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ODAの実態を見る!(その6)

今回から水・衛生・環境ODAプロジェクトに携わってきた筆者の経験を基に、主にこの分野での問題点と提言を述べていきます。

総分量は多いので、やはり何回かに分けて述べます。

今回は1. ODA自体の問題点と2. JICAプロジェクト問題点、要望・提案等について述べます。 

1. ODA自体の問題点

今まで主にコンサル側の問題を述べてきたが、JICA(外務省)及び日本が活動資金を支出しているADB(アジア開発銀行)、WB(世界銀行)等他援助機関、及び外務省以外の他省庁によるODA、NGOによるプロジェクトの問題も効率的なODAという観点から問題点を明らかにして、改善のための提言としたい。

2. JICAプロジェクトの問題点、要望・提案等
  
 
(1) 世銀等をマネしすぎ、調査もので終わるのか?
 ● PDM、PPP、PFI、CDM、3R、再生エネルギーなどがキーワードとなる
    プロジェクトがやたらに多い。 

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 これらは世銀あたりのプロジェクトをまねしたものと思われるが、JICA自
 体で意味や適応性を消化しているか? 

 JICAが消化しているかはTORを見ればすぐ分かる。
 消化できていないものはTORが漠然としている。

 PPP、PFI、CDMなどは我が国でさえ余りなじみのないものであり、また適
 用に当たっては様々な課題があり、ましてや監督行政機関やローカルコン
 サルの能力が未熟な発展途上国での適用は極めて困難であるのは、明らか
 である。
 彼らに能力があればInternational Expertのアサインは不要
 
 従って調査だけでレポート提出・予算消化だけが目的化し、理想論だけの
 無駄なプロジェクト
と言える。

 PDMもそのものを作成することが目的となっているプロジェクトがあり、
 本末転倒
である。

 なお、世銀は「市長を変えなければ援助しない」と公言し、自分たちの好
 き勝手を押し通そうとする機関で、TORで書かれている内容は美辞麗句
 満ちているが、実際行っているプロジェクトの質は低い。

(2) 類似プロジェクトの繰り返し

 ● 消化できていないTORに対し、受注しようとするため頭の中だけで考え
    るコンサルのプロポーザルは立派でも実際履行は困難で調査、結局何
    度も何年も同じところで同じようなプロジェクトが続く。

  フェーズ分けとは違う成果の上がらない無駄なプロジェクトが以前中国
  やベトナムでよく見られた。
  これは“アドバイザー”と言われる官公庁出身者が好む国・地域に多い
  は偶然だろうか?

(3) 廃棄物管理プロジェクトは予算消化か?

 ● 水・衛生分野では適当な水プロジェクトがないと、廃棄物管理プロジ
    ェクトが増える傾向がある 。
    ただこのプロジェクトは調査ものが多く、TORも3R等ワンパターン
    ある。

  大体わが国でもごみの分別含め3Rで、いまだ問題山積みなのに発展途上
  国や中進国で本気で行えると思っているのだろうか? 

  ごみの分別でも相手国の分別用収集車、回収場所等の現実を考えずにプ
  ロジェクト成果を求めてもうまくいく訳ない。
  
  コストの問題で衛生埋立て(図-1参照)さえもできていない発展途上国が
  殆どなのだから。

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 ● 以前から特にRecycleに疑問を持っていた。
  
    発展途上国でも住民が中古品販売業であるジャンクショップに不用品
         を持っていったり、収集したりする人々・組織はある。
         またペットボトルや瓶・空き缶・紙類等を収集してリサイクル業者に
    運ぶ業者もあるし、最終処分場(ごみ捨て場)ではスカベンジャー
    呼ぶ人たちが、その日の糧のために金目になりそうな物を集めてる。   
         
    しかしながら、それらを原料に何かにリサイクルできる大規模業者の
          存在は極めてまれである。
         せいぜいそれらを圧縮して他国に運べる形態にできる業者の存在があ
    る程度である。
   
    我が国だって実は家庭ごみ等からリサイクル用として分別されたごみ
    を全て自国でリサイクルしいている訳ではない。
 
         だかたこそ近年は3RよりReduceとReuseの2R運動が叫ばれている
          だ。
          第一、発展途上国では、ごみの分別体制は収集運搬含めいまだ脆弱
          ある。
         そんな状態でODAは未だに3Rを叫んでるのは、滑稽と言えよう。

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(4) ODAの目的は“日本の旗を立てる”ことだけか? 

 ● 強引なプロジェクト形成していないか?

