手放しで「保育ステーション」を称賛することが出来ない理由

保育ステーションとは

自治体が基幹駅に近いところに一時預かりスペースを持ち、保護者がそこへ連れて行けば職員がバスで市内の各保育園に送迎してくれます。
保護者はそのまま駅から都心部などへ電車通勤ができ、帰りも各保育園から保育ステーションまで連れてきてくれるので、仕事帰りの保護者は、駅の保育ステーションまで迎えに行くだけで良い、ということになります。

この「保育ステーション」の仕組み、千葉県流山市や埼玉県鴻巣市などで取り入れられているようです。ちなみに埼玉県川越市も2021年7月から始まるとのことです。

電車通勤をしている保護者にとっては、自宅に近い保育園に入れなかったとしても、駅まで連れて行くことができればOKとなるので、自宅近くの保育園以外の選択肢が増やせるというメリットがあります。

駅に近いマンションに住んでいたとしても、市街地から少し離れた広い園庭を持つ保育園を選ぶこともできます。
駅から遠いところに戸建ての家を持っていても、駅近に月極駐車場を借りて、車で送って行って通勤する、ということもできます。鴻巣市あたりであれば駅徒歩圏内の駐車場でも1万円を切るようです。川越市なら駅近で1.5万円くらいが相場でしょうか。(月極でなくてコインパーキングに停めても1日700~800円くらいです)
郊外は、東京都内やその周辺よりもずっと広い家や庭などを持つことも出来ます。
たぶん、自治体はそういう需要を想定してファミリー層を呼び込みたいのだということは理解できます。

すごく良さそうだけど、どうして手放しで称賛できないの?

(理由:1)保育ステーションの手厚いサービスは卒園の「6歳まで」だからです。そこからいきなり何もない状態に近くなります。
川越市の小学校を例に出しますが、こちらの公立学童は最長で18:30までです。そして「学校のPTA」だけではなく、町内会にも「育成会や登校班の役員」があります。旗当番、資源回収、子ども会のイベントの役員などが回ってきます。公立の学童に入ると「学童の保護者会の役員」もプラスされます。それら3種類が別々で回ってきます。
毎年何かしら役回りがあり、状況によっては同時に複数の役員をやらなければいけない、といった状態にもなりかねません。
公立学童での宿題も「宿題の時間を設ける」などの取り組みは特に無く「宿題をやるように、という声かけはするけれど子どもの自主性に任せる」というスタンスなので、やらずに帰ることも多いです。
小学校や学童周りの仕組みは、「保護者が子どもを手厚くサポート」するのが大前提で、「自治体が『働く保護者』を手厚くサポート」はまずしてくれません。保守的なまま何も変わってないところが多いのです。
ものすごく手厚いサポートを受けていた3/31の翌日、4/1からいきなり「はい!もう小学生だから大丈夫だよね、子どものためだから地域活動も共働きとか関係なく輪番制でしっかりやってね」とハシゴを外されるのです。
まさに小1の壁。保育園が手厚ければ手厚いほど、相対的に壁が高く感じるようになります。
個人的には「学童の保護者会」については必要なの?とは思います。仕事をするために預けているのに、その仕事が終わった後、平日夜に保護者だけで集まって長期休暇などのイベントの企画会議をしたりしているのは本当に良く分からないです。
流山市や鴻巣市はどうなんでしょうね。そちらのほうは分からないのですが。

川越市の公立保育園は、基本的に19時までです。もし保育ステーションを利用して、年長までは19時、もしくはそれ以降まで預かってもらえたとしても、小1の学童で30分以上短くなります。
そして、公立学童は川越市の場合、すべてが小学校の敷地内にあります。保育園のように「駅」ではなく「自宅近くの小学校の敷地内」までお迎えに行かなければいけません。
川越市の公立学童は基本的にお迎え必須です。学童から児童だけで徒歩帰宅はできません。
こちらには合理性があると思います。18:30に低学年を一人で歩かせるわけにもいきませんから。

そして、そもそも小学生になると「日常的に子供を19時過ぎまで預ける」こと自体が大変厳しくなると個人的には感じています。
夕食やお風呂など生活習慣以外の、宿題や学校の準備などの子供自身にかかるタスクが激増するからです。
私も子供の保育園時代は「なんで公立学童は公立保育園と同じ19:00まで開けてくれないんだ」と思っていましたが、今では「公立学童が18:30まで」というのは、それなりに合理的な理由があるとも思い始めています。

(理由:2)保育ステーションだと、「自分の子供を長時間見てくれている保育園の先生」との、直接的なコミュニケーションが格段に減るからです。
預ける前に見学はするでしょうが、入園してからの通常の登園は、駅に連れて行き、駅で引き取る形になるので、実際の園の中や他の先生の雰囲気などが分からないということになります。
園に直接送迎する場合は、日々ちょっとした雑談をしたり、園の中の雰囲気、どういうお子さんがいるかなどを観察できたりします。子どもが先生とどういう関係性を築いているか、馴染んでいそうか、なども何となく分かります。
「それらを直接見ることが出来る」というだけで安心感があります。保育ステーションの場合は、そういうコミュニケーションが激減するのではないでしょうか。

