世界征服~発掘のホワイトライト~
アニメ“世界征服~謀略のズヴィズダー~”の二次創作小説です。
投げ銭方式ですので最後までお読みいただけます。
本作はテレビ放映版を参考にしていますが、必ずしも全ての設定が原作通りというわけではございません。
また二次創作という性質上、原作をご存じの方に向けて書きましたので外見等の描写や説明は省いております。
※過去作品リストはこちら。
世界征服~発掘のホワイトライト~
ホワイトロビンは古めかしい巻物を握りしめた右拳を高々と掲げる。
「この術さえあれば今すぐにでもズヴィズダーの居所がわかります!」
自信に満ちた声が司令室に響き渡り、収まるのに六秒を要した。それから無音の十秒。司令は別室で見ているはずだがスピーカーからは何の反応も聞こえない。
ロビンの後ろに控えているホワイトイーグレットも微動だにせず、なりゆきを見守っている。
もしかしたらマイクの調子が悪くて司令に伝わらなかったのではないか。
ロビンはそう考え、ことさら大声で繰り返す。
「司令っ!! この術さえあればっ!! 今すゲェッ!! ゲホッ! ゲホ!」
無理に叫んだせいか咳き込んでしまう。それでも右手を下ろさないのは熱意の表れである。
司令も見かねたのか、スピーカーから電子音声が流れてきた。
『大丈夫ですか、ホワイトロビン。聞こえていますから落ちつきなさい』
「んっんんっ! ゲホ……すみません。もう大丈夫です」
『それはよかった。では二人とも任務に戻りなさい』
「はいっ」
と威勢良く答えたロビンは司令室を出ようと後ろを向きかけたが、
「違います! これです!」
背伸びをして右手に持った巻物を大きく振った。
若干の間をおいて司令が答える。
『わかりました聞きましょう。何ですかそれは』
「宝物殿別館“第陸拾玖(六十九)倉庫”で見つけた“陰陽道秘伝・遠隔尋問の法”の巻物です!」
また司令からの返事が途絶えた。十秒が過ぎ、三十秒が過ぎる。一分が経ち、ロビンがしびれを切らして復唱しようと息を吸い込んだ途端、見計らったかのように司令の音声が聞こえてきた。
『わかりました後で調べておきますから任務に戻りなさい』
「調べなくても大丈夫です! あたしがザーっと目を通しましたから、今すぐ試してみましょう!」
イーグレットはロビンとスピーカーのやり取りを聞きながら後悔がつのり、吐き気がしてきた。
あの時、ロビンの代わりに自分がジャガイモの箱を運んでいれば……。
あの時、ロビンがつまづいたのを支えてあげられていれば……。
あの時、宙に舞ったジャガイモを全て自分が受け止められていれば……。
あの時、緊急警報ボタンの前に立ちふさがっていれば……。
あの時、ホワイトライト本部全室に鳴り響いた警報を止められていれば……。
あの時、ロビンの失態を記録していた監視カメラのデータを消去していれば……。
あの時、連帯責任と言い張って倉庫整理を命じられたロビンについていっていれば……。
あの時、引き続き任された調理当番をサボってロビンを監視していれば……。
(私がそばにいれば、このようなことにはならなかったのに)
ホワイトライト本部には太古から受け継がれた陰陽道の伝書や秘宝を保管しておく宝物庫が存在する。その中でも別館は重要度の低い物を収納しておく施設であり、律令制下の州別に“壱(一)”から“陸拾捌(六十八)”の倉庫に分けて宝物が収められていた。
そしていずれにも属さない物が送られてくる“第陸拾玖倉庫”。これは愚にもつかない代物、言いかえればロビンの失態によって未来永劫失われることになっても惜しくないゴミの吹きだまりである。
(「ザーっと目を通した」といっているけど、そもそも役に立たないインチキな呪法のはず。でも、へたに試して隊長の身に何かあってはいけない)
