君に贈るランキング

髪、歯、喉仏、、歌うような声が降る。続けて皮膚の上を滑る指の感触。
「眼球」
瞼を軽く押して撫ぜた体温が離れると同時に、僕はゆっくり目を開ける。
「…何してるの?」
寝起きでまだ揺らぐ視界、僕に馬乗りになった彼女は、怪訝と僅かな抗議を含んだ僕の問いに、しかし少しもたじろぐことなく堂々と微笑んだ。
「君が私より先に死んだら、形見分けで身体のどこを貰おうかなって考えてたの」
なんて悪趣味な女だ。彼女の腰に手を回し身体を起こしながら僕は思う。
「眼球は無理じゃない?」
「そう?なら、指はどう?」
「うーん、骨でなら、いけるかもね」
「指の骨。いいね」
彼女は楽しそうに、どの指がいいかなあ、僕の唇に人差し指を押し当てると首を傾げて笑う。
「そこは薬指じゃないの?」
彼女の薬指に光るリングを見ながら、結局僕も笑っている。
ーー悪くないけど薬指の契約は生きてる間だけのものだからね。健やかなる時も病める時もってね。やっぱり小指かな。恋人の指。指切りげんまんって小指でしょ。運命の赤い糸もそう。中指も良い。魔除けの指。君ってちょっと人相が悪いから、中指立ててるの、似合うし。まあ君がそんなポーズしてるの見たことないけど、たぶんね。
僕を指差したまま十本の指それぞれの意味を語り出しそうな彼女に僕は吹き出す。
「形見分けで魔除け?」
「優先順位の問題よ」
なるほど。
「じゃあ人差し指。俺が先でも君が先でも」
「人差し指?」
彼女の人差し指を柔く握る。十本の指の意味なんて僕は知らないが、これは「いちばん」のポーズだ。彼女にそのつもりはないかもしれないけど、たぶんね。握った指を離して絡めて彼女の肩に顔を埋めながら僕は言った。
「優先順位の問題なんでしょ?」

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