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【ドクトルJの告白043】医療崩壊は医師を野放しにしたツケ

10数年前に、救急車たらい回し事故が盛んに紙面を賑わせました。そして今、新型コロナの影響による医療逼迫で、同様のことが起こっています。医療崩壊問題は、高齢者に端を発して小児、妊産婦へと波及。結果として行き着くのが、「そもそもわが国の医師の絶対数が足らないのだ」という“医師不足説”です。

かねてより少子化対策が叫ばれているにもかかわらず,医療現場では産科医や小児科医が不足しており,子どもを産むこと自体がリスクとまで言われていた時期もありました。麻酔科医の不足により,地域の中核病院でさえ緊急手術ができないというケースも結構あるものです。救急医療や精神科領域においても同様です。

2004年にスタートした「新医師臨床研修制度」でプライマリーケアが必修化されたのですが、この制度が地方の医師不足を加速する結果となったのは皮肉でした。医師不足や医師偏在はわが国の理念なき医療政策の結果としか言いようがありません。地域ごとに、いかなる診療科の医師を、どれくらい配置していくのか。いかなる機能の病床や病医院をどれくらい配置していくのか。つまり、『真の地域医療計画』がなかったがゆえに、医師たちは好き勝手に活動することができたわけです。

いくら高尚な志を持って医学の道に進んだとしても、悪貨は良貨を駆逐してしまうものです。ましてや医師という商売は、いくらでも楽な道を選ぶことができる。患者の身体に触れることもなく機械的に適当な処方をしている医師であっても、高度な手術を年間何百回とこなしたり、救急医療の現場で全身全霊身を粉にして働いたりしている医師たちと評価基準が一緒という矛盾が、患者にとって好ましくない医師たちを蔓延らせる要因になっているのではないでしょうか。

とくに、国公立大学の医学部出身者たちには、国や自治体の税金で医師になれたんだということを思い出して欲しいものです。医師という職業は国や地域にとっての貴重な社会資源です。であるならば、例えば卒後5年くらいは、医師不足の地域で活動することを義務化して国民に報いるべきだと思います。

社会資源たる医師を国がコントロールせずにきたがために、巷には必ずしも患者のためにならない医療を提供して生業を立てている医師がたくさん蔓延ってしまいました。それらを放置したまま、わが国は場当たり的な愚策『医学部定員増』を繰り返しています。

現状でも毎年8千名が医師免許を取得し、4千名の医師が新たに市場参戦してきます。デビューした医師には何が必要かと言えば、答えは「患者」に他なりません。食べていくためにはどうしたって患者が必要ですから、あの手この手を使って患者を作るわけです。目の前に座っている患者の病気を根治させなくても、とりあえずクスリさえ処方していればいい。そんな医師もかなり存在するのではないでしょうか。

この問題を解決せずに医師の数だけを増やすというのでは片手落ちと言わざるを得ません。これでは病気の根本原因を無視して目に見える患部だけを切り取っているどこかの西洋医学と同じです。しかし、それをわかっていながら誰も手をつけないできたのが日本という国なのです。なぜかって?全国30数万人の医師会票は、政治家にとってきわめて重要な票田だからです。私たちは、本当に場当たり的で戦略のない国で暮らしているのです。

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