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救急救命士国家試験-心電図問題攻略パターン3(クラッシュ症候群)

パターン3:クラッシュ症候群

パターン3はクラッシュ症候群について整理しています。クラッシュ症候群も救急救命士国家試験頻出の領域です。

【43回D27】

56歳の男性。森林伐採作業中に下肢が倒木の下敷きになり、同僚が救急要請した。救急隊到着までに1時間を要したが、同僚により10分前に救出されていた。
救急隊到着時観察所見:意識清明。呼吸数36/分。脈拍116/分。整。血圧108/78mmHg。SPO2値96%。
右大腿に圧挫痕を認める。
救急車内収容後の心電図モニター波形を別に示す。
この傷病者にまず行うべき処置はどれか。1つ選べ。

1.患部の冷却
2.頸椎カラーの装着
3.右下肢の牽引固定
4.除細動パッドの装着
5.ショックパンツの装着

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【正解】4
【解説】
右下肢が50分ほど下敷きとなり、解除されたという症例です。
所見をみてみると、呼吸数と脈拍数が多いです。右大腿に圧挫痕がありますが、変形や麻痺の所見の記載はありません。
心電図をみてみると、T波が高くとんがっていることが確認できます。
このT波の形をテント状T波と呼びます。

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テント状T波は高カリウム血症の際にみられる特徴的な波形です。
なぜ、この症例でカリウム値が上昇しているのでしょうか?
それは重量物によって筋肉が長時間圧迫されることによって横紋筋が壊れ、中身(ミオグロビン、カリウムイオン)が出てきます。
圧迫されている状態では、動脈も静脈も圧迫されたところより末梢側に血流はありませんのでミオグロビンやカリウムイオンはその場で増え続けるだけですが、圧迫を解除すると血流が再開し、ミオグロビンやカリウムイオンが全身へと流れていきます。
これが、この症例で高カリウム血症となっている原因です。

選択肢をみてみましょう。
1.やっても良いですが、まず行うべき処置ではない。
2.下肢以外の所見の記載はない。特に麻痺(脊損)を疑わせる所見はない。
3.右下肢の変形(骨折)があるのであれば固定ですが、骨折を疑わせる所見はない。
4.高カリウム血症では様々な不整脈が出現します。何が起きても不思議でありません。特に注意すべきは致死性不整脈(VF/VT)です。
すでに心電図変化(テント状T波)も出ていますので、すぐに除細動ができる体制を整えておく必要があります。現時点では意識は清明ですので、意識レベル低下が起こったら、脈、呼吸の確認を行い、必要ならばCPRを行います。
5.骨盤骨折の所見もありませんので違います。

クラッシュ症候群では高カリウム血症による致死性不整脈の出現に備えておく必要があります。

【42回D28】

42歳の男性。合意による山崩れのため家屋が倒壊し、近隣住民が救急要請した。
救急隊到着時所見:意識清明。呼吸数32/分。血圧100mmHg(触診)。
臀部から下肢が家屋に流入した土砂に埋まっており、約2時間後に救助隊によって救出された。
搬出後の心電図モニターで注意すべき波形はどれか。
心電図モニター波形から1つ選べ。

1.A
2.B
3.C
4.D
5.E

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【答え】1
【解説】
2時間下半身が土砂(重量物)で圧迫されていました。
クラッシュ症候群です。
前問で解説したように高カリウム血症となるはずですので、心電図はテント状T波となるはずです。
選択肢をみていきましょう。

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1.テント状T波が認められます。
2.正常の心電図です。
3.Bと比べるとわかるのですが、P波が確認できません。Pが確認できなければ心房細動です。高カリウム血症で心房細動になっても良いのですが(高カリウム血症ではどんな不整脈も出現する可能性がある)、テント状T波が認められないので、設問の注意すべき波形には該当しません。
4.ST低下です。狭心症か非貫通性心筋梗塞
5.ST上昇です。心筋梗塞

心房細動と心筋梗塞は別に解説しますので、今回は高カリウム血症でテント状T波を確認することができれば大丈夫です。

【まとめ】
クラッシュ症候群は、長時間の大きな筋肉(大腿など)の圧迫が解除された後に起こります。筋量が少ない上肢などでは起こりにくいです。(マッチョな人は別ですが。)
状況設定に長時間・下肢や下半身の圧迫の記載があればほぼクラッシュでしょう。
クラッシュで確認することは3つです。

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1.筋細胞等の挫滅融解による高カリウム血症
2.ミオグロビンが尿細管に詰まって起こる急性腎不全
3.循環不全等が原因で血管内皮細胞の障害による血管透過性亢進からの血管内脱水

です。

現場活動で注意すべきは2つで
1.高カリウム血症による致死的不整脈
 これは心電図モニター、除細動の準備を行い、VF/脈無VTになったらすぐ電気ショックです。モニター心電図でテント状T波が出ていればいつ致死性不整脈が出てもおかしくありませんので、ひたすら観察です(特に意識と脈)。
2.循環血液量減少性ショック
血管内脱水によるショックに対し、ルート確保後の輸液です。

頻呼吸となっているのは、代謝性アシドーシスを呼吸で体内のCO2を出して補正しようとするためです。

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