ODAの実態を見る!(その5)

今回は経験した問題のあるプロジェクト・内容の例を具体的に挙げよう。

(1)   塩素注入施設で万一薬品を被った時の安全対策なし
  ● 小さな浄水場共通。大規模でも不十分。
     これも運転維持管理上の問題。
  ● 塩素注入施設は少量の塩素を殺菌のため注入する必須施設である
             が、塩素剤は昔毒ガスとして使われ、その取扱いは充分注意を要す
             る。
             安全対策は万一の場合全身を或いは目をシャワーで洗浄する付帯設
             備もつことが要求される。
             しかるに、その安全対策はないがしろにされ、運転維持管理マニュ
             アルでも触れない。
       ● 発展途上国では安価な固体塩素剤を溶解して使用するが、溶解のた
    めに水配管はある。
    そこにバイバスをつけて万が一の場合シャワーを浴びれるように指導
           した。
   小規模な浄水場は常に水を満たしたバケツ2個を常備するよう指導し
   た。

(2)  カザフスタン某市浄水場
  ● 試運転した結果、原水濁質濃度低すぎて薬品注入、凝集・沈殿効果
     殆どなし。⇒水処理プロセス選定の誤りで凝集池、沈殿池及び高分
    子凝集薬品注入施設殆ど使用する必要はなく、凝集剤注入はむしろ
    後段のろ過池の目詰まりを促進する。
(図-1)
   
            むしろ、ろ過池の手前の配管中で凝集剤を注入するバイバスラインを
            持つべきであった。

画像1

  ● これは、コンサルも指示せず、メーカー(インド・デグラモン)が
     試運転まで全く水質分析を行わずに設計したため起きたためである
             が、更に浄水場プロセスといえば、凝集⇒沈殿⇒ろ過とワンパター                 ンに凝り固まったためではないか。           
  ● また冬期原水水温が2℃程度であり、薬品添加の効果も沈殿効果も期
     待できない。
  ● 単に湖沼が原水というだけの情報で施設計画し、しかも薬品注入装
     置の附帯設備が不完全で薬品注入率等の定量的管理困難。


処理トラブルで客先から不満が出てあわててフランス・デグラモンが出てきたが対応能力・知識すこぶる貧弱であった。

(3)  ネパール無償水道
高濃度溶解性鉄分を含む井戸水の小規模処理施設。

鉄分を多量に含む水を供給すると“黒い水”となり見た目に悪く、洗濯時に衣服が黒く染まってしまう。

溶解性鉄分を除去するには、図2のように空気(Compressor)で酸化するか、塩素で酸化し、濁質に変化させ、沈殿或いはろ過或いはその組み合わせで除去する。

画像2

ここでは原水が高濃度鉄分のほかマンガンを含むため我が国の水処理メーカーがAeration Tank による溶解性鉄酸化の後、特殊な除鉄・除マンガン濾材を使用したろ過機を後置した。
マンガンの存在は鉄以上に“黒い水”となる。

しかしながら訪問し現地で筆者が運転確認した時、以下の事にすぐ気づいた。

1)  空気酸化時間不足
  ● 滞留時間 (原水と空気接触時間不足):経験があれば計算ですぐ分か
     る。
     従って空気酸化による溶解性鉄分の除去は期待できないで、後段の
     ろ過機に負担がかかる。

   このことは、現場水質分析でも立証された

2)  Aeration Tank上部ネットの度重なる破損
  ●  酸化して濁質化した鉄分を除去するため、比重が水より小さいろ過
    材
を前処理用Aeration Tankに使用しているが、上部に抑えをしてお
    かないと、このろ過材は容易に上部から流れ出て、次のろ過機に全
    部流入してしまう。

    そのためろ過槽上部を金網ネットで覆い、このろ過材の流出を防ぐ
    構造となっている。(図-3)

画像3

  ● しかしながら原水は下部から上部に流れる上向流でしかも空気酸化
     を行っているから、水は常に上部方向に力がかかる。
             従って一見して予想できたが上部ネットは度重なる破損を起こし、
     前処理用ろ過材は次のろ過タンクへの流入が起こり、上部ネット修
             理の度施設は停止した。

