どれほどの光と共にあるか 第3話

「体には気をつけないとね、この仕事は務まらない」
 アクション俳優の黒本さんが言った。わたしの目の前で黒本さんが話しているのだ。気が狂いそうなほどに憧れた仮面ライダーの中で演技していた人。わたしの夢を作っていた人が、ここにいる。

「わたしの名前ですか……? コノハといいます」

 二時間前にドキドキしながら発した自分の言葉はまだ頭ん中に響いてて、黒本さんの話を覚えられない。わたしの名前はコノハといいます……って自分の名前くらい腐るほど発したのに、まだ言い足りない気がしている。黒本さん、わたしの名前はコノハといいます。こんなこと考えてるなんて、おかしいな。ちょっとおかしいよね。
「……だったかな? あれ? 聞いてる?」
「あっ、えっと……?」
「君の名前だよ、もう一回教えてくれる?」

やった! もう一回言える!

「わたしの名前は、コノハです!」

 こうしてわたしはザコキャラの着ぐるみの中で演技をすることになった。仮面ライダーに倒されるザコキャラの中に入るのだ。
 毎週日曜日、子どもたちは顔を知らないままに、俳優たちのアクションを見ている。今アクションをする側に、私は回る。
 ああ、わたしは旅を始めることができたんだ。おばあちゃんの若い頃とおなじように。どんなことが起こるのか分からない。それでいいんだ、それでこそ旅なんだ、っておばあちゃんに報告したいな。おばあちゃんの旅はどんなだったか知るまで、わたしはわたしの旅を続ける。
「……てことで、いいかな?」
「あっ、えっと……?」
「伊勢さんって人の家でお世話になりなさい」

 黒本さん、話長いんだよなぁ。でもとてもありがたいから、伊勢さんちに連れて行ってもらうことにしよう〜。と、そのときだった。よし、日記でも付けよう、とわたしは思ったのである。

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