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自然薯

やはりあの豊橋近くの産直販売の店主が売っていた自然薯は本物だった。とろろ汁を作って見たが、黒くなる。切り口は白いのだがすりおろし空気に触れると、だんだん黒っぽくなる。味も香りも絶品だ。

長年探していたものがようやく手に入った。今まで買ってきた自然薯は、すっても白いままで黒くならない。自然薯と称しながら、栽培ものなのだ。

20年ほど前、友人の父親と一緒に瑞浪の山で掘った自然薯と同じだ。天然の自然薯は細くてくねくねと曲がっている。

特に瑞浪の山には陶器のかけらが捨てられていて、土の成分が少ない。肥料分も少ないので芋は太くはならない。陶器のかけらが邪魔をするので真っ直ぐに伸びることもできない。

この掘り出した自然薯をすり鉢ですると、黒いゴムまりのようになる。カツオ節と昆布でこしらえた出汁でのばすと、深い味わいと香りのとろろが出来上がる。一口食べると、一瞬で時間を超えて昔のことを思い出す。

友人や家族の顔、その時話したことなどが次々と浮かんでくる。感覚に直接働きかける不思議な体験だ。

妻は「白いとろろの方が好き」と言いながら、「見た目は悪いけど味は悪くないね」と贅沢なことを言いながら美味しそうに食べている。

最近は本物に出会うことが少なくなってしまったが、偶然出会った本物に感動している。


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