ODAの実態を見る!(その8)
ODAプロジェクトではプロジェクトに政治が関わり、政治の道具にされる場合がある。
これまでにも述べたペルー某市下水道プロジェクトの例を挙げよう。
ペルー・某市下水道プロジェクトの技術的問題は今まで折に触れ述べてき
た。
しかしながら一番の酷さは、汚泥処理施設や塩素注入施設が未完成なのに
日本のコンサルが引き上げざるを得なかったことである。
まず、前政権の州知事(ケイコ・フジモリ支持派)が当時の中央政府のフ
ィクサーと言われる人物が経営する会社と組んでプロジェクトを立ち上げ
た。
計画・設計は本格的下水処理未経験者だが「ペルーの下水の父」言われる
人物。
下水水質が満足に分析できる機関がないとも知らずに。
円借款プロジェクトということになり日本のコンサルを入れることになっ
たが、そのプロマネはペルーに住んでいるだけで下水経験なし。
管渠及び土木工事は中国企業。機器類・電気関係はそのフィクサー企業担
当。
プロマネは、施工管理にこれまた素人ローカルスタッに任せっきり。
そうしているうち中国企業得意の賄賂でローカルスタッフは建設工事管理
も中国企業のいいなり。
あちこち工事が残っているのに、いつのまにか竣工式も終わっており、処
理場には日本の旗とこのプロジェクトが日本の援助で行われた旨が書かれ
た大きな看板が立っていた。
そうこうしているうちアマゾン河支流のすぐ裏に建設された下水処理場は
10年に一度の大雨で浸水し、機器も現場の制御盤も一部水没した。
その結果プロマネは裁判となり、新たに2013年から本社から下水全般に経
験豊富なプロマネが派遣された。
筆者は「試運転が始まるから運転維持管理指導で来て欲しいという」要請
があり2014年2月から現地参加した。
汚泥処理施設、塩素注入施設の工事に進展はなかったが、下水処理場に下
水が流入するようになったので、水処理系の運転維持管理指導を開始し
た。
どうも流入量が計画地に比べ極端に少ないので、現場へ出かけ、中国企業
及びローカルスタッフの管渠・ポンプ場工事のでたらめさを思い知らされ
た。
2014年7月に総選挙があり、中央政府の政権が変わった。
それに連れて、州知事も変わった。
新しい州知事は主に中国企業による土木工事の酷さから以前から処理場建
設反対派であり、実際の交渉・担当役も根っからのプロジェクト反対派に
なった。
ところが正式な政権交代間近の12月に突如、フィクサー会社、前の州知事
で、上記施設未完かつ様々な問題が明るみになっているなかで完了証明書
を発行した。
筆者はコンサルの署名は止めたが、プロマネの説明では上記2者が署名す
れば契約上コンサルも署名せざるを得ないということでコンサルは「完了
証明書」にサイン、正式に発行してしまった。
その後、7月以降の作業に対する客先からの支払いも停止し、支払の目途
が立たなくなったため、正式に政権交代が済むとフィクサー会社は途中ま
でゆっくり進んでいた作業も放り出し、真っ先に逃げてしまい、やがて中
国企業も従った。
結局下水処理場は何も稼働できなくなり、一通りの On-the-job トレ-ニ
ングも済んだし、現地の残っていてもする事ないので筆者も2015年8月に
日本に帰国した。
2014年7月前行った浄水場のトレーニングの一部しかペルー側から金支払
われず、下水道のトレーニング部分はペルー側から未払いで結局会社がそ
の後すべての費用全額負担となった。
工事会社が逃げたためコンサルプロマネも全て残務整理して2016年に日本
に引き揚げた。
その後、トレーニングした優秀な若いスタッフも配置転換や解雇され、施
設は流入槽ポンプ稼働状態表示異状、排泥バルブ自動開閉制御未結線、汚
泥脱水機未設置、塩素滅菌施設未結線、嫌気槽発生ガス燃焼装置未調整、
SCADA未設置など、システムとして成立していない。
ポンプ場でも自動制御に問題が残ったままであった。
なお、その後、ポンプ場等で部品や機器の盗難が発生しているという情報
があった。
流入下水は恐らくマンホールから市内や家に逆流し、または下水流入槽か
らバイパスで無処理のままアマゾン河支流に流れていると推定される。
こうした政治情勢によってプロジェクトの意義が一変してしまう例は発展
途上国には多く、利権も絡んでくるので細心の注意が必要であるが、政治
情勢把握はコンサルの仕事ではなく、JICA、外務省の仕事である。
こうして、このペルー某市下水施設は上記のような状況で円借款プロジェ
クトなのに放置され、ペルー側、我が国にとっても負の遺産となってい
る。
その後、JICA「下水道専門家」が2度現地調査行ったことは承知している
が、今後、この負の遺産をどうするのか両国民に対応を明確にすべきであ
る。
本当に有難うございます。励みになります。元々書くことは好きなのですが、一旦書き出すと長くなります。こんな時、絵心があればと思います。