蝉丸コール

小学生の頃、放課後誰でも校内でボードゲームやスポーツをして自由に遊べる日が週に数回ありました。
雨の日はやはりボードゲームの人気が高く、オセロや人生ゲームの争奪戦は熾烈を極めていました。
争奪戦に負けたある雨の日、遊べる物がなく友だちと暇そうにしているとボランティアのおじいさんが話しかけてくれました。
「坊主めくりやらんか?」
当時の僕は小学二年生。
ぼうず?めくる?ぼうずをめくる?
ハテナいっぱいの中説明を受け、いざやってみるとなるほどこれは面白い。
知らない方にざっくり説明すると百人一首の読み札を山札とし、一枚ずつ順番にめくり手札としていく。
札によっては追加でもう一枚引くなどがあり、最後に一番多く札を持っていた人の勝ちという運100%の遊びです。
もしかしたらローカルルールだったりでところどころ違うかもしれませんが、この追加効果のうち、お坊さんカテゴリが持つのは引いた人が持っている札を全部捨てるというものでした。
そして蝉丸が持つその効果は、全員が持ち札を全て捨てるという最凶のものでした。
一見すると嫌われそうな効果、しかしこのゲームは運を楽しむゲーム。
その性質上、1人が豪運を発揮して途中でほぼ勝負が見えてくる場合がそこそこあります。
そんな中一位以外が望む展開は、一位が坊主を引く、もしくは誰かが蝉丸を引く、の二つです。
そうなると後者の方がそのチャンスが多いわけです。
そしてついにそのときがやってきました。
一位が圧倒的枚数を保持した絶望的状況の中、一人が口を開きました。
「せーみまる、せーみまる」
一縷の希望に勝負を賭けるその姿勢はたちまち他のプレイヤーにも伝播し、やがて全員が蝉丸コールを始めました。
そして蝉丸が現れたとき、大歓声が巻き起こります。
その熱に当てられたのか、段々と僕たちの中で坊主めくりは一位を目指すゲームではなく、蝉丸の降臨を待ち望むゲームと化していました。
もはや一位すら蝉丸コールをしだす始末です。
しかしよくよく考えれば山札に蝉丸がいるんだからいつか必ず出てくるということに気づき、束の間の坊主めくりブームが一瞬にして終わるのは、また別のお話。

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