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OVERDOSEとは何だったのか

こんにちは。k5です。

先日、『OVERDOSE』というLINE謎を世に放ちました。
これです。

公開して3日ほどですが、すでに500人以上の方に遊んでいただいているようで、ありがたい限りです。

ただ、プレイした人の大半は自力でクリアできなかったと思います。
そしてそれ以上に、クリアした人のほぼ全員が「なにこれ?」と思ったでしょう。
邪悪な愉快犯だと考えた人も多いでしょうが、それなりの思惑というか思想を持って作った作品なのでそのあたりはちゃんと説明しておこうと思います。まあ読んだ上で「邪悪だな」と思うかもしれませんが…。

クリアしてないと読んでも意味がわからないと思うので、はじめにすべての答えを書いておきます。まだ頑張りたい人はこのページを閉じて頑張ってください。でもさっさと見てしまった方が賢明だと思います。







各問題の答えは順に【ねこ】【ぬれたおる】【なかま】【のろい】【にんにく】【ドアをあける】です。


はい、ここから本題です。

ちょっと前に「死角謎」っていうのが謎解き界隈で流行ったんですよ。詳しくはしゑひ氏がまとめた記事(https://shiwehi.com/column/shokai/013.php)を読んでもらえるといいんですが、インターネットのどこかに隠されているLINEアカウントを見つけ出す遊びです。

それから「謎解き日本一決定戦Χ2022」。MBS/TBSでやっていた、日本全国で一番謎が解ける人間(のペア)を決める大会です。決勝は4/27までTVerで見られるので、みんな見よう。
決勝に出たすごい方々のレポ↓

2022年3月末の謎解き界隈はこういったおもしろコンテンツで盛り上がっていたわけです。
僕もこれらは楽しく見ていて、業界のコアな人もライトな人も盛り上がっててすばらしいなあと思っていたのですが。ちょっと思うところがありまして。

これらの謎解き、「明示されていない要素から自力で謎を見出して解く」過程が目立ったんですよ。指示されていない部分から先回りして答えを見つけ出す能力というか。死角謎はその極限ですよね。クリアツイートが出るまでは「こういうところに誰か仕込んでるはず」だけで探し出すことになるんで。
でもこういうのって、結構脆い信頼関係の上に成り立っているものじゃないか?と感じたんです。解く側の「こんなデザインにしてあることには意味があるはず」とか「この制作者ならこれは手がかりのはず」という信頼。あるいは制作側の「解く人はこれだけで見つけてくれるはず」「この違和感を手がかりだと思ってくれるはず」という信頼。そういうものがあってはじめてこの類の謎は成立しますよね。LINE謎のオールクリアとかも。大体のコンテンツは上手くいってると思いますけど、実は薄氷の上のバランスじゃないかなあと思いまして。
いや、そういうコンテンツを否定するつもりは全然なくて、むしろ「謎解きらしさ」が宿るのはここだと思うのでどんどんやってほしいんですが。制作者のちょっとしたデザインの癖とか、解き手のちょっとした勘違いとか、そういうことで容易に裏切られうる信頼関係を当たり前のものだと捉えすぎじゃないかい?と問いかけてみたくなったんです。

今みたいにテキストでそういう問いかけをしてみてもいいんですけど、僕も謎制作者のはしくれですから、ここはそれをテーマとした謎解きを実際に作って、作品を以って主張するのが筋。
だからアンチテーゼとして作ったんです。手がかりっぽい要素、再利用しそうな要素、クリア後になにかありそうな要素が無数にありながら、それらを一切回収しない謎。制作者を信頼して、期待したくなる構造をしていながら、それを手酷く裏切る謎。指示もされていないものに注目して自分で謎解きを見い出すのは解き手の勝手な妄想であり、幻覚だと主張する謎。
そんなコンセプトなので、真っ当に面白くなるわけがないのは作る前からわかっていました。「なんだこれは!」と怒られるのも承知の上です。
ただ、普段当たり前だと思っていることを裏切ってくるものが世界に存在していてほしかったし、僕らが謎解きを楽しめているのは制作者と解き手の尊い歩み寄りのおかげであることを確認したかったのです。

