。
 
でも、私たちが『かかりたい』と思える良い医者、つまり『究極のかかりつけ医』であれば、素人の患者でも理解できるように配慮しながら、平易な言葉や表現を選びながら説明してくれる。とくに治療法については複数の選択肢を示して、それぞれの長所短所を説明し、その医者自身であればいかなる理由でどの治療法を選択するかを真摯に話してくれる。そんな『究極のかかりつけ医』がこの国のどこかにいてくれることを信じたいものよね」
 
小町の話に、時に大きく頷きながら、時にメモをとりながら、直子は一心不乱にかぶりつきで聞き入っている。そして、小町や他の出演者の口から『究極のかかりつけ医』というワードが出てくるたびに、出会ったばかりの勝田永太郎のことを思い出すのであった…。(To be continued.)

【参考図書】
Amazon.co.jp: 目指すは!“かかりつけ医”より“かかりた医”でしょ!: 患者も医者も知っておきたい20の“常識” : 山崎宏: 本

50歳になったら知っておきたい終活の知恵 | 山崎 宏 | 労働政策 | Kindleストア | Amazon

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