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#6 信越トレイルを歩く【2日目・後編】 森宮野原駅から野々海高原テントサイトまで

12時15分、スマホの満充電を確認し天水山へ向かった。麓から頂上までの標高差は800m、距離は8㎞程である。ただただ真っすぐの道を上へ上へと駆け上った。歩き始めて30分ほどのところには、山の斜面をうまく利用した美しい棚田が広がっていた。水は天水山からじゃんじゃん来る。その日は雨で、水が側溝を流れる勢いが激しかったこともあったけれど、晴れていても田んぼに引く水には困らないだろうと思った。また、この辺り一帯は眺望が開け、これまで歩いてきたトレイルの一部を眺めることもできた。さっきまで歩いていたところが今やあんな遠いところにあった。不思議な感覚だ。

斜面を利用した棚田とこれまで歩いてきた中子方面が見える
灌漑もばっちり

中腹の里山出会いを過ぎると、ブナの踏み分け道に入った。道幅も狭くなり、これぞトレイルといった趣だ。またこの辺りから山の勾配はさらに強くなり、踏み出す足の勢いも衰え、頻繁に息が上がるようになった。歩いては休み歩いては休みを繰り返した。そうして15時半ようやく天水山に着いた。しかし、目指す野々海テントサイトはさらにここから4km先にある。普通に歩けば一時間ほどだが、登り切ったとはいえ、山の4kmは分からない。いつ着くだろうかと心配になりながら先を急いだが、わりかし楽な道が続き、16時45分には目的のテントサイトに着くことができた。まだ日が沈み切らない中でテントを張れたことは幸運だった。

まさにトレイルっていう感じの道
ブナの実

天水山と野々海高原

それにしてもなぜ「野々海高原」なのだろう。まず「高原」と言うけれど、天水山の急斜面を歩いている間は、本当にこんなところに高原などあるだろうかと考えていた。実際テントサイトに着いてみても、高原らしい高原をどこにも見つけられなかった。もちろん見落としているだけかもしれないけれど。しかし一方、「海」は感じられた。テントサイトの近くには大きな池があって、昔の人がこれを「野の海」と表現することは十分ありえるだろうと思う。そう考えると、天水山と野々海高原の「天」と「野」は対概念で、二つはワンセットなのではないかと考えた。天水山に降り注いだ雨水が地下を通って野の海と呼ばれる池に集められる。ここに蓄えられた水は田畑を潤し里の生活を支えた。それを人々が母なる海と捉えた。とりわけ長野が海のない地域であることを考えると、その恩恵を余計に感じることは十分にありえると思う。勝手な解釈だけれど、あながち間違いでもない気がする。

野々海高原の池
テントサイトまでの道。ルートを外れて10分ほど歩いた。

■野々海高原テントサイト

#7に続く