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知ってる?ヒューマンベーシック9!

前回の記事からの続きで、人望増強術の話です。社会人デビューされたみなさんが、周囲(特に顧客・上司・先輩)から「感じのいいひとねぇ…」と言われるためのエクササイズをご紹介していきましょう。

このエクササイズは、禅の教えを源とする「ヒューマンベーシックナイン」というものです。

人望を高めるエクササイズ『ヒューマンベーシック9』

このような、中心となる正方形と、そのまわりに8つの正方形が配置されることで成り立っている枠組みを曼荼羅と言います。なので、ヒューマンベーシックナインは、別名を「人格曼荼羅」とも呼んでいます。

真ん中にある「精神」を、8つの枠が取り囲んでいますよね。そもそも8という数字は、物質と精神の二面性の統合を意味する数字と言われています。末広がりという言葉もあるように、「栄光」を導くに値するだけの、「意志力」「組織力」「権力」といった偉大なるパワーを象徴する数字なのです。その形「∞」からも分かるように、8つの要素を盤石に整えることで、無限の精神力が培われるということです。

この人格曼荼羅が意味することは大きく2つ。ひとつは、善なる「精神」は周りにある8つと要素と密接に連動しているということです。人としての基盤である8つの要素がしっかりと整っていれば、必然的に精神状態も善となり、邪なことは考えないものだということを教えてくれています。逆に、どれかひとつでも問題があったとしたら、とんでもないことを発想し、実行に移してしまいかねないと警鐘を鳴らしているのです。

そしてもうひとつが、周りの8要素もそれぞれが密接に相互連動しているということです。例えば、きちんとした正しい呼吸法を身につけている人は表情も柔和だし、相手を傷つけるような言葉も吐きづらい身なりに気を配っている人は挨拶もしっかりできている場合が多い。いつも姿勢よくきちんと挨拶のできる人はよこしまなことを考えにくい・・・・・・等々。

モノは試しで、採用面接に臨むときのような非の打ちどころのない姿勢を取って、汚い言葉、不躾な言葉を言ってみてください。続けて、思いっきりだらしのない姿勢で、他者を称賛したり感謝したりする言葉を言ってみましょう。満面の笑顔で辛辣な言葉を吐いてみてごらんなさい。その次に、眉間にしわを寄せて気難しそうな顔をして、ポジティブな言葉を言ってみてください。

どうですか? いずれにしてもむずかしいはずです。人格曼荼羅を構成する9つの要素は、みな密接に関連し、相互に影響をもたらしているからです。

読者のみなさんが仕事や人生で成功しようと思うのであれば、何を差し置いてでもまずはこの9つ、人格曼荼羅を整えることをおすすめします。これが定着すれば、例え面と向かって対話をしていないときであっても、あなたの立ち居振る舞いが周囲の目に魅力的に映るはずです。もうおわかりでしょうが、人格曼荼羅は、私たちの心のあり方を教えてくれているわけです。

私自身、若き日にオーストラリア人の上司から教えてもらった時には、ちゃんちゃらおかしいと思っていました。当時は若くて青くて血気盛んだった私です。人格曼荼羅の話を聴いてもさっぱり理解できなかった。そんなことより、とにかく売ればいいんでしょ! という感じで右から左へと抜けていたと思います。ちなみに、人格曼荼羅のことを教えてくれた当時の上司が、これを「ヒューマンベーシックナイン」と呼んでいたのです。

でも、経験を積んで、齢も重ねてくると、人格曼荼羅というものが心に染み入るようになってくるから不思議なものです。今では、これこそが仕事や人生をうまく回していくための真理であると思っています。

それでは、それぞれの要素について、順に解説していきましょう。

1 善なる「精神」 ~ホスピタリティマインド~
人格曼荼羅の中央にくる「精神」ですが、ひとことで言うと、ホスピタリティマインド(おもてなしの心)となります。研修や講演では、「人の嫌がることをしない」・「自分がしてもらってうれしいことを人に積極的にしてあげる」・「目の前の人に対して自分の身内のように接する」というように解説しています。

