ODAの実態を見る!(その9)
「ODAの実態を見る!」(その6)(その7)で 水・衛生・環境ODAプロジェクトに携わってきた筆者の経験を基に、主にこの分野でのJICAプロジェクトでの問題点と提言を述べました。
今回は、JICA以外のODAプロジェクトについての問題点と提言を述べます。
(1) 他省庁によるODA
下水汚泥処理で日本でも余り普及していない汚泥再利用のセミナーを国交
省筆頭に関連団体、大学等様々な機関が同様のセミナーを行っている。
発展途上国は無論、中進国にもまだまだそれに適応できる法体系も存在し
ないし、資金や技術的問題からも、そうした施設や建設も運転維持管理で
きる訳ない。
日本の法体制も矛盾があり、再利用するにも様々な制限因子が解決してい
ない。
同じ内容で理想論のセミナー開催を何度も開催しても無意味であるし、こ
うしたことを続けるのは単に国際貢献に参加しているという売名行為で税
金の無駄使い。
また環境省がベトナムで水産廃水処理試験を我が国のいくつかの中小企業
に行わせたが、内容は全くお粗末で中学生の実験程度である。
それに対し環境省も何も考察できない。
これも単にわが省もODAを行っているという宣伝用。
誰がどのように評価しているのか?
(2) 他援助機関による援助
我が国も資金援助しているADBやWBなど他の国際援助機関が行うプロジ
ェクトは能書きやセミナーが多いが、一般的にJICA以上に質が悪く、無意
味・無駄。
資金援助を続けるには我が国としてきちんとしたプロジェクト評価をする
ことが肝要。
以下は、いいかげんさを示すほんの数例。
1) WBの例
● ベトナム・ホーチミンJICAプロジェクトの前、下水のプロジュエク
トを行ったが、下水をサイゴン川に放流する事を提案。
しかも浄水処理場水源の上流に。
● モンゴルでパオの集団を小規模下水処理場建設調査プロジェクトで
パイロットプロジェクト行ったが、冬期管渠凍結で下水流れず、デ
ータ取れず。
2) ADBの例
● ネパールで4ケ所のDistrictで水質分析所を建設し、簡易分析キット等
を配布したが、その指導もせず、また頻繁な停電対策もせず、その
簡易分析器機器さえも使用できず、放置されたまま。
● カトマンズで地方官吏向けに経営含む水道事業トレーニングセンタ
-みたいな施設を建設したものの、例えば教えるセンターの教育係
も分析法の原理も理解せず、有効期間とっくに切れている試薬を使
っていたりで、満足な教育になっていない。
● カトマンズで窒素・リン除去含む高度処理下水道プロジェクトを形
成したが、頻繁に停電が発生し、今まで下水処理などしたことの無
いところに、いきなり高度処理プロジェクトを持ってくるとは。何
を考えているのか?
技術的にも財政的もSustainableの訳がない。鉛筆舐めるのか?
● プロジェクトコストを安く挙げる為かADBプロジェクトは経験・知
識が不足しているにも拘わらずローカルコンサルト雇用割合が高
く、為に概して質が悪く結局、美辞麗句で並べ立てたTORに美辞麗句
で応札し受注した結果と成らず、また同様のプロジェクトが形成さ
れ、また失敗する繰り返し。
JICAプロジェクトもJBICと併合してからは International staff は求められ
る事項多い割にはプロジェクトやアサイン期間短く、代わりにローカルコ
ンサルの割合が増えているのことも同じ失敗をし、結局同様のプロジェク
トが必要になる悪循環に陥ってる原因である。
今後、更にInternatinal staff を減らそうという動きがあると聞くが、益々
ODAの質を落とす気か?
