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2024年四月馬鹿用記事-和泉文子について女中視点

皆様、はじめまして。
Xでの共有からいらっしゃってるでしょうから、正確には「はじめまして」ではないのかも知れませんが、便宜上そう挨拶させていただきます。
わたくしは文子さんの……表現が難しいのですが義理の眷属、が一番事実に近いかと思います。義理の眷属、メイドの寺山と申します。

文子さんが以前よりVRChatでわたくしを模したアバターを利用しているため見た目と名前だけはご存じの方もいらっしゃるかと思います。


今回は折角直接皆さんに見せる記事を書く許可を頂いたので、少し話は長くなりますがわたくしと文子さんの関係となぜ義理の眷属という言い回しになっているのかをお話したいと思います。

わたくしが文子さんと出会ったのは彼女が21歳の頃。わかりやすく言うと彼女がVtuberとしてデビューする少し前です。
文子さんは元々霊能力を所有する血筋の生まれで、幼い頃から霊感が合ったのですが成人した頃にその力が本格的に目覚めました。本人は自らの血筋のことは知らず、その頃初めてお祖母様に説明を受けたそうです。
元々新卒で努めていた会社での業務によるストレスに加え、コントロールの出来ない自分の霊能力のストレスで憔悴しきっていた文子さんがついに会社を自主退職し引きこもりになっていた頃、わたくしはようやく文子さんを見つけたのです。

わたくしは、彼女が生まれる前からずっとこの日本中を探していました。

いずみ文子……人間として〇〇〇〇という名前を持つ彼女が吸血鬼と呼ばれる存在であることは、おそらくこの記事を読んでいるあなたは知っているでしょう。
ただ、吸血鬼と聞いておそらく皆さんが想像する生態と彼女自身の身体の造りは少し違っています。

彼女は、寿命以外の死因で死ぬことの出来ない呪いに蝕まれているのです。病気に強く怪我は治り、なんならそれらにかかることすら回避する幸運……それらにより強制的に寿命を全うさせられる呪い。
ただ、死なないと言うだけで実際のところその肉体が常に強靭なわけではなく、眷属とする元人間の血を吸わないと身体は死なない範囲で一般的な人間の平均をどんどん下回ってしまいます。

この呪いは、文子さんが何かをしたから天罰が下った……というものではありません。およそ紀元の頃、今から2000年以上前にとある少女がその呪いを見に受けたのをきっかけに、少女が寿命で死んではまた国内の霊能力のある家系の女児にその呪いは引き継がれてきました。国内の霊能者の家系であれば血筋は直接関係ありません。

さて、長くなってしまいましたがようやく前提の情報をある程度お伝えできました。何故私が彼女を探していたのか。それはわたくしの本当の主、先代いずみ文子……和泉文子様に叶えていただけなかった、わたくしの命を終わらせることを依頼するためです。

今から99年前、和泉文子様はこの世に生まれました。そして様々な経験を経て自らの身体の呪いについてお知りになったのが彼女が25歳頃。その際に眷属にしていただいたのがこのわたくしなのです。

和泉様はその時には既に旦那様と結婚なされていました。わたくしは彼女のご自宅で女中としてお勤めをしており、和泉様の呪いについて旦那さまと私に打ち明けて頂いた際、是非わたくしを眷属にと名乗り出たのです。

無論、一端の女中身分のわたくしがいきなりそのような差し出がましいことを申し上げたわけではございません。和泉様が眷属を作らないと身体が弱ってしまうという説明をなさったとき、当初旦那様が眷属を名乗り出ました。しかし和泉様御本人がそれを断ったのです。

眷属はなにも主に血を差し出すことになるだけではありません。眷属契約をして身体の造りが変わった者は、主同様条件を満たさなければ死ぬことはありません。ただ、主と違う点は「主に殺される以外の死に方で死ねない」というところです。

つまり、主は自分が寿命で死ぬ前に眷属を自らの手で殺さないと眷属に自分の死後死ねない人生を遅らせることになるのです。

和泉さまは旦那様をその手で殺すことも、殺さずに自分の死後1人で孤独に過ごさせることも嫌だと、泣いて旦那様の提案を断りました。そこで代わりにと私が買って出たのです。

下心はありました。私は以前から和泉様のことをお慕い申して折りました。その整った容姿もですが、何より私が彼女のことを慕っている理由はミッション系女学校で深められたその教養でした。読書を好む主は時たま自らも物書きをしており、家事が終わり私の手が空いている際にはそれを読ませていただき、私自身にも物書きの手ほどきをしていただいたのです。

しかし身分もそうですし、わたくしが和泉家に雇われた際には既に和泉様は旦那様とご結婚なされていました。ご夫妻はとても仲睦まじく、たとえ私が殿方であったとしても二人のお姿を見て横恋慕の手を伸ばそうとすることは出来なかったでしょう。

そんな中、湧いて出た「和泉様との眷属契約」の話です。眷属になれば和泉様の健康のためにずっとおそばに居られる上、旦那様でも得られない繋がりが出来るのです。そんな千載一遇の好機を逃すわけがございません。

