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【医療マガジン】エピソード5 直子と観音寺暁子の出会い(前編)

今日の直子は、朝から気分も機嫌もいい。夕方5時から、『しらこわ』のナマ配信があるからだ。同番組のYouTubeチャンネルで、全部で80本程度ある過去動画の中からチョイスして視聴することが日課になっているのだが、やはり、リアルタイムで観るのは無性にワクワクする。まさしく今現在の瞬間瞬間の百田寿郎と世界を共有しているような気がして、自然と心が弾むのだ。待ちに待って、待ちわびて待ちわびて、ついにその時がやってきた!
 
今回のテーマは、セカンドオピニオンだ。ギンギンの医療ネタであるから、当然のことながら、百田の向かって右隣には華乃宮小町が陣取っている。そして、さらにその隣には、直子が初めて見る顔が…。百田は彼女のことを、「横浜で社会福祉士事務所を開設されてます、観音寺暁子さんです」と紹介した。
 
社会福祉士…。どうやら、相談のプロフェッショナルらしい。れっきとした国家資格である。30代半ばくらいだろうか。華乃宮小町が天海祐希なら、観音寺暁子は「真矢みき」といったところか。いずれにしても、ふたりともかなりの濃さだ。
 
百田さん、濃すぎてなんかかわいそう…。鶴ちゃん、しっかり支えなさいよ!
 
直子の心の叫びである。
 
鶴ちゃんの進行で、まずは天海祐希から、いや、華乃宮小町からセカンドオピニオンについての基礎知識がガイドされた。
 
「いいですか、みなさん。かかりつけ医に通っている過程で、より高度な医療や専門的な医療を受けるために、検査設備の充実した規模の大きい病院で診てもらいたいなぁと思うことがあるかもしれません。特に、長年通院しても症状に改善が見られない場合には、ありがちなことですよね。もちろん、その旨を伝えて、かかりつけ医が然るべき病院の然るべきドクターに繋いでくれるかもしれない。これを『紹介』というの。
 
一方、この逆もあってね。大学病院のような大規模な病院に通院していたら、「症状も安定してきたことだし、日常的にいろいろ気軽に相談できる近所の先生を紹介しましょう」などと言われる場合があるの。これを『逆紹介』って言います。
 
で、基本的に患者側からすると、いくらお気に入りのかかりつけ医であっても、ひとりの医者がスーパーマンであるはずもないのだから、いろいろな専門分野の医者とネットワークを持っていて、気軽に紹介してくれるかかりつけ医は『良い医者』と言えるでしょうね。
 
そしてもうひとつ、今回のテーマ『セカンドオピニオン』ですが、直訳すれば”第二の意見”よね。具体的には、診断や治療方針に関する、かかりつけ医以外の医師の意見のことをいうのね。例えば、『手術を勧められたけどどうしよう』。そんな重大な決断をしなければならない時、他の専門医にも相談したいと思うのは当然のことでしょお~?この想いを患者側からかかりつけ医にリクエストするのが、セカンドオピニオンのはじめの一歩なの。
 
ここでいちばん大切なのは、患者のほうでどこの病院のどのドクターの意見を知りたいのかを明確にしておくこと。つまり、セカンドオピニオンをもらう相手のドクターを具体的に決めた上で申し出ること。これに尽きます。そうでないと、単にかかりつけ医と仲のいい医者を紹介されて終わってしまうことだって実際には多いの。
 
逆に言えば、患者自らセカンドオピニオン外来を標榜している病医院を探したり、テレビや本で知った『これはっ!』と思える医者との道筋をつけたり、それなりの努力が必要になることを知っておいてほしいわね。セカンドオピニオンは、日本では今現在もそんなには普及していないのが実情ね。『主治医に失礼になるのでは…』と躊躇する患者が多いのがいちばんの問題だけれど、セカンドオピニオンをもらう相手をかかりつけ医に一任してしまう、セカンドオピニオンの履き違えも多いように私は感じています』
 
シャープな視線で立て板に水のごとく言葉を連射してくる小町に、毎度のことながら、直子は圧倒されまくっていた。常にキレッキレで、一挙手一投足にスキがないオンナ。それが華乃宮小町である。画面越しであるにもかかわらず、小町と対峙するといつも緊張を感ぜずにはいられない直子だった。
 
ここで百田が言葉を発する。
 
「観音寺さんは、さまざまな相談を受ける中で、セカンドオピニオン関連の相談はどの程度あるのでしょうか?加えて、実際の相談内容についても教えていただけるとうれしいのですが…」
 
いよいよ初見のオンナ、観音寺暁子とやらが口を開く時が来た。
 
「私どもでは、電話とZOOM、それに実際の面談を合わせると、月に100件程度いろいろな相談を受けています。相談内容の統計を取っているのですが、セカンドオピニオンは3年前からトップテン圏内に入ってきています。全国の自治体がこぞって後期高齢者の無料がん検診を行っていることが大きいと思います。何せタダですからね。後期高齢者は嬉々として受診します。すると、どうしても一定の割合で要生検(判定がグレーのため、患部の一部をメスや針などで取り顕微鏡などで調べる生体検査を奨められること)に回されることになります。で、診断が確定して、早期がんと告知されて、摘出をすすめられて……。結構、本人は痛くも痒くもないのにそういう流れになってしまうんですよね。で、あちらこちらを探し回られた果てに、私どもにコンタクトされてくるといった流れが多いですね」
 
「なるほど。痛くも痒くもないのに、ですね。そういうケース、観音寺さんは、どんな対応をされるんですか?」
 
「そうですね。まずは状況を伺った上で、ご本人の動揺を緩和させるようにしますね。仮に本当にがんであったとしても、ご高齢なほど進行は遅いので、『他の医者の所見も聴くべきかと思いますがどうでしょう』…みたいな感じですね。とにもかくにも、自覚症状がない以上、たまたま遭遇したひとりの医者の言葉だけにすがって結論を急いでしまうことのリスクを理解いただくようにしています。どんなに簡単な手術であっても、人間のカラダにメスを入れることには慎重であるべきだと、私は思っています」
 
そつのない受け答え。さりげなく自己主張を混ぜこんでくるしたたかさ。真矢みきも侮れないわ…。

直子はひとつ大きく息を吐くと、年齢の割には毛量が多くモサった髪をかき上げ、東急ストアで買った紫のシュシュゴムできつく束ねて気合を入れた。
(To be continued.)

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