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2018年上半期ベストアルバム9枚

清春『夜、カルメンの詩集』
1 ~ 5 曲目において顕著に感じられるフラメンコ、スパニッシュ感というのは、はあくまで「感」であり、そのジャンルを突き詰める意図はなく、清春という個を映えさせるための新たな照明として用いたといえる。そして、その新たな照明を用いて、清春はこれまで以上の輝きを見せている。「何が自分に似合うか」という問いを基にして、黒夢の頃から変革に変革を重ねてきた清春だが、長いキャリアを重ねても新たな装い ( 多義的に ) を探し続けるのは、飽きっぽい性分のなせる業だろうか…。まだまだその旅を続けて欲しい所。それを見続けたい。
聴き始める前は『官能ブギー』的な偏りの激しい、人を選ぶものになるかと思ってたが、前半はかなりキャッチーで間口の広い仕上がり。後半 7 ~ 10 曲目はこれまでのディスコグラフィを踏まえた耳馴染みの良さと彼の美学的な側面を兼ね備えた楽曲が並んでいる。
前半の楽曲の中では先行配信されていた「夜を、想う」がお気に入り。歌詞が聞き取れるような聞き取れないような歌い回しもそうだが、「どうやって生きるべきかを迷う」って一節があるのは、非常にグッと来た。清春がこの詞を歌うことの意味を大きく捉えてしまう俺がいる…。後半の楽曲の中では「 TWILIGHT 」が、前作収録の「瑠璃色」を踏まえた歌謡曲路線の楽曲でお気に入り。清春とニューミュージック、歌謡曲との親和性は高いと思うので、この路線のもどんどん聞きたいし、カバーもしてってほしい ( 清春の歌謡曲カバーアルバムとか聴きたい…ドが付くベタな選曲の…井上陽水「傘がない」のカバーなんてのもいいな… ) 。


SOLEIL 『 My Mane is SOLIEL 』
 記念すべき Apple Music で聴いた新譜一枚目のアルバムだった。デビューシングである「 Pinky Fluffy 」を YouTube で聞いた時点で、好みど真ん中ストライクバッターアウト試合終了だったのだけど、そんなハードル上げまくって聴いたフルアルバム、期待に違わずドがつく傑作だった。
 大滝詠一の楽曲にメロメロになり、ルーツを探る中でいわゆるビートルズ以前のオールディーズミュージックが好きになっていった ( まだまだ探索中 ) のだけど、このアルバムのコンセプトの中にも「ビートルズ以前」というものがある。俺はこの時代の楽曲で好きな点は、長くて 3 分程度という短い時間にスイートさやポップさ、きらめきが詰め込まれているところで、本作もまさしくそのように形容できる楽曲が目白押し。モータウン的なベースのイントロから始まる一曲目の「魔法を信じる?」も、フィル・スペクターのウォールオブサウンド的なドラムで幕明ける「ごめんね、テディベア」も、言葉遊び甚だしい「夢見るフルーツ」も、カジヒデキ作の勢いある「 Are You Happy? 」も…とイチオシが決められない嬉しい悲鳴上がる一枚。選出はしていないが、 The Wisely Brothers 『 YAK 』も音にオールディーズ的感覚があるし、こういう潮流も近年の一つの流れとしてあるのだろか。


浅井健一 &THE INTERCHANGE KILLS 『 Sugar 』
 ベンジーこと浅井健一のこれまでの活動については、ブランキーのベスト盤とラストライブ、あとシャーベッツやソロの楽曲をちょこちょこ聞きつつ…てな程度でガッツリ追ってるわけではなかった。作品も多いし、いくつバンドしてるんだっけてな手広さだしで。
そして本作。のっけから「 Vinegar 」「 Beautiful Death 」という乾いたファストチューンで勢いづけてくれて、そこでグッと引き込まれる。ベンジーのギターは言わずもがなだけど、中尾憲太郎の推進力のあるベースも、小林瞳のドラムもメチャいい…。全 11 曲のうちほとんどがアップテンポであり ( しかし単調にならぬよう多様なリズムで揺さぶってくる ) 、最初の勢い殺さぬままラストまで行くというアルバムタイトルにそぐわぬ甘くなさよ。もちろん「 Ginger Shaker 」といった数少ないミドルチューンもイイ枯れ具合のようなものが感じられて素敵。「 Turkey 」のイントロのベースのフレーズ、 Sads の「 Nancy 」ぽくて、もうここだけでテンション上がり倒す。