3) 仕様と異なる塩素注入装置が納入されていた。
  ● Compressor による空気酸化が旨く行かなない場合に備えて、塩素で
     溶解性鉄分を酸化する塩素注入装置が納入されていたが、運転した
     ら、塩化ビニル配管が破裂した。


             原因を調べたら、納入塩素注入ポンプの仕様が、計画の注入能力・                 圧力仕様と違っていた

  試運転時に気づかなかったのかと、そこの場長に確認したら、試運転時
  日本のメーカー・ゼネコンが試運転をスポイル
したということであっ
  た。

4) 後段のろ過機ろ過材交換費用が捻出困難で持続性担保困難
  ● 後段のろ過機は鉄分除去というより溶解性マンガン処理用に計画さ
     れたものであったが、前処理施設能力不全のため結局鉄除去は殆ど
             後段のろ過機で行われるため、このろ過機に負荷が掛かり、定期的
             にろ材の交換必要となる。

  しかるに、その特殊濾材は日本製で非常に高価(数十万円/m3)で村の
  予算で取り換えは殆ど不可能で持続性は困難と言わざるを得ない。

5) その他運転維持管理上の問題点
  ● 原水鉄濃度が高すぎて流量計に付着し、流量読めない。
     結果分解洗浄が頻繁に必要となるが、分解工具も不充分で、精密機
     械であり、日本の業者頼み。
     従って造水量不明で造水コスト含む定量的解析不可能

  原水の鉄濃度が高く、前処理がうまくいっても、上記長期安定的運転の
  持続性担保は困難で元々処理プロセス選定が間違っている

  原水鉄分は8-9mg/Lでこれほど鉄濃度高いなら、溶解性鉄分の酸化⇒沈
  殿⇒砂ろ過というConventionalな処理法
で凝集剤も必要ないだろう。

(4)  マレーシアの下水専門家派遣プロジェクト(フェーズ 1で建設した15
   ケ所の下水処理場パッケージ)で適切な省エネ高度処理運転を指導し
   た時の例。

 1) 微生物活動に大きく影響する空気供給装置(ブロアー)からの空気供
    給量が、ある項目の測定結果の解析からブロアーの吐出流量に比べて
         末端配管で少ないと感じた。

  現場を詳細に調べたら図面にない配管があり、そこからシューシューと空
  気が漏れていた。
    そこのバルブを閉めると微生物反応槽から供給空気量が多すぎて水が溢れ
    だした。

     改めてブロアーの仕様を確認すると能力大きすぎて、元バルブで空気量を
     調節すると運転上問題が出るしろものであった。 

 機器の選定・試運転は日本の水処理メーカー。

 2) ある処理場では計画値の1/3の下水しか流入せず、施設運転は半分でも
    充分だが、そうしていなかった。

   理由は片肺運転すると片方の槽が傾く恐れがあるということであった。 
   施工は日本のゼネコン。こうしたごまかしはあちこちで経験した。

 3) 大規模下水処理場で汚泥消化タンクを計画施工したが、原水濃度が薄
    すぎ汚泥中の有機物濃度低く消化が起こらない
         - 水質分析のスポイル。過剰設備

 4) 汚泥処理の日本製前処理用ドラム濃縮機は水分と汚泥を分離するため
    金網ネットを使用しており、ネットをドラム外壁に固定しているとこ
         ろから漏れると一見して予測したが、案の定既設15か所のうち13箇所
    の処理場でこの機械では汚泥濃縮ができず、運転停止であった。


      幸い後段の汚泥脱水機の性能が予想以上で脱水自体に問題はなかった。

    これは水質分析もせずにマレーシアがEUの指針を盲目的に信じた数字を
  日本のコンサルもただ使用した結果であり、また機械選定に対する実務
  経験不足からくる甘さの結果で、結局相手国から過剰設備と言われた。