英語の動詞にエンターテインというのがあります。この言葉にはたくさんの意味があります。例えば、「思いやる」・「慮る」・「もてなす」・「いたわる」・「癒す」・「励ます」・「労う」などなど。私は、ホスピタリティマインドを体現する行為のことを「エンターテインする」と表現するのだと思っています。

2 「呼吸」
きちんとした呼吸というのは腹式呼吸のことを指します。腹式呼吸にはいくつかやり方がありますが、お勧めするのは丹田(下っ腹)に意識を集中させて、ゆっくりと口から吐いて鼻から吸う方法です。

その時に意識してほしいことがあります。まずは吐くとき。自分の体内にある汚いもの、不要なもの、醜いもの、邪なもの、不純なもの……。そういったネガティブな要素をすべて躰の外に押し出すイメーシを持ってガーッと吐き出す。逆に吸う時は、この宇宙にある、自分にとって価値のあるものをぜぇ~んぶ体内に吸収するんだというイメージで吸い込む。このイメージトレーニングをセットにして腹式呼吸をしてみてください。

3 「姿勢」
これはもう背筋をグッと伸ばす。座っているときは、背筋をピンと伸ばして顎を引きます。人の話を聞くときは、軽く手を合わせてそのまま少し前傾姿勢を取ります。逆に、のけ反ったり、足を組んだり、腕を組んだりしてはならない。心理学の世界では、これらは話し手を萎えさせるポーズと言われているからです。誰かの話を聴くときの姿勢は、そのまま相手のパフォーマンスやモチベーションに直結します。

立っているときは、肩幅よりやや広めに足を開き、顎を引いてまっすぐ前を見る。両手は自然に脇に置きます。実際に試してみると、きちんとした正しい呼吸を心がけると、自然と姿勢がよくなるから不思議ですよね。というか、人間のカラダというのはそのようにできているのです。なんとも神秘的ではありませんか。

4 「表情」
基本はさわやかな笑顔です。笑顔には3つの効用があります。相手の警戒心を解く。親近感をもたらす。モチベーションを喚起する。素晴らしいことです。

中年男性の場合、この笑顔が苦手な人が多いですね。笑うという行為を、なにかチャラチャラした軽薄なものとして捉えているようなところがあります。戦後の厳しい時代を生きてきた人には特に多いように感じます。周囲を見回してみても、40半ばを過ぎると十中八九、気むずかしそうな顔になっていきます。これは対人関係上、損だし不利だと思います。意識的に和やかな表情を作りたいものです。

どうしても不自然な笑顔になってしまう場合には、口の両脇の筋肉を緩めて、あいうえおの「い」を発音したときのようにしてみてください。この「い」の口をしたときの表情は、周囲に安心感を与えます。あの人は話しかけやすそうなひとだという印象を醸し出します。

あなたは、最近、見ず知らずの誰かから道を尋ねられた経験がありますか? あるいは、何でもいいから、初めての人から話しかけられたことがあるでしょうか。これは、あなたが好感の持てる表情をしているかどうかのバロメーターです。ここ数年、一度として道をたずねられたことがないという人は、いまから即、「い」の口を作るように変えるべきだと思います。

5 「身繕い」
身だしなみと言ってもいいでしょう。ビジュアル的に、他者に不快感を与えるような格好や出で立ちを慎むということです。第一印象というのはとても重要です。さらに言えば、初めて名乗りあったときの印象を第一印象とするならば、言葉は交わしていないけれども同じ空間に居て視界に入っているときに感じる印象を第ゼロ印象といいます。この段階からマイナスの印象を与えてしまうと、ニュートラルに戻すまでに多大な労力とコストがかかってしまうものです。清潔感のあるスッキリしたビジュアルを心がけましょう。