          例えばプロジェクトの形成段階、プロジェクト準備調査の段階から問
          題のあるプロジェクトをきちんと検証できていれば、上記ミャンマー
          案件は成立させてはいけなかった。

  相手国からの要請ベースと言っても商社や水処理メーカーがプロジェク
  トを強引に仕掛ける場合が多く、またJICA内部で適切に評価できる能力
  がないのではないか? 


   この場合もJICAのTORが漠然としているからJICAで消化できているプロ
   ジェクトかは、TORを見れば予想は付く。
   仕掛けた商社・コンサルの意向もJICA TORを見れば予想は付く。

   ミャンマー案件は第2期もあり、「ODAの実態を見る!」(その5)で
   述べた第1期と同じ轍を踏まない事願うが、第1期を行ったコンサルが第
        1期同様の計画・施設設計をしている。

        それらを踏襲するならば第2期を行うコンサルは第1期コンサルと異な
        っても同様の問題に直面することになるだろう。

(5) 積算、環境社会配慮、住民啓発、運転維持管理担当を重視せよ。
 
 アサイン上これらの担当の評価は低く、アサイン期間も短いためコンサル
 は若手を充てるが、どれもプロジェクト遂行の為には計画・設計、施工管
 理等の内容を充分理解できなければ、まともな業務遂行はできない。

 言い換えればプロマネクラスの能力を有する者が担当するのが望ましい。

1) 積算

  超概算見積りなら、例えば下水処理量当たりの工事単価算定の式が我が
  国の下水事業団から出ていて、相手国の実情に合わせて係数を変えれば
  可能であることは筆者もいくつかのプロジェクトで身を持って経験して
  いる。

  ただ、土木屋でない筆者は、工事の経験もない若手コンサルでさえ、も
  う少し精度の高い概算見積りを短時間で作成する能力には驚嘆させられ
  た。

  また詳細見積もりは機械類据え付けを含む詳細な工程やそれに使用する
  重機械など、実際の豊富な現場経験がないとできないと思われるのだ
  が、これも若手が格闘している様に尊敬し、一方心配していた。
  特に運転維持管理部門を考えられないからである。

2) 環境社会配慮

  米国では環境社会配慮などは別プロジェクトである。

  環境社会配慮の責任は相手国にあるというのがJICAの言い分で、環境社
  会配慮は受注する上で評価対象外だから、経験のない若手、特に文系が
  当てられる。


  そして経験のない若手は単にJICAマニュアルや他例に倣うだけで「影響
  は少ない」「影響があっても軽微である」という結論ありきの表層的な
  調査
で済ます。

  一方、一般的にプロマネは土木屋で、この分野の経験ない場合が殆どで
  若手担当者に任せきり、内容検証もせず、JICAから内容の問い合わせが
  あれば若手担当者に丸投げで対応させる。

 ● ミャンマー・地方貧困削減・水供給分野プロジェクトフェーズ1の例

  前任者から引継ぎのため14ケ所の小さな水道施設建設予定地の1ケ所を
  初めて訪問した時のことであった。

  建設予定は信仰の対象となる仏が祭られていて、その地区住民の憩いの
  場所である公園に隣接していた。
  小さな浄水施設の建設が始まれば近隣住民から反対運動が起こると直感
  しプロマネに伝えた。

  建設が始まったら案の定、全国紙やテレビにでるほど反対運動が起きて
  しまった。

  現地JICAは金で解決しようとしたが、金で解決した事が暴露されれば他
  のケースでも起こり得ると考え、筆者は熱心なCPと共に住民と協議を重
  ね浄水施設位置・配置の一部変更を含む対案を示し、住民からなる監視
  委員会を組織することで解決させた。

  これは環境影響評価に全く不慣れなコンサル、プロジェクトを示す一つ
  の例。JICA担当者は現場も知らないミャンマー人の博士

  また、このプロジェクトでは、測定もしないのに工事中の騒音・振動・
  大気汚染対策の他、水質汚染を防止する事を工事業者に義務付け・月報
  としてコンサル・CPに提出することを求めていた。

  これも形式だけで水質以外規制値もなかったが、水質だけは規制値があ
  った。
  何と飲料水と同じ基準が排水と飲料水の基準の違いも理解できないロ
  ーカルコンサルが作成したものをそのまま使い続けていた。
  
  でも月報は単なる形式。

3) 運転維持管理の軽視

 ● 運転維持管理はJICA TORでは、何を考えているのか “運営管理”となっ
    ている。何回かJICAに申し入れしたが一向に改まらない。
   運転資金のことばかりに気が行き、水が流れていればいいという発想
   なのだろう