和泉様には、いつか私に殺されないといけなくなるのに本当に良いのか?と念を押されましたが私は頑として譲りませんでした。主に命を終わらせてもらえるのであればわたくしは本望でございます。

そうして和泉様はわたくしと眷属契約を結んでくださいました。

しかし、その後およそ50年夫妻と生活をともにしていく中、いくら眷属であれど、血の繋がりがあれどわたくしは旦那様には勝てないと思い知ったのです。

旦那様に対しては殺したくないと涙を流された和泉様でしたが、わたくしに対しては私が殺されてもよいのかという確認しかなされませんでした。わたくしを手に掛けることは彼女にとって旦那様のように迷われるようなことではないのです。
その事実と向き合い、数年ほど悩みましたが、晩年にはもうその気持も何もわからなくなっていました。

1995年。和泉様は70歳を迎えられお身体もいよいよ弱っておられました。その身体が動くうちに、そろそろお暇をとわたくしが申し上げたところ、和泉様はその身を強張らせお返事を頂けませんでした。和泉様、ともう一度声をかけると彼女はぽろぽろと涙を流したのです。この50年、いつの間にかそのことから目を背けていた。何時からかもうわからないが私はお前を殺せなくなってしまった。責任を取れなくてごめんなさい、と。しわ深くやせ細った手でわたくしの手を握り、震えながらうつむいてわんわんと泣いた彼女を前に、私は呆れればいいのか怒ればいいのか、それとも殺せないほどの存在に慣れたことを喜ぶべきなのかわかりませんでした。

契約を交わしたあの頃からシワの一つ増えていない手で彼女の手を握り返し、泣き止むまで一言も喋らずその場に立ち尽くしました。
その1年後、彼女は老衰で静かに息を引き取りました。50年、ずっと心の何処かで旦那様のことを憎んでいたのです。しかし旦那様も和泉様がお亡くなりになられた後すぐに後を追うようにこの世を去ったので、お二人の葬儀などが忙しく何かを思うことも積年の鬱憤も今では他人事のようにしか感じられませんでした。

それからしばらく経ったある日、ようやく落ち着いてきた私はこのままでは自分は永遠に生きる事になってしまうと気が付き、とても焦りました。和泉様の書斎を漁り、生前彼女が収集した資料や伝聞を自らまとめた手記を読んだところ、吸血鬼の呪いで二次的に呪われた眷属は直接の主人ではなくその死後新たに引き継がれた次代の吸血鬼にも殺されることが可能と言うことがわかりました。一応は解決手段が存在することに息をつきましたが、呪いは国内限定とは言えほぼすべての女の新生児に引き継がれる可能性があることを思い出し、めまいがしました。

霊能者の血筋に限られるためある程度は絞られるとは言え北は北海道、南は沖縄まで範囲は広く、更に出生が国内でも外国へ赴くことは特に制限がないため発見が遅れれば遅れるほど見つけ出す難易度は高まっていくのです。

そのことに気がついたのが和泉様がお亡くなりになられて1年。もういつ次代の吸血鬼が生まれていてもおかしくない時期です。わたくしは慌ててお屋敷を片付け必要そうな資料と和泉様の形見から一つだけブローチをお借りしてすぐに全国を巡る旅を始めました。

それから20年、元々お屋敷が大阪にございましたので北に向かうか南に向かうか迷いまずは北海道を目指すことにしました。これが大きな過ちでした。その頃文子さんは北海道でお過ごしになられていたのですが、わたくしが北関東辺りを散策している頃には大阪に引っ越しされ、北海道に着く頃には福岡にまで南下されていたのです。

お陰で一度北海道まで向かった後折り返しまた西日本を捜索し、創作を開始しておよそ20年ほど経過した頃ようやく福岡にたどり着きました。

わたくしが福岡を探索し文子様を発見した直後、また文子様が引っ越しなされていたのでもう少し遅れていれば後何十年捜索期間が伸びていたか、想像するだけでも恐ろしいです。

と、長々と説明をしてまいりましたが、ここで冒頭にお伝えした文子さんとの出会いに戻ります。文子さんに彼女の特異性について伝えた後、私と彼女は東京へ引っ越しました。わたくしは普段和泉様の遺した魔術に付いての諸々を利用し霊体化して文子さんのおそばに居ますので、彼女の元恋人やご友人の目に触れたことはございません。彼女が一人暮らし(正確にはふたりぐらしなのですが)を始めてからは自宅で二人のときのみ霊体化を解いて家事を行っているのですが、捜索をしていた20年間霊体で生活しておりましたしそちらのほうが空腹なども感じないのでなるべくそのままで過ごしています。

気がつけば記事も4000文字を迎えすので一旦彼女の生い立ちと呪いについてのお話はこのあたりにさせていただきます。私の存在もこれらのお話もエイプリルフールネタというわけではございませんので今日に限らずまた少しずつ情報をお伝えできればなと思っております。文子さんもこれまでの生活を小説として再編集したものを執筆されてますので、そちらが投稿された際は是非読んでいただけると幸いです。


寺山

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