第陸拾玖倉庫にあったということは、小難しい表題があってもインチキである。しかし万一、本当に機能する秘術であれば陰陽道だけに取り返しのつかない結果にもなりかねない。
「私が──」
イーグレットが発した決死の言葉は、
「あたしが術を使うから、イーグレットは聞き手をやって♪」
「は、はい」
ロビンの笑顔にかき消された。
『二人とも本当にいいのですね』
「「はいっ!」」
ロビンとイーグレットは声を揃えて答える。
『本当にいいのですね』
「「はいっ!!」」
『本当の本当にいいのですね』
「「はいっ!!」」
司令としてもイーグレットと同様の不安があったのだろう。しつこいほどに問い糾し、
『わかりました。それではやってみてください』
やっと許可を出した。
「じゃあイーグレット、あたしがズヴィズダー首領ヴィニエイラの魂を召喚するから、色々訊いてね!」
「は、はい」
「……いくよ!」
「はいっ!」
「臨っ! 兵っ! 闘っ! 者っ! 皆っ! 陣っ! 列っ! 在っ! 前っ!」
ロビンは呪文を唱えながら上下左右に振る。そして、
「ベントラベントラっ! やぶらこーじのぶらこーじっ! ヴィニエイラの魂よっ! おいでませぃっ!」
と絶叫する。
するとどうしたことかロビンは両手をだらりとたらしでうな垂れてしまった。
(これは──)
イーグレットとしても判断に迷う。
本当にヴィニエイラの魂を召喚したのか。
あるいは術がインチキで別の何かを呼んでしまったのか。
もしかするとロビンが雰囲気を出すためにそれっぽく振る舞っているだけなのかもしれない。
(どう声をかければいいのかしら)
全ての可能性に対応できる言葉を考えていると、ロビンの方が先に口を開く。
「フハァ……」
「こ……こんにちは?」
当たり障りのない挨拶で様子を探るイーグレット。
「……うーん……うーん……」
「あなたは……?」
「うーん、うーん、うん、うん、うーん……ゆ、ゆっくり話し……ありがた……」
「もしかして日本語が通じない?」
「ご……うーん、うーん……古代ウド川語で……」
「古代ウド川語? ……あの、あなたは誰?」
「私は……ヴィニエイラ…………の守護霊」
『しゅーーりょーー』
この後、意識を取り戻したロビンは司令の命でひとり司令室に残った。
『ホワイトロビン』
なりゆきを聞かされただけに司令に声をかけられても「すみませんでした」と謝るしかないロビン。
司令は黙殺して話を続ける。
『あなたの、正義のために出来ることを全てやろうという意気込みは大変に見事なものです』
はて、とロビンは首を傾げる。いつもであれば慇懃無礼にネチネチと嫌味を言われるはずである。
『今日は特別にご褒美をあげましょう。そこの穴に両手を入れなさい』
壁の一部がスライドし三十センチ四方の穴が口を開けた。
ロビンは手のひらを上に向けてその穴に両手を差しこむ。
『かき氷です』
「かき!?」
冷たさを感じるよりも早く、手には白い山が生まれていた。
『シロップは何がいいですか?』
「そ、それじゃあメロンで」
わけが分からない内に両手にそびえるかき氷がみるみる緑に染まっていく。
『穴から手を抜いてください』
「はあ」
と言われるままに緑の山を引き出すと、壁の穴が塞がる。
「あっ」
『召し上がれ』
「あ……ありがとうございます」
『床を汚さないように召し上がれ』
すでに氷の手に触れている部分が溶け始めている。早く食べなければ水滴どころかシロップまで床に垂れてしまう。
「……しゃむ」
ロビンは意を決してかき氷にかぶりつく。当然、
「くはぁーーっ!」
眉間に激痛が走る。
『どうしました? 早く食べきらなければ床が汚れますよ?』
「ふぁっ、ふぁい!」
舌を緑色にしながら完食したロビンは、喜びのせいなのか身体をガタガタ震えさせてたという。
世界征服~発掘のホワイトライト~ 完
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