  筆者は水質管理のための運転・維持管理のトレーニングはいつもオペレ
  ーターを育てるより徹底的なOn-the-job トレーニングで環境問題全般
  に興味を持つトレーナーを育てる
という視点で、かつ一緒に考えよう
  いう姿勢で臨んだ。

 ● 施設の運転・維持管理特に定量的な解析をし、施設の評価を行うに
    は計画・施設設計概念、具体的な施設設計、モニタリング体系、環
          境に関する法体系、環境影響評価、住民啓発等の幅広い経験と知識
          を必要とする。

  ● 評価対象外とか短期間のアサインで済む話ではない。

  ペルー某市下水プロジェクトでは、管渠敷設地帯で清掃車が入れない地
  域があったり、水配管がない、天井が低すぎてポンプを引き上げても点
  検修理ができないポンプ場が多々あった。 

  施設運転維持管理に慣れた者が始めからプロジェクトに参加できる余地
  があったら、こうした無様なプロジェクトにはならなかったであろう。

  これはコンサルの問題ではあるが運転維持管理の経験を有している人
  材は極めてまれ
で、通常「運営維持管理」でアサインされると運転維持
  管理マニュアルを作成する時、内容理解せず日本下水道事業団のものを
  ただ写したり、製本された内外のマニュアルをそのまま採用する輩が多
  い。 
  こんなものは実際の運転条件には合わないで単にセミナーかオペレータ
  ートレーニングで終わってしまう。

  このことはJICAに運転維持管理の担当が軽く見られる要因となっている
  ことに気が付かなければならない。  

 ● 運転・維持管理”の重要性及び余りにも酷い施設計画設計を見てきてい
    るから、JICAには10年以上前から運転維持管理経験者を計画初期から
          プロジェクトに参加させるべき
と言ってきたが、聞く耳を持たないよ
         うだ。
          だから失敗やごまかしのプロジェクトが続き、JICAはじめ国際援助機
          関が好きな言葉Sustainability(持続性)が担保できない。

 以前アスタナプロジェクトに携わっていた時、飛行機内で橋本聖子議員と
 隣席になった。その時筆者の仕事を尋ねられ、「今後のODA」はどうすれ
 ば良いですか?」と聞かれたので、箱物の弊害と「日本が台頭著しい中国
 や韓国と違うのはアフターサービスの良さ。
 ODAで中国や韓国と差をつけられるのも運転維持管理の技術協力で真の人
 材育成に注力すべき
です。」と答えた。
 この時氏は「河野太郎先生がODA改革に熱心で私も少し絡んでいます」と
 言っていた。

(6) TORで過度の担当者を増やすな

 ● TORをみると首をかしげたくなるアサイン分担がある。

    やたらにアサイン分担を増やすことはコンサルの若い連中の経験を
          積まそうとするためとも理解はするが、それならば、多少アサイン
          期間を延ばしてもアサイン分担をまとめて主はベテランに任せ、若い
         連中を補助に付けられるようにすれば
、幅広い経験が得られよう。
         ただしベテランの能力も試されるが。

        コンサルにもこうした提案ができるようになって貰いたい。

 ● 有能な人材によりアサイン分担を纏めることで調査費やプロジェクト
    コストは安くなる場合がある。

        例えば積算は主に土木屋の範囲であるが、住民啓発、環境社会配慮、運
        転維持管理は互いに関係し、環境屋の範囲
であるので何も分けたアサイ
        ンとする必要はない。 
        要はそうした人材を有していれば、一人でこれら3分野の総アサイン期
        間を短縮することも可能。

  (ペルー某市での住民啓発の例)(自社派遣)
 
  家の前の下水処理場流入管渠がよく詰まると苦情が絶えなかった。

  原因を調査すると何でもかんでも下水管に流すため、スパゲッティや野
  菜屑などが下水管詰りの原因であった。

    そこで何軒かの家、小さなレストランの流し台に手作りの三角コーナー
       とスリットの入った栓をし、極力料理くずや残り物を下水管に流さない
       運動を
開始した。
       その結果、下水管の詰りの頻度が減ったことを実感した住民は、徐々に
       この運動を拡げていった。
                              
      また、下水処理場では多量の洗剤流入の影響で多量の泡が近所の洗濯物
      に付着し、住民からの苦情のほか、見学にきた中央省庁の役人から何と
      かしてくれという要望が寄せられた。 

      そこで、彼らに下水処理場流入マンホールを開けて、管渠を詰まらせて
      いるものを見せた。

      マッドボールそのものであった。
      何故か皆で考えさせた。

      発展途上国・中進国ではよくあることだが、料理に多量の油を使用し、
      残った油を台所から下水管に流す。鍋や食器などに残った油は多量の洗
   剤で洗い、それも台所に流す。