BTS( 防弾少年団 ) 『 LOVE YOURSELF 轉 ‘Tear’ 』
  BTS については ’17 年の M ステ SP ライブで「 DNA 」聞いて良いなーと思った程度で、ほとんど予備知識がなく、ビルボード首位の報を受けて聴いてみた、というはじめましてなグループ。そもそも K-POP というくくりのアーティストに馴染みが全然ないという…といっても、昨年末に TWICE 「 LIKEY 」聞いてイイなーと思ってた所だったので、助走はあったのだけど。
本作は、印象としては全体通してエレクトロでスムースでラップパートも歯切れ良いし、高品質ですげえ良いアルバムだと思った。言い回しとして適切なのかは分かりかねるけども。曲単位では何と言っても「 FAKE LOVE 」がとびっきりのキラーチューンでメチャカッケエ。ラップパートも、切なげにハイトーンで重ねるサビのフレーズにも引き込まれる。クールなムードで進む中で「 Anpanman 」はフザけてるなーと思いつつ笑、こういうのができる余裕もある種カッコいいよなぁ。


KIRINJI 『愛をあるだけ、すべて』
 キリンジはベスト盤と前作『ネオ』を聞いた程度で。でも、それらとは一線を画した印象だった。キリンジといえばアダルティックでお洒落と思っていたけど、本作はなんつってもダンサブルで。しかしながらダンサブルといっても一筋縄じゃいかない所が彼ら ( 特にあの兄貴の ) らしさなんだけども。
  1 ~ 4 曲目のアップテンポな流れも体揺れていいのだけど、 5 曲目以降のメロウな流れもたまらないなあ。弓木さんボーカル曲の「 After theParty 」のリズムの揺れ?ヨレ?具合が気持ち良かったり、「 silver girl 」の冷やかにスムースに締めくくる感じも素敵だ。
 インタビューとかで、ドラムを切り貼りしてたり、生音と打ち込みを混ぜながらリズムを構築してるというのを聞いて佐野元春『 VISITORS 』を頭に浮かべたりした。「コンプリケイション・シェイクダウン」がハットは人力だけど、太鼓の音は打ち込みで作ってたりとかしてた ( ってのを BS の番組で話してた ) よね。あと、この二作は全体のムードとして「冷やかさ」が感じられる点も似てるなと思ったりしながら聞いてた。


Arctic Monkeys 『 Tranquility Base Hotel & Casino 』
 アクモンは 1st と前作くらいしか聞いてなく。だから、ギターでゴリゴリと押してくる側面しか印象に無くて、これを聞いたらまず変貌ぶりに驚…くまではなく。ギターリフで押さなくなった点とか、初期からのファンは「変わった!」と思うのが所なんだろうけども。なんだかんだギターは要所で鳴ってるし。全体の印象としては、ピアノが基調とされてるからか、囁くようなボーカルスタイル ( こういうボーカルスタイルといえば小沢健二の『 Eclectic 』を思いだすけど、思い出すから何だという感じも ) を多くとっているせいか、艶っぽくてメロウでスイートで夜の似合う感じだなと思いつつ。
 曲の中では先述した囁くようなボーカルの表題曲と、コーラス重ねつつサビを繰り返すのが高揚感を誘うリード曲の「 Four Out Of Five 」がカッコよくて好き。若干ビートルズのバラードぽさも感じられる「 The Ultracheese 」による締めもたまんねえ。


