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「耳コピー」について② 銀座のラウンジピアニストが本気で解説

「耳コピー」についての解説ブログ、今回は第2話目です。今回から段々と実戦的な話にシフトして行こうと思います。

【前回の振り返り】

耳コピーの究極形態は、「①どんな曲でも、②パッと聴いて、③スラスラ弾ける」事。

①~③についてはそれぞれ、①は認識・対応できる曲のパターン数の問題②は反応速度(分析スピード)の問題③はイメージ通りに演奏できるかという技術的スキルの問題、と分解して捉えることもでき、これらは正しいしい方法で訓練すれば上達可能である。

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耳コピー力」を鍛えようと思ったならば、まずは認識・対応できる音楽のパターンを増やす事です。

耳コピーのレベルは初心者から熟練者まで様々ですが、どのレベルにも共通して言えるのは「慣れたパターンの曲は簡単に聴き取れるが、慣れないパターンの曲には苦戦する」という事。シンプルですね。

「きらきら星」のメロディーぐらいは初心者でも簡単に聴き取れますが、これは自分の中にある枠組みで余裕で処理できるからです。英語を習いたての段階でも”I love you." ぐらいは簡単に聴き取れるのと同じ理屈です。

一方、MISIAのEverythingとか、Official髭男dism の楽曲のような感じになると、これは耳コピーが得意な人でも一筋縄では行かないでしょう。構文が複雑になり、使われる語彙のレベルが上がればリスニングの難易度が増すのは当然です。

今、耳コピーを英語に例えて説明しましたが、実際に「音楽」と「言語」には幾つか似た部分があり、今回の文脈で重要なのは次のポイントです。

●言語と音楽、どちらにも基本構造のパターンがある

言語の場合は「文法」、音楽の場合は「和声(コード)やメロディーの進行」についてのパターンが基本構造として存在し、言語も音楽も習得するには「色々なパターンを覚えた上で、使い倒して慣れる」のが一番の早道です。

言語習得に関しては、「母国語」の習得プロセスと「外国語」のそれとは違いますよね。「母国語」は見様見真似で話している内にいつの間にか覚えてしまう感じ、「外国語」は文法からキッチリ習って段階的にレベルアップしていくイメージがありませんか?

私は同じことが「音楽」にも当てはまると思っています。つまり、音楽は母国語的に身に着ける事もできれば、外国語的なアプローチによって身に着けられる事もでき、それぞれの方法にメリット、デメリットがあります。

母国語的な音楽へのアプローチ、言い換えれば見様見真似で、音の組み合わせを試しながら音楽構造を感覚的に見つける方法。このように音楽と接して来た人は、概して耳コピーが得意な事が多いです。一方で、このタイプは耳に頼る事が多いので、読譜能力が未発達なケースも多いです。例えるならば、会話は困らないけど文字は読めない原住民に近いとも言えます。

外国語的な音楽へのアプローチ、言い換えれば教則本に沿って学ぶ方法。それ自体は悪くないのですが、型通りの練習曲をこなすだけで、そのレールから外れて自由に音で遊んだ経験が乏しい人は、楽譜には慣れていても耳コピーは苦手というケースに陥りがちです。例えるならば、文字も文法も知っていて、英文読解はできるけど会話は苦手な日本人に近いとも言えます。

どちらも一長一短という感じですが、その原因は至ってシンプル。時間をかけて培った能力は伸びているし、そうでない力は未発達のまま、それだけの話です。

読譜が苦手なのは、単純に楽譜に接してきた時間が少ないだけ。スラスラ読めるようになりたければ、その練習をすれば良いのです。元々耳コピーが得意な方であれば、それは頭の中で音を捉える能力は既にあるという事なので、頭のイメージと既存の記譜法のシステムをリンクさせる意識を強く持てば、上達は早いでしょう。

耳コピーが苦手なのは、「聴いて、真似る」という母国語習得的な経験が足りないからです。なので耳コピー上達への処方箋はとても単純。「色々な曲を片っ端から聴いてピアノで再現しまくる」、これに尽きます。

しかしながら、この手のチャレンジをさせた場合、大人よりも子供の方が圧倒的に早い傾向があります。なぜなら、彼らはミスを恐れません。始めから上手くやろうとして大人があれこれ考えている間に、デタラメに鍵盤を押しては「あ、違う」「間違えた、ハハハ」とかやり始めます。その無邪気さゆえに、大人の何倍もの試行回数を短時間に繰り返すので、結果的にコツを掴むのも早いのです。

今の話に通じるトピックとして、少し脱線しますが、「マシュマロ・チャレンジ」という面白いTEDトークを紹介させてください。

「マシュマロ・チャレンジ」とは、乾麺のパスタ、テープ、ひも、マシュマロを使って自立可能なタワーを立て、最も高いタワーを作ったチームの優勝となるゲームです。

さて、このゲームを、ビジネススクールの学生チーム、建築・設計の専門家チーム、幼稚園児チーム、弁護士チーム、CEOチームの5組で競った場合、どんな順位になると思いますか?

ここで7分22秒の時間が取れる方は、ぜひ動画を観てください。(色々と考えさせられる所が多い、オススメのTEDトークです。スマホだと字幕が上手く再生されないかもしれません。その場合はPCから試してみてください。)

結論を急ぎたい方は、画面をスクロールして下さい(笑)







まあ、話の流れで予想がついたかもしれませんが、幼稚園児チームが奮闘し、大人チームを押しのけて2位という好成績を残します。大人があーだこーだ言っている間に圧倒的な試行回数を重ね、気づいたら大人よりもタワーが完成しているという話です。

耳コピー上達においても、完璧主義を一度横に置いて、とにかく試行錯誤を繰り返しながらコツを掴むというアプローチは有効です。

閾値を超える試行回数、これは重要なポイントではありますが、閾値自体を下げる方法も存在します。

それは音楽理論に基づいたパターンを知るという方法。何の方針もなしにいたずらに試行錯誤を繰り返すより、然るべき知識・理論があった方が効率が良いのは自明です。

マシュマロ・チャレンジで1番良い結果を出したのも、建築・設計の専門家チームです。まあ、当然ですよね。かれらは建築・設計の理論に精通したプロなんですから。

頭で理屈をしっかり学びつつ、閾値を超える試行回数を重ね、身体と感覚にもしみ込ませる

これが大人の強みを活かしたアプローチになるのではと思います。

今回はここまで。次回より具体的なアドバイスに入って行きます。お楽しみに!(^^)!



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江古田Music School

代表  岩倉 康浩

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