妙高高原いもり池周辺を歩く
毎年、正月は実家のある東京で迎える。暮れの煤払いから初詣まで年中行事を済ませて、3日には福井へ戻る。4日に、これも恒例の福井県内の建築関係者の年賀式に出席するためだ。その後、7日の職員の新年会までの2日間がやっと本当の“休み”になる。今年は息子が大学(歯学部)を卒業して就職する。だから、文字通りの冬休みはこれが最後かもしれないというので、親子3人でスキーにでも行こうかという話になった。そこで、妙高のペンション“風見鶏”に予約を入れておいた。犬も一緒に泊めてくれ、同じ敷地内にテレマークスキーの拠点“モルゲダールの小屋”があるという、願ってもない条件だ。愛犬“タマ”を預けて、北海道に行く案もあったが、この犬も年老いてきて身体の調子が思わしくないので、それはやめにしたからだ。
出発目前に息子が足首を軽く捻挫してしまった。しかたがないので、今回はテレマークは断念し、歩くスキーに徹することにして、クロスカントリー用のノーエッジの板を3セット車に積んで出発した。上越ICで北陸自動車道を下り、昼食をとって、妙高へ向かう。途中から雪がちらつきはじめた。正月まで暖冬傾向で雪が心配だったが、その点は大丈夫のようだ。
チェックインには少し早いので、ペンションの位置だけ確認し、ビジターセンターへ向かう。その周辺が歩くスキーに適していると聞いていたからだ。駐車場に車を置き、まずはセンターを見学する。妙高高原の自然やスキーの歴史等が展示されていて、勉強になる。女子学生らしい2人がイモリの折紙に挑戦していた。背後にある“いもり池”にちなんだものなのだろう。
見学後、仕度をしてスキーを履く。ここは特にコースがあるわけではないので、センターの向かい側の林に入ってみる。夏場は遊歩道になっているようで、所どころに案内板や標識があるが、雪の中ではほとんど役に立たない。おおよその見当がつく程度だ。遊歩道らしいところを辿ってみるが、昨夜来の新雪で歩きにくい。木々も厚く雪をかぶって、湾曲しているものもある。折れそうでかわいそうなので、ストックで雪を払ってやると、ピンと立ち直る。そのとき残りの雪を跳ね飛ばすので、こっちが頭からかぶってしまう。まるで恩を仇で返されたようで腹が立つ。
しばらく歩くと少し広い道に出て、やがて除雪された大きな道路にぶつかる。時おり車が通る。ビジターセンターへ来るときに通った道だ。ここで引き返すことにするが、同じ道では面白くないので、林の中に入る。ほとんど傾斜がないので、木が立ち込んでいても危険はない。低く垂れ下がった枝や蔓が邪魔になる程度だ。木々を縫うようにして歩くと、まもなく往きにつけたトレッドに合流し、案内板のところに戻った。
車に戻ると、タマはぐっすり眠っていて、われわれが戻ったことにも気がつかない。ドアを開けると、やっと目覚めてうれしそうに尻尾を振った。ちょうど時間も良くなったので、ペンションに向かうことにした。
夕食後、少し休んでから“モルゲダールの小屋”へ行ってみた。ロッジ風のパブだ。自家製のニジマスの燻製とビーフジャーキー、それにワインを注文する。ビーフジャーキーは市販の薄いものとは違って小さな塊だ。旨い。ニジマスも悪くない。入り口に置いてあった“高谷池ヒュッテ通信”という冊子が面白そうなので買い、ついでに傍にあった“山小屋だより”も買おうとしたら、それはタダだという。妙高の高谷池ヒュッテの管理人が発行しているものをまとめて本にしたらしい。カウンターでは同じペンションに泊まっている若い男性が小太りのオーナーと談笑している。どうやらテレマーカーで、当然ながらこの店は彼らのたまり場なのだ。
翌日は、雪がちらついていた前日と違って、薄曇りの良いコンディションだった。またビジターセンターの駐車場に車を停めて、タマを連れていもり池の周囲を回る。小さい池ですぐに一周してしまったので、タマを車において、もう一度歩く。池を半周したところで遊歩道から外れるトレッドがあったので、それを辿ることにした。このあたりは湿地帯なので、迂闊に道を外れるとトンでもないことになりかねないのだ。小さい旅館が面している道路に並行するようにして、緩やかな坂を登って行くと、会社か何かの保養施設のようなところに出たので、その庭をぐるっと回って湿地帯に戻り、来た道を引き返した。
ちょっと早いが昼食にしようと車を走らせてみるが、なかなか良さそうな店が見つからない。国道を経て、とうとう妙高高原駅に出てしまった。駅の前には土産物店を兼ねた食堂もあるが、そこは遠慮して、少し離れた大衆食堂に入った。定食から麺類・一品料理までメニューが豊富で、値段も安い。ビールが1本空いてしまうほど待たされたが、結構旨い。入ったときは時間が早かったのですいていたが、食べ終わる頃にはほぼ満員になっていた。ほとんど地元の人のようだ。満足して再びビジターセンターへ。
今度は、昨日歩いた林を逆の方向へ歩いてみる。白樺林が雑木林になり、多少アップダウンがある。スキー場のスピーカーの音がかすかに聞こえてくる。歩きながら、いもり池周辺もこの林の中も、確かに歩くスキーには悪くないが、スケールが小さい。見晴らしもなく、変化にも乏しい。われわれのホームグランド“六呂師”と比べるとちょっと見劣りがする。そう思ったので、息子に「歩くスキーは面白いか」と聞いてみた。すると妻がケタケタ笑った。いつも「歩くスキーって良いぞ」と言っているのに、今さら何をと言いたいのだろう。息子は真面目に「ゲレンデより面白い」と答えてくれた。それなら良いのだが、それにしても全国的に有名な割には期待外れだ。歩きにくい雪のせいかもしれないし、われわれが歩いた他にももっと良いコースがあるのかもしれないが。
温泉に浸かって気分を取り直し、今度はテレマークをしに来ようと決心して帰途についた。 (1997.1/5〜6)
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