cero 『 POLY LIFE MULTI SOUL 』
 前作『 Obscure Ride 』は当時の音楽体験として未知のもの ( ジャズだとか R&B だとかヒップホップ等なのだろうけど、そういう区分けに未だにイマイチピンとこない ) で、衝撃的だったのだけど、精神的というか、文学的というか、メロウというか、ロマンチックな曲調の曲が多いように感じていた。しかし本作はダンサブルだと形容せずにはいられない、肉体的な楽曲の並ぶアルバムとなっている。クロスリズムがどうだという理論や知識を持ち合わせていないので、その点の言及はしかねるが、前作よりぐっと身体に訴えかけるものとなっている。
肉体的とこのアルバムの曲を通して形容したけども、詞にもそれが見えるところが多いね ( 「天を仰ぐ 喉の奥を 鼻血が伝う『魚の骨 鳥の羽』」「気ままに あるがままに 踊ろう『 Waters 』」等そこかしこに ) 。前作が「生から死へ」というもので本作が「死から生へ」というものらしいので、そういう面も作用しているのだろうか。
個々の楽曲に触れると、「レテの子」→「 Waters 」のテンションブチ上がる流れが大好きで。「レテの子」は山下達郎「アトムの子」を下敷きにしているだけあって、ロッキンで突貫力のある曲となっている。「彼はなんだかおかしくなって笑ってしまう」のところで本当に笑いながら歌唱するのだけども、聞いた時に『風街ろまん』の大滝詠一みたいだなと思った。「抱きしめたい」の「ぼくは烟草をくわえ 一服すると」の後に大きく息を吸い込んだりするところや、「颱風」の「鼠色の雲が 迅く迅く迅く迅くはしり」の「迅く迅く」を早く歌ったりするところに通ずるな、と。つまり、何か歌唱にスゴく余裕を感じるというかね。歌を完全にコントロールしてるんだなーと思ったりするわけです。はっぴいえんどつながりで言うと「夜になると鮭は」聞いて 、メッチャはっぴいえんどの「続はっぴ - いいえ - んど」思い出した ( 語りだからだろう ) …けど、こんなに言うとはっぴいえんど信仰強めみたいになるな…。
そして「 Waters 」は…これは、どのような曲と言うべきなのか…トラップ以降の…いやいやよく分らん…。ラップ…いや、というかそもそもアップテンポだったりするわけではないのに、この曲聞くとメチャ上がるんですよね。何なんだろうか。「たなびくぼくやきみの足元」という「ここ」の不安定さや異相の存在に触れる歌詞もクールで好き。
俺はアルバムツアーの福岡公演に行ったのだけど、ライブで聞くとよりアグレッシブで体動かずにいられなかった…!フロアも沸いてたし、高城さんも「レテの子」やアンコールでの「 POLY LIFE MULTI SOUL 」でステージから下りてきたりとテンション高かったことが思い出されたりする。〈連なる生、散らばる魂〉とあったけど、「踊る」という身体表現の中で観客は繋がっていたが、そこにいるのは個人であって散らばりがあることも感じられた。ライブでアルバムの表題の意味に触れるというのは良い経験だったな。


lyrical school 『 WORLD’S END 』
 リリスクはアルバム全作聞いてはいるけど、メンバーの名前と顔は一致しないという感じ…てなことは置いといて、本作は表題の「世界の終わり」というものを意識してか、メンバーのスキルによるものか、キュートな成分よりもクールな成分高めに感じられた。あとはセンチメンタル過剰 ( ナンバーガール引用 ) な側面もありつつで。
 各曲に触れると、まず二曲目の「消える惑星」の切なさったら!!キックの四つ打ちが夜明けに向かっていく時の拍動にも感じられつつ、フックの歌詞もさることながら、二分半頃からリフレインされる「空から消えてくプラネット 街から徐々に消える電灯 もう始発がホーム出ると そう、いつも通りの喧騒」が個人的にキラーフレーズで!!夢見的な所からジワジワと生活の息づきが起こりだして、日々に帰っていくのを切り取ったこのフレーズに心臓鷲掴まれてしまって…。「夏休みの BABY 」→「常夏リターン」のサマーブリージンな流れも、「 DANCE WITH YOU 」→「 Hey!Adamski! 」の「 OK 、リリスク、躍らせて」な流れも最高。


小林太郎『 SQUEEZE 』
 小林太郎、初めて小遣いで買った CD が『 Orkonpood 』という懐かしさに殺されそうになるのだけど、本作はその彼の 1st 『 Orkonpood 』を踏襲して作成された EP で。「ドラグスタ」匂わせる一曲目、これぞ小林太郎のハードな面!な二曲目、爽やかなポップス性を見せつける三曲目、カッティング切れてる四曲目、「美紗子ちゃん」匂わせる五曲目と彼の魅力が凝縮されている。特に二曲目の「響」ったら!確か、彼はバイクが好きだったと思うけど、この曲を海沿いを乗りながら聞いたらさぞ気持ちよかろうという突き抜け感。
 一時期聞いてなかったけど、この作品聞いて『 tremolo 』とか聞き返したらまあメチャいいし、マサカリカツイダーズ ( 懐ッッかし!!ストリートファイターズ!! ) のアルバム作るっていう情報もあるけども、小林太郎ソロのフルアルバムも長い目で待とうと思える作品でした。



と、いった調子で。自分にとってどのように好きであるかや、興味があるのか、ということを年 1,2 回程度ここに述べられたら上出来ってくらいで利用していけたら。

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