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ねずみさん、ありがとう ♪

 最近、とんとネズミを見なくなった気がする。昔は屋根裏でネズミと猫の逃走劇を耳にしたものだけど、全く足音も聞こえない。田んぼでもここ何年、ネズミを見たためしがない。

 彼らはどこへいってしまったのだろう。ひょっとして近くに野良猫が増えたことが要因なのだろうか。夜な夜な猫軍団とネズミ軍団の抗争に明け暮れ、ついには白旗をあげ、どこかに行ってしまったとしたら少し哀しい。

 
 神話の中でネズミと言えば、大国主命の物語である。

 大国主命は出雲にやってきて、スサノオの娘スセリヒメに一目ぼれ。スサノオに結婚の許しを乞うと、いきなり難題を吹っ掛けられる。

 そこで大神(スサノオ)が出て見て、「これは葦原色許男の命だ」とおっしゃって、呼び入れて蛇のいる室に寝させました。そこでスセリヒメが蛇の領布をその夫に与えて言われたことは、「その蛇が食おうとしたなら、この領布を三度振って打ちはらいなさい」と言いました。それで大国主命は、教えられたとおりにしましたから、蛇が自然に静まったので安らかに寝てお出になりました。

 次には鏑矢(かぶらや)を大野原の中に射て入れて、その矢を採らしめ、その野におはいりになった時に火をもってその野を焼き囲みました。そこで出る所を知らないで困っている時に、鼠が来て言いますには、「内はほらほら、外はすぶすぶ」と言いました。こう言いましたからそこを踏みましたたところ落ち入って隠れておりました間に、火は焼けて過ぎました。そこでその鼠がその鏑矢をくわえ出して来て奉りました。その矢の羽は鼠の子供が皆食べてしまいました。

 かくてお妃のスセリヒメは葬式の道具を持って泣きながらおいでになり、その父の大神はもう死んだとお思いになをその野においでになると、大国主命はその矢を持って奉りましたので、家に連れて行って大きな室に呼び入れて、頭の虱(しらみ)を取らせました。そこでその頭を見るとムカデがいっぱいおります。この時にお妃が椋の木の実と赤土を夫君に与えましたから、その木の実を食い破り赤土を口に含んで吐き出されると、その大神はムカデをくい破って吐き出すとお思いになって、御心に感心にお思いになって寝ておしまいになりました。そこでその大神の髪をとってその室の屋根のたる木ごとに結いつけて、大きな岩をその室の戸口にふさいで、お妃のスセリヒメを背負って、その大神の宝物の太刀弓矢、また美しい琴を持って逃げておいでになる時に、その琴が樹にさわって音を立てました。そこで寝ておいでにあった大神が聞いて驚きになってその室を引き倒してしまいました。しかしたる木に結び付けてある髪を解いておいでになる間に遠く逃げてしまいました。そこで黄泉比良坂(よもつひらさか)まで追っておいでになって、遠くに見て大国主命を呼んで仰せになったには、「そのお前の持っている太刀や弓矢をもって、大勢の神を坂の上に追い伏せ河の瀬に追い払って、自分で大国主の命となってそのわたしの女(むすめ)のスセリヒメを正妻として、宇迦の山の山本に大磐石の上に宮柱を太く立て、大空に高く棟木を上げて住めよ、この奴め」と仰せられました。そこでその太刀弓を持ってかの大勢の神を追い払う時に、坂の上ごとに追い伏せ河の瀬ごとに追いはらって国を作り始めなさいました。

「古事記-根の堅洲国-」

 スセリヒメのアドバイスや援助はいいとして、動物の中で唯一、大国主命を助けてくれたのが何を隠そう、ネズミである。もし、ネズミのアドバイスがなければ、ここで大国主命の物語は一貫の終わり。そして大国主命の国造りもなかったことになったかもしれない。

 そう考えると、もっとネズミを大切に扱ってもいいような気がする。少なくとも因幡の白兎くらいには有名になり、白兎神社ならぬ、灰色鼠神社なんてできていてもおかしくないのではないかと思ったりする。因幡の白兎なんて大国主命に助けられただけじゃないかと、つい、何の罪もない白兎に八つ当たりしてしまいそうになる。

 けれど、現実にはそうはいかないですよね。古代では高床式倉庫の「ネズミ返し」にみられるように、穀物被害は昔から深刻だったよう。

 それではネズミは嫌われ者だったのかというと、そうともいいきれない。

 まぁ、ときに「ねずみ講」とかいって、あまりいい意味に使われないこともあるけれど、意外に昔話にはネズミが登場し、活躍する話が少なくない。 

「おむすびころりん」なんて、みんな一度は読んだことがあるでしょう。


 日常生活で身近な存在であり、困ったやつだけど、親しみもある。

 そんな感じでしょうか。

 こう考えると、案外「トムとジェリー」のジェリーのほうが、世界的スーパースター「ミッキーマウス」より、実像に近いかもしれない。

 それはそうと、出雲神話では大国主命を助けたことで知られるのに、ひとつも文句も言わず、子供たちにも手伝わせた、その献身はもっと評価してもいいと思う。できることなら今からでも「出雲の灰色鼠」として物語を膨らませてあげたいくらいである。まぁ、そうなったら捏造になっちゃうけれど。


 
 今回、 この話に名所は登場しないので「いつも神様でいっぱい♪」に入れることがでてこないことに気が付いた。

 よって、この話は「楽しく読もう出雲神話♪」の記念すべき第一号に入れることにします。記念すべき第一号がネズミの話でいいのかと思うけれど、それぐらいのところから出雲神話を進めていくのもいいかもしれません。

 


こちらでは出雲神話から青銅器の使い方を考えています。

よかったらご覧ください ♪


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