そういった趣旨であることを前提に各謎の解説も書いておきます。

謎O

スケルトンパズルです。小謎は幻覚をテーマにしたビジュアルで統一しています。これはマスが正方形じゃなかったり、縦横に整列していなかったりするのでルールが怪しいですが、直感的に入れていけばまあ合ってます。スケルトンは再利用しやすい題材で、盤面の向きを変えたり、入れる単語を変えたり、拾う文字を変えたりするだけで他の単語が出せます。14文字うめておいて2文字しか拾わないのはもったいないので、普通は再利用します。

謎V

しりとり迷路です。トマトトマトトマトトマト。迷路も自由に配置できる文字がいっぱいあるので再利用しやすいです。実は右端でトマト→トマト→とびら→ラケット→トマト…でぐるぐる回って「おるがん」が拾えます。答えが「ぬれたおる」という変な単語なのも、自由に答えを出せるこの謎では不自然です。普通は後で使います。

謎E

「文字と数字が対応してるやつ」です。計算するだけ。これも再利用しやすい題材で、後で「かける」とか「わる」とかの指示が出てきたら100%使います。10個も対応を作っているくせにこの謎自体で1~3しか使わないのはもったいないので明らかに再利用です。4~7で「こたえは」が作れるのも怪しい。

謎R

たぬき謎です。「たぬき」だから「た」を抜いて〜というやつ。アホみたいに「た」と「たぬき」を置いてみました。読める文字が限られているので「のろい」が見つけやすい。一般的な再利用可能性はまあまあという感じですが、これに限ってはたぬきで隠された文字があるかもしれないのがちょっとあやしい。

謎D

写真謎です。趣味でホラー調にしたんですが、夜中にやっていてドキッとした方が何人かいたようで、申し訳ないです。自宅の台所なので、自分では夕飯の支度にしか見えないんですよね。「にく」の真ん中に「んに」が刺さっているので「にんにく」なのですが、ビジュアルを優先しすぎて謎としては不親切でした。「んに」を含む一般単語は数が少ないので、よくわからなくても勘で当たります。こういうバランス調整はよくない。何かが写り込んでいることがあるので、写真謎というだけで隠し情報がありそうです。

謎S

ラス謎。数多くのプレイヤーに幻覚を見せて苦しめた、邪悪の化身です。
・「ドア」が虹色でタイトルを連想させる
・しかもタイトルから「DOOR」が拾える
・小謎もタイトルに対応している
・謎Vに「扉」がある
・フォントがこれまでに使っていたものの混合
・左上のアルファベットが虹色
・しかも2つ目のOとEがありそうな色づけ
・これまでの答えの頭文字がなにぬねの
・謎O(オー)でも謎0(ゼロ)でも1問目が出る
といった、大量の「ラス謎っぽい要素」の塊です。観察力に優れた人ほど、たくさん「手がかりらしきもの」を見つけてギミックの幻覚を見たのではないでしょうか。全部幻覚です。なーんも使いません。指示にそのまんま従ってドアを開けてください。
普通に作ってたらこんなに無駄な要素てんこもりになることはないですが、ちょっとフォントをいじったり小謎に意味深なものを登場させるだけで解き手は幻覚を見てしまうので、制作をしてる方はこれを反面教師としてしてください。

ちなみに、いちいち【謎Oを見る】などと入力させたのは【ドアをあける】の入力をしやすくするためです。わざわざ毎回入力させるのは面倒なだけで誰も嬉しくないので、ここに違和感を感じるとメタ解析的に解けてしまいます。コンセプト的にはこれも排除するべきだったのですが、最後の最後で「解けてほしい」という気持ちに抗えなかった結果です。

クリア後

クリアすると変な動画が流れて変なクリア画像が出ます。
このクリア画像も、やたら空白が多い、フォントがTrain One(死角謎で常用されるフォント)という、「まだ何かありそうな要素」で構成されています。動画とかアンケートとかも何か隠してそうで怪しいです。でも怪しいだけです。

改めて明言しておきますが、『OVERDOSE』にここで紹介していない要素は一切ないです。パーフェクトクリアとか、死角とか、隠し謎とか、なんにもないです。作ったら上で語ったコンセプトが崩壊するので、今後も絶対に作りません。ついでに言っておくとこの記事にも何も仕込んでません。