 5) 浄化槽汚泥受入れ処理場の問題
    このプロジェクトでは何か所かで浄化槽汚泥を受け入れ処理している
          処理場があったが、

  ● 紙類がポンプ詰まらせたり、流入量が計画よりはるかに少ないのに
     拘わらず処理が旨く行かず、処理水再利用施設として、このプロジ
            ェクト全体で共通に具備していたろ過器を頻繁に詰まらせて、その度
             ろ過材取り出し含むろ過機内部の清掃が必要になった。

  これも、水質分析せずに処理プロセスを考えた結果であり、水量が少な
  いことから一部運転方法を変えさせて少しは処理効率が改善した。

6) 全体に実際の流入負荷が計画よりはるかに少ないのに(中には原水流入
    水質が処理水規制値より低い)適切な定量運転管理ができておらず、た
      だ水が流れているだけという処理場が多かった。

   ●    4ケ所で3種類の処理プロセスについて定量的水質管理を指導した。

   指導の背景・方法・成果については今後作成する予定の他シリーズで
   紹介しようと思う。

このマレーシア下水処理場建設プロジェクトフェーズ 1 自体はは皮肉にも我が国の海外建設コンサルタント協会からは表彰状を貰っている。

(5)  ミャンマー・地方貧困削減・水供給分野プロジェクトフェーズ1
 「ODAの実態を見る」(その2)でペルー某市下水プロジェクトの問題点
  の一部を紹介したが、本プロジェクトは筆者にとり自営コンサルとして
  、最後の段階で参加した最後の海外プロジェクトであったが、コンサ
  ル・施工業者・地方自治体とも程度が低かった。

1) いいかげんな計画
  ● カウンターパート(CP)が計画した配水区域のレビューなし。
  ●  漏水率考慮しない施設計画・設計。 
  ●  施設運転後、すぐに浄水場が能力不足になり、CPが設計条件無視で
    通水し、結局水質改善なし、或いは濾材がすぐ詰まり、通水できな
    くなる。
  ● 詰まれば、その濾材層の表面を搔きとって捨てるが、濾材洗浄装置
     を入れてないから、頻繁な詰りが起こる条件では、すぐに濾材層の
             厚さが足りなくなり、使い物にならないことになろう。

    結局何のための円借プロジェクトか?

2) 適当な分析機関がミャンマーにはない
  ●  濾材の詰りの原因を探ろうにも適当な分析機関がミャンマーにはな
    い。

   ISOを持っているという試験室も訪問したが、分析とは何かというこ
   とが全く分かっておらず、お話にならない。(ISOや国認定機関審査員
   も無知・無経験)

   従って無論計画時水質分析はない場合が多いか、いい加減。

3) でたらめな水処理方式・施設計画
  ● どうせ望む水質分析項目はミャンマーではできないから、分析に頼
     らず筆者の経験から濾材の頻繁な詰りの原因を探った結果、もとも
             と水処理方式が間違っていたという推論となった。
  ● 全体として施設計画は全くでたらめといわざるを得ない。

  前処理施設も水質を全く考慮しないため定量的な設計ではなく、予想通
  り、適切な管理ができるにはほど遠い施設計画と言わざるを得ない。

4) でたらめな消毒設備計画
  消毒塩素注入設備も同様である。

  ● 小規模浄水場では消毒塩素注入のための塩素剤溶解は棒で撹拌する
     という非現実的なこととなっていたが、予想した通り計画溶解濃度
     が高くて、とてもじゃないが塩素剤溶解を人力で行うには無理があ
     った。

  ● そこで可搬式攪拌機を試験的に購入し(たまたま、地方で最近オー
     プンした大きな工具店で材質も最適な日本製の移動式攪拌機が入手
     できた)、ある小さな浄水場で試したら、CPが関心を示しCP側で購               入して貰うことにした。(本来プロジェクトコストに含まれるべ                    き)。             
  ● しかしながら計画塩素剤溶解濃度がやはり高く、全部を溶かすのは
     無理があった。 
     溶解濃度を下げれば(最高計画値の1/20))容易に溶解できること
     は他のプロジェクトで経験していたが、いかんせん計画溶解濃度が
             高すぎる。