「身繕い」というのは、先述の「姿勢」・「表情」と合わせてビジュアルの3大要素です。他者に自分に対する好感や信頼を喚起させようと思ったら、まずは何よりもこの3つの要素に注意することです。

第一印象の6割が視覚的な効果で決まります。話し手である私たちと聞き手の間に情報格差があればあるほど、聞き手は私たちのビジュアルによって私たち全体を品定めしてしまうことが検証されているのです。この驚愕の真実を再認識すべきです。

6 「態度」
これは人間として生きていくうえでの基本的な生活態度という意味です。例えば、「人を欺かない」「人に暴力を振るわない」「人に暴言を吐かない」「人のものを盗まない」「ウソをつかない」「約束や時間を守る」「人からお金を借りない」といった、他者が嫌がることや公序良俗に反することは決してしないということです。

7 「挨拶」
そもそも「挨拶」という言葉の意味は、自分のほうから胸襟を開いて相手に近づいていくこと。次回の記事で紹介する最強の挨拶、「愛語」を自分のモノにしてほしいと思います。曹洞宗の開祖である道元が提唱した「愛語」ですが、江戸時代に、道元を師と仰ぐ良寛さんが、こんなすばらしい話は広く一般大衆にも広めるべきだと考え、師の言葉をやさしく噛みくだいて解説してくれて今日に至っています。これは、私の知る限り、最強の人間関係構築術です。「愛語」については、次回を楽しみにしていてください。

8 「言葉」
私たちは、日本語であれば「あ」から「ん」までの48文字を紡ぐことで、ありとあらゆる理屈や感情を話しています。これは凄いことです。あるとき、この文字たちの配列を見ていて気づきました。かつての万葉仮名(いろはにほへどちりぬるを……)も現代仮名も「愛」から始まっているということに。「いろ」というのは儚さ(はかなさ)の象徴であり、人間界でもっとも儚いものとされたのが男女間の恋情、つまり、愛だと考えていいと思います。

だとすれば、話すという行為の原点は愛。ならば、私たちが誰かに何かを話すとき、そこには愛が込められていなければならないということになります。「あなたのために善かれと思って、だから今、あえてこの話をしているんだよ」という信念のようなもの。それが聴く者のこころに届くのだと思います。

また、愛を「I」と考えれば、話すという行為は自分自身の映し鏡。そこには、私たちの生きざまや人生観のようなものが込められているということです。私たちの口から発せられる一言一句によって、相手はそれを口にした人のすべてを感知してしまうかもしれないということです。

さらに、愛を「eye」と解釈すれば、それは心眼。目には見えないものを感じ、気づき、見抜くこと。心の目で見たものを伝えることが、私たちの仕事や人生のさまざまな場面で大きな影響をもたらすのかもしれません。だからこそ、他者を傷つけたり、貶めたりするような言葉は決して吐いてはなりません。上に立つ者であればなおさらのことです。

9 「所作」
これは日常生活のさまざまな場面でふっと出る何気ないマナーやエチケットのことです。「後から入ってくる人のためにドアを押えておく」・「座席を倒すときに後ろの人に断わる」・「席を立つときには倒した座席を元の位置に戻す」・「煙草に火をつける前に周囲の人に断わる」・「席や順番を譲る」・「公共の場で大きな声を出さない」・「相手の話を遮らない」・「道に唾を吐かない」「くしゃみをするときは口を押える」等々。そんな謙虚で配慮のある立ち居振る舞いのことです。例え人が見ていない場所であっても、自分が自分に課した行動基準を遵守する。こういう人、カッコいいと思いませんか?


なんか、修身(古いか…道徳のことです)の授業みたいになってしまいましたが、今はピンとこなかったとしても、きっといつか実感できる時が来るはずです。社会人として経験を積んで、部下を持つようになったら、おそらくこの教えの深さがわかるようになるでしょう。その時は、今回の内容を引き継いでもらえたらうれしいです。

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