解説は以上です。


おまけ① ネタバレ推奨

今回は作品自体がまともじゃないので、折角ならと実験してみました。
ネタバレの推奨です。一般的に謎解きでは商業・非商業問わずネタバレを禁止します。これを解禁したらどうなるか、「ネタバレ推奨」とまで言って試してみました。謎Sの自力突破率はせいぜい2割程度だと想定していたので、ヒントや正解を共有しやすくしたかったのもあります。
結果としては、内容に踏み入った感想やヒント共有がほどよく行われており、ネタバレによってプレイヤーの楽しみが奪われるようなことは僕が見ている範囲では起きませんでした。むしろ感想が書きやすくなり、詰まった人がヒントを探せるようになって良い効果があったと思います。プレイヤーがもっと多くなったり、商業作品だったりすると問題が出てくるでしょうが、個人制作の小さなLINE謎程度なら頑張って禁止するほどのことはないかな、というのが所感です。今後作るときもネタバレは禁止しないかもしれません。まあそれで他の作品でまでネタバレしてしまう風潮になるとマズイですが…。


おまけ② クリア者アンケート

普段の謎解きではありえないくらいの悪意をぶつけたので、解いた人が何を感じるのか気になってアンケートをとりました。4/25時点で67件の実質回答をいただきました。皆さん、ご協力ありがとうございました。
結果をこの場で公表したいと思います。

難易度は3と4が中心で、平均3.16でした。「やや難しい」くらいでしょうか。ちなみに、サークルで作った謎解き公演ではこんなに難易度評価がバラけたのは見たことがありません。1をつけた人と5をつけた人が同数って。ラス謎がまともじゃないので評価が割れています。

満足度は概ね3以上、平均3.78でした。ホントか?もっと低い、平均2ぐらいだと思ってたんですが…。評価が2以下の人はそもそもアンケートに答えないのかもしれませんね。1をつけた2名の方は何も間違ってません。5をつけた方は趣旨を理解できたすごく賢い人か、狂人か、すごく賢い狂人のどれかです。

理不尽さについてはかなり分かれました。平均3.01。これはちょっと質問がよくなかったかもしれません。ラス謎はどうしようもない悪意の塊ですが、あらためて「理不尽か?」と聞かれると、解き手が考えたことは全部勝手な幻覚だから「理不尽」ではない、と考えられます。このあたりはそれぞれの感じ方、理不尽という言葉の捉え方しだいですね。

自由記述

感想というか不満のぶつけ先として自由記述フォームも作りました。色々書いてくださってありがとうございます。すべて読んでいます。
いくつか抜粋して紹介します。

もうなんもないですか?まだなんかありますか?

見事に幻覚を見てくださっています。もうなんもないので安心してください。

最後、謎解きをやってる人ほどドツボに嵌りそうで面白かったです。 1問目、幻覚を使うことで4単語サイクルではなく3単語サイクルにしているのが斬新で面白かったです。 クリア画像が死角のソレなのでこれで本当に良かったのでしょうか…?感がすごい…(不穏)

こういう、ちょっとした小謎のデザインとか褒められると素直に嬉しいです。この方も幻覚に呑まれかけておられる。

いいLINE謎を浴びた気分です

嬉しいお言葉ですが雰囲気に騙されています。正気に戻ってください。

思ったよりちゃんと幻覚が見えてしまって笑いました。"D"を煮詰めてドロドロにしたものを床にぶちまけた感じの代物。「これ以上何かあるのか??」って考えてる人が何人かいらっしゃるようですが、その光景さえ幻覚に惑わされてるように見えて面白いですね…楽しかったです。

かなり趣旨をわかってくださっています。某Dの系譜は僕も大好きです。こんな実験作と比較されると気が引けます。

紅茶にティースプーン一杯くらいの理不尽を入れたぐらいの謎解きかな?と思っていたらカップまで食べるタイプの謎解きでした。ありがとうございました。

素敵な比喩です。次はお皿も食べたいですね。

理不尽だと感じました。

こういうのが正しい感想です。僕も本当に理不尽だと思います。

また、Twitter上でも「よくわからなかった」「絶対に許さない」「は?」など、多くの感想をいただきました。ありがとうございました。

最後になりましたが、『OVERDOSE』を解いてくださった皆さん、アンケートに答えてくださった皆さん、本当にありがとうございました!


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