3) その他援助機関
● ネパールである国際機関が提供したヒ素簡易分析セット精度を検証
した時、、新品であっても標準液濃度を指示値が合わない。
これでは測定値から基準値以下(我が国10倍)と判定しても実際は
基準値を上回っているという大いなる危険性をはらんでいる。
● EUはEU加盟国になるに当たって環境問題を重視し、環境インスペク
ター制度を採用して、そのトレーニングを行う。
ただし、セミナーだけで実技はない。
従って、セミナーに出席しただけで何も残らないとマケドニアでセ
ミナー参加者は言っていた。
● あるEU加盟国がマケドニア既存下水処理場の増設に当たり、汚泥消
化⇒メタン回収⇒燃焼・発電設備を導入したが、すぐに運転できな
くなった。
主な理由はカルシウムが多くて消化・メタン発酵に支障が出ること
、すぐ汚泥配管内にスケール発生して詰まる事、技術的程度が高す
ぎて施設の運転・維持管理できないことであった。
その割には小さな分析所には下水や汚泥分析には不向きな簡易分析
トしかなかった。
● ウクライナでは、欧州復興開発銀行のレポートで「ドニエプル河は
死んだ」 というショッキングな記事が出た。
筆者は、真実を知るために調査に訪れた地域の川べりに死んだり・
奇形の魚がいないか、また釣り人にも話を聞いてみたが、そんな事
実はなかった。
真偽を探っていくうちに、ある工場からドラム缶2本の塩酸が流れ出
たのを基に、欧州復興開発銀行に雇われたコンサルが書いたのだとい
う。
ドニエプル河といのは、向こう岸など全く見えぬ大河である。
それがたったドラム缶に入っていた塩酸2本を流したと言って、その
大河が死ぬ訳ない。
極秘(有料)でドニエプル河の水質データを収集したが、そうした事
実は見当たらなかった。
その事実を会議でウクライナ政府側に話したら、相手側がキョトンと
した反応であった。
● 上下水道プロジェクトで、どこの機関もAMS (Asset Management
System) みたいな管理システムの構築をTORに入れて、コンサルはそ
れを成果品としてアピ-ルするものの、そのシステムに入れるデー
タの信頼性・正確性をどう担保するかには殆ど触れない。
これは仏創って魂入れず。宣伝用。
(3) NGOへの援助について
このたび(2018年)「ODA改革」に関する有識者懇談会で示されたものは、
結論ありきの「NGOへのODA予算増額」が提言されただけと言っても過言
ではない。
確かに他国にCare International など他国NGOに比べ、我が国のNGOに対
する予算は低く、活動もままならない。
しかしながら、以下の例はバングラデシュ水道プロジェクトで砒素除去として怪しげな
処理法、処理剤を採用するプロジェクトを見受けたが、処理した砒素を含
む汚泥や吸着剤をどのように処理・処分するのだろうか?
土壌浸透試験等を行って再度環境中に出現しないという文献をまず見たこ
とがない。
それがなくては、その方法は完全とは言えず、やはり負の遺産として残る
だけである。
また、家庭ゴミを家畜の糞尿に混ぜてメタン発酵し、発生したガスを再利
用するというプロジェクトはいくつかの成功例として宣伝されてはいる
が、実際見に行ったコンサルは成功なんてとんでもないという者もいる。
筆者も海外プロジェクトでNGOの活動を度々見たことも多々あるが、工学
的条件が詰められておらず、普及にはワンパターンでいかないはずであ
る。
これも宣伝の意味も強いと思われ、きちんとした評価をすることが肝要で
ある。では誰が評価を行えるのか?
最後に
● 筆者は、水・衛生分野で国内外において約50年間、失敗を含めた広範
囲な業務を経験し自分の技術や技術屋としての信念・魂を国内外の若
い世代に伝えたいと思ってきた。
幸い海外の若い技術者には、一緒に学ぶ On -the-training を通じて、こ
うしたものを少しは伝授できたかなと自負している。
更には通訳にも影響を与え、プロジェクト終了後、元々文系であっても
環境関連学科の大学や大学院に進む者が何人もいた。
● 「ODA実態を見ろ!」というシリーズは、これで一応筆を置きたい。
各パートが長文で、読んで貰える方は殆どおられないと思うが、水・衛
生分野ODAの実態を知る機会になれば幸いである。
● 今まで書いた事は2018年時点までの事であって、その後良い方向に進
んでいれば幸いである。
● 実は2018年以降もいくつかプロジェクトの誘いの話があり、元受け会
社がが受注して、元受け会社と契約済んだものも2件あった。
現地派遣が迫る中、新型コロナに対するJICA方針、即ち「65歳以上の
高齢者の派遣の是非は、コンサルが判断する事」という口頭での通知
から忖度したのと、受注したプロジェクトの中身が、今まで述べたよ
うな元々問題だらけのプロジェクトで、美辞麗句のTORとそれに答え
た美辞麗句で飾った実現不可能な提案書内容に嫌気がさして、最終的
に断った。
● また、ここで挙げた提言に少しは反応したプロジェクトが今後、特に
JICAから出てくるかも知らないが、筆者はこれからも、生ある限り、
それが, “やってますよ” という宣伝ではなく本質的・Sustainability
を担保しうるプロジェクトであるか、目を光らせていきたい。
国民の税金使うのであれば予算消化だけのプロジュクトは許されない。
■ 今後、時間が許す限り自分の足跡を詳しく振り返るためにも、違う視点
で、各プロジェクトの業務内容だけでなく、その国での生活経験等も含
めた経歴書的なものを書いてみたい。
■ また、より深く業務内容を知って貰い、今後の若い技術者のためにNote
では無理でしょうが、技術論文的なものを、何らかの形で発表したいと
考えております。
ご一読して頂いた皆様本当に有難うございました。
本当に有難うございます。励みになります。元々書くことは好きなのですが、一旦書き出すと長くなります。こんな時、絵心があればと思います。