保育園だけでなく、小学校以上の組織改善も必要。

もちろん私は「保育ステーション」そのものを全否定するつもりはありません。便利になり、救われる親子が増えることは良いことです。
ただし、「小学校などの古くて保守的な体制」のほうもある程度改善してくれないと長い目でみて暮らしやすい街とは言えないのではないかと思います。
「6歳までの保育に手厚い」ということが「小学校も保護者に寄り添ってくれる手厚い自治体」とイコールとは限りません。
今の川越市の政策は、保育園界隈だけを手厚く整えているような印象です。
「小1になれば手が離れるでしょう。6歳までこれだけサポートしたのだから、あとは保護者自身で何とかしてくださいね」と言われているような気持ちになります。
実際、任意団体であるはずの育成会と、行政管轄にあるはずの公立小学校との関係についての問題などは記事などにもなっており、声も上げられていますが、そちらの改善は全く見られない状況です。

保護者の意識の改革も必要。

ただし、小学生の保護者にも自治体が手厚くなればそれだけで良いかと言われると決してそんなこともありません。
親自身も、小学生に上がる時点で、長時間ガッツリ働くぜ!みたいな意識は、少しずつ変えていったほうが良いとも思っています。
少数のスーパーエリートがシッターや家事代行、子供の勉強を見てくれる人などフルで雇って働くことまでは否定しませんが、そうではない普通の共働き家庭は、家の中のほうも出来る限り変えていく必要が出てくると思います。

特に「定時が10~19時、帰宅は20時前」みたいな感じだと、小学校は相当キツくなると思います。
小学校は8時20分くらいに始まります。子供は8時過ぎに学校に到着しているイメージです。自宅から学校までの距離によりますが、7時半~8時くらいの間に家を出る家庭が多いので、朝食や着替え、身支度を考えると6時半~7時くらいには起床することになります。9時間の睡眠時間を確保するとなると、遅くとも21時半~22時までに就寝させるのが目安になります。
「保育園時代は朝9時前に登園させれば間に合うから、朝は8時起床、22時半くらいまでに寝かせられればいいや、お昼寝もあるし」という感覚が通じなくなります。

公立学童では宿題をやってこないこともあります。やってきたとしても丸つけは親の役割だったり、音読や計算カードの練習を聞いて親がサインする、など親が見なければいけない宿題もあります。
翌日の準備、小銭の集金や、「明日、牛乳パック持って行く」と夜に言われることもあります。
私の場合は、夕飯、お風呂、歯磨きなど済ませて少し遊んでから寝かせ、夜寝かしつけた後に連絡帳を書いたり保育園の準備をしたりしていました。そういった保育園時代から激変します。

そして子どもの意思も強くなります。
小学校には徒歩で通学するため「行きたくない」などの気持ちがあっても、自分の足で行ってもらわないことにはどうにもならないです。
保育園時代は抱きかかえて保育士さんのところまで連れて行けば「後は任せてください、いってらっしゃい!」と送り出してくれました。(まあ、年長くらいになると抱きかかえて連れて行くというのもそれはそれで難しくはなるのですが)

保護者が心理的に寄り添わなければならない場面が格段に増えます。
もしも小学校の人員不足、設備環境などがすべて改善されて、小学校が共働き保護者に手厚くする余裕が生まれたとしても、それと「保護者がガッツリ長時間労働できるかどうか」とはまた別の話だとも思うのです。

最後に

確かに「保育ステーション」で待機児童問題は改善されるかもしれません。近くの保育園でなくても送迎が楽になるのであれば救われる保護者も多いでしょうし、市内にも子どもが多い地域、少ない地域などのバラつきもあるでしょう。それらの保育園にも同じように園児が集まり、経営が安定化するかもしれません。そういった政策はあってしかるべきです。

でも、国の政策もそうですが、現状は、6歳までの「保育」にばかり力が注がれているような感じがしています。でも、当然ながら子育てはそこでは終わりません。
保護者の問題だけではありません。公立小中学校の先生の労働問題もあります。中学に至っては給食実施率が100%ではないところもあります。「義務教育は無償である」とうたいながら、あれこれとお金もかかります。それらの集金事務を教員が行なっています。

その状況で「6歳以下の保育」ばかりに注力されても、入口部分の扉や玄関だけが豪華にされているだけで、部屋に入ってみたらまだトイレは和式で、台所には給湯器もありません、お風呂も薪で沸かしています、みたいな違和感を感じます。
子育て政策は、もっと全世代にバランス良くやってほしいと願っています。


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