  計画した時の土木屋さんは文献で溶解度を確認したというが、ミャンマ
  ーで実際に入手できる塩素剤は我が国の試薬と違うし、試験室でビーカ
  ー規模での理想的な強撹拌での結果を参考としたのが元々非現実的。

  実用的な塩素剤溶解濃度でも必要塩素注入量は水質により変わるため、
  塩素剤注入ポンプの選定は余裕を持って行われるが、このプロジェクト
  では溶解濃度が高すぎで、かつポンプの余裕は全く考慮していない。
  
  しかも必要塩素注入量は、原水水質により変わるが、水質分析を行わな
  いで計画・設計しているか
ら原水によっては塩素注入ポンプ能力が不足
  する。 

  塩素溶解濃度が塩素剤が容易に溶けるほど低濃度ならば、塩素溶解濃度
  を上げることでポンプ能力の調整もつくが、その方法が使えない。

 先のでたらめな技術的な理由のほか地方の浄水場では塩素剤購入コストの
 ため結局塩素消毒は行われていないと思われる。 

 コストの問題は発展途上国特に小規模水道では、ほぼ共通で何の為のプロ
 ジェクト?

5) コスト優先の弊害
 ● 本プロジェクトではプロジェクトコスト優先で水処理経験の少ない日
    本人プロマネマネージャ(以下「プロマネ」と略す)が大した現地調
         査もせず計画・施設設計し、上記のような問題点を露呈したが、何と
         いっても彼を補佐する日本人のアサインも年に数カ月である。
       (筆者の場合、2年間で5.5ケ月、対象浄水場15ケ所、一地方から他地方
         移動だけで1日かかる) 
 ● 施工管理などはCPが監督することになっていたが、実際地元施工会社
    やCP及びローカルコンサルタントの監督・施工能力は決定的に不足
    ていて、寸法が図面と大幅に違う、機器の仕様・取付位置が違う、欠
         落しているなど行くたびに手直しさせた。
 ●  構造物施工会社のほかローカルの機器メーカーもいい加減でまともな
   施工・試運転もしていないのにCPと組んで試運転結果をでっち上げて
   くる。

   現場で確認すれば、嘘だらけ。
 ● これは入札の時ろくな技術的審査もせずに単にコストが一番安いとこ
    ろをその場で決めた弊害で、筆者には予想されたことであり、プロマ
         ネに苦言を呈していた。

 ● 短いアサインで現地へ行くたびに問題だらけで結局自分のアサイン期
    間にすべてのプロジェクトは終わらなかった。

 実際筆者のアサインは5.5ケ月といっても、プロジェクトに参加してから資
 料を見て様々な事を指摘し、現場を調査してはプロマネと衝突し、プロマ
 ネも望んだため結局アサインは4ケ月で打ち切り、残りのアサインをプロ
 マネに回した。

プロマネが残りのわずかなアサインで積み残し、未解決の問題をどう解決したか、定かでない。 

6) ミャンマー水道行政について
 ● ミャンマーでは日本の厚生労働省に匹敵する水道を管轄する国の機関
    がなく
、統一した水道施設の計画、施設計画・設計手法、運営管理に
    関する規定等が欠落している。

   そのため、水道施設自体への理解が地方行政機関ごとに異なる。

  例えば、ろ過材は国際的には使用する粒径の範囲が決まっていて、機械
  で篩分けするが、ミャンマーでは2018年時ろ材を篩分けする機械がなく
  人力で行っていた。
  篩も手作りでどの程度信頼できるか分からない。 

  そのため計画所定の水質が得らえるかは甚だ疑問である。
 
 元々こうした状況でのプロジェクト形成に無理があり、組織・法律、信頼
 できる分析機関の整備・確立が先に解決されていなければならない。

 筆者のアサイン中の経験からすれば、ペルー某市下水道プロジェクト同
 様、本プロジェクトは円借款案件なのに、ミャンマー・日本国民に負の遺
 産を残したのでは?と危惧される
ところである。

 フェーズ2では、こうしたことの無い様に計画から基本に戻って行って貰
 いたい。


本当に有難うございます。励みになります。元々書くことは好きなのですが、一旦書き出すと長くなります。こんな時、絵心があればと思います。