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とくちゃんの電気工事

7月某日 雨降り
 
エアコンが壊れた。買うときも工事するときもすごい労力がかかるのに、壊れるときは一瞬であっけないね。
仕方ないので新しいのを買って工事を頼んだ。うちは一時期一世を風靡したTESガスエアコンがついていて、これがまあ、本当にたちが悪い。

詳しく書いても仕方ないので省き、普通の電気エアコンを買って、面倒な前の設備の撤去工程を経て、昨日やっと新しいエアコンがついた。最初にガスの方から来た人はおじさまで、電気店から派遣されてきたのは若者だった。明らかに経験値は年長者に軍配なのだろうけれど、頼りがいがあったのは若者のほうだった。エアコンは壊れていたけれど、彼らの帰ったあとに、ちょろりと涼やかな風が流れたような気がした。

工事の当日、涼やかなにいちゃんはもうひとりのにいちゃんを連れてきた。さらに、若かった。二人でテキパキ工事する。質問するといい塩梅のフランクさで当たり障りのない、でも好感の持てる返事を返す。
「とくちゃんみたいだ」と思った。

とくちゃんは、You tubeの「釣りよかでしょう」チャンネルに出てくる人だ。佐賀の30代のおっちゃんたちが、小学生みたいに釣りしたりDIYしたり料理している番組で、ステイホームになってからというもの、よく見ている。見ているうちに親戚のおばさんのような気になってきて、先だっての大雨ではどうしているかと真剣に心配した。そのとくちゃんだ。
とくちゃんは若い頃暴走族で、その後塗装の仕事についたので、やんちゃな外見に反して手先が器用で、電気や塗装にめちゃ詳しい。そのとくちゃんが我が家のベランダで、すでにさくさくと、後片付けを始めていた。

「ベランダにとくちゃんがいる」
テレワーク中の息子に伝えてから、あわてて財布を抱えて階下の自販機にお茶とジュースを買いにいった。うれしいよと伝えるのに、そのくらいしか思いつかなかった。
「お疲れさま、ありがとう」
渡されたジュースを脇に挟んで工具を抱えて帰る後ろ姿を見送りながら、ニコニコしてる自分がいた。とくちゃんだ、とくちゃんだ。あれはまぎれもなく、とくちゃんだ。

とくちゃんみたいな子は、たぶん日本にいっぱいいる。ヤワに見えるけど、意外と真面目で働き者で、ちょっと頑固だったりする。


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