      油が管渠の詰りのみでなく、下水処理(生物処理)における悪影響につ
      いても説明した。

   また筆者は自炊していたので、日本で油を極力台所に流さない方法、例
     えば元々使用する油量を抑える(片栗粉を使用すると少ない油で調理でき
     る)、鍋や食器に残った油は吸い取り紙等に吸わせ、洗剤使用量も極力減
   らすなどを実践してみせた。などを実践してみせた。
      更に油を固める薬剤を持っていたので油が固まることを実践してみせ
      た。

      これらは文化や慣習に係ることでもあり、改善には相当な時間がかかる
      が、実践して見せたことは住民に好意的に迎えられた。
     
     一般的なセミナーやパンフレット配布では馬耳東風である。

 ● 上記は住民啓発の例であるが、調査物、実施プロジェクトでも“CPへの
   技術移転”がプロポーザルに書かれるが、まず実行されない
と言って
   過言ではない。
                                      
(7) カウンタープロポーザルを評価せよ。

  TORの中には美辞麗句で書かれている割には目的を遂行するには消化不良
 で不合理な面も多々書かれている場合もある。

 そのような場合、例えば以下のカウンタープロポーザルを提案する。

 ● 担当者のアサインを纏める、或いは下水汚泥処理・処分に絡めた廃棄
    物管理担当者や工場廃水対策などTORでは不十分と思われる要員の増
         員

 ● 各作業日程と業務内容の齟齬を指摘し、その解決のための要員投入時
    期と業務内容

  ● 他機関プロジェクトの評価業務の追加(連携ではない。中には非現実
     的でデタメラのもののある

 今までこうしたカウンタープロポーザルが日の目を見た例は少ないと思わ
 れる。
 「余計な事書いた」で門前払いされた例も聞いている。

 美辞歴句で飾られたTORに対し美辞麗句を並べたてた提案書で受注して、
 結局美辞麗句だらけのレポート仕上げて中身無し。

 そしてまた同様のプロジェクトが同じ国、地区で公示される。

 JICAは金出してくれる“神様”でコンサル側もカウンタープロポ-ザルを提
 案すると“ほされる”と自主規制をかける場合が殆どで、JICAも“官の言う事
 は黙って聞け
”みたいな事をいつまでも続けていたら、税金の無駄使いがこ
 れからも続く
ことになる。

(8) プロジェクトが成り立つ順序を考えよ

 「ODAの実態を見る!」(その5)のミャンマー・地方貧困削減・水供給分野
 プロジェクトフェーズ1で述べたように組織・法律、信頼できる分析機関
 の整備・確立されていないような場合には
、水道整備プロジェクトより、
 これらを解決するプロジェクトが先行或いは平行されるべきである。

(9) 総合的なプロジェクトを考えよ

 今まで述べたように下水プロジェクトでは施設運転開始後工場廃水の流入
 及び汚泥処理・処分
がネックになる場合がある。

 JICAにとってもコンサルにとっても日本の旗が掲げられる箱物でないの
 で、これらにはコンサルは調査もしないし(土木主体のコンサルでは実際
 できないと言った方が正しい)、JICAも無頓着である。

 問題が起きてからでは遅いので、計画時にしっかり調査することが必要だ
 が、この分野を調査し英語で実施計画レポート作成、実施ができる人材は
 水コンサルでは不足しているのは確かである。

 何故なら工場廃水は時間的・季節的変動が大きく、実経験がものをいう分
 野で設計指針など厳密には存在しないからである。

 しかしながら、環境関連法整備、環境インスペクター能力強化、モニタリ
 ング体制(分析技術)強化及び汚泥処分先は、下水プロジェクトより先に
 或いは施設試運転が始まる前に解決していなくてはならない。

 以前にも書いたが、下水プロジェクト計画で汚泥処理・処分が抜けている
 プロジェクトが多く、通水後運転継続できなくなる状態及び汚泥のCDM可
 能性調査がプロジェクトに含まれることが増えてきたことを踏まえて、
 JICAに中小都市での下水と廃棄物管理を組み合わせたプロジェクトを形成
 するよう要請してきた。

 しかしながらJICAはプロジェクトの数が減り、予算消化ができない事を懸
 念してか、却ってプロジェクトコストがおおきくなることを恐れてか、今
 まで実現していない。

 持続可能なプロジェクトというなら、こうした意識は持ってしかるべき


本当に有難うございます。励みになります。元々書くことは好きなのですが、一旦書き出すと長くなります。こんな時、絵心があればと思います。