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「耳コピー」について① 銀座のラウンジピアニストが本気で解説

 まずは自己紹介を簡単に。昼はピアノ講師(江古田Music School 代表)、夜はラウンジピアニスト(銀座ST.SAWAIオリオンズ 専属ピアニスト)をしております岩倉康浩と申します。

 本題の「耳コピー」について論じる前に、まずはラウンジピアニストという仕事について触れておきます。簡単に言えば、ホテルやバーなどのラウンジ空間でBGM演奏をする仕事であり、誤解を恐れずに申し上げれば、ラウンジピアニストに求められるのは「質」より「量」、レパートリー数こそが、この仕事の生命線になります。

 もちろん「質」は大事であり、私もプロとして日々この研鑽に取り組んでいます。しかし、ラウンジピアニストのウデの見せ所は「お客様のリクエストにどれだけ柔軟に応えられるか」であり、この対応スキルがお客様から頂くチップの多寡にダイレクトに反映されると言っても過言ではありません。

 私にはラウンジピアニストとしてのこだわりが1つあります。それは「基本的には楽譜を見ずに演奏をすること」

 楽譜を見ずに演奏するメリットというのは色々ありますが、ラウンジピアニストの観点から申し上げれば、次のような感じでしょうか。

①目線が楽譜にないので、お客様の反応を良く観察できる ⇒

②今日はこんな曲が喜ばれそうかな、という読みがしやすい(DJ風に言えばフロアリーディング) ⇒

③選曲が当たる → 拍手 → ちょっとした会話に発展・・・コミュニケーションがとりやすくなる ⇒

④「次はこれ弾いてもらえますか」という形でリクエストにつながる ⇒

⑤ 喜んでくれたお客様がチップをはずむ (^^♪

 まあ、最後は現金な話で恐縮ですが、楽譜に噛り付きの状態より遥かに良い雰囲気が生まれることは間違いありません。それにピアニストが何も見ずにスラスラ弾いていると、お客様目線では、私が鼻歌感覚で自由に演奏しているように見えるので気軽にリクエストを誘発しやすいメリットもあります。

 ここでラウンジピアニストとして大事なスキルをまとめておきます。

『お客様のニーズがありそうな曲をできるだけ多く仕込みそれらを楽譜を見ずに鼻歌感覚で弾けるスタイルを確立しておくこと』

 私の流儀に照らせば、これこそがラウンジピアニストの生命線であり、楽譜を見ずに鼻歌感覚で弾けるスタイル ≒ 耳コピーのスキル とも言えます。

 さて、本題に入ります(お待たせしました<m(__)m>)。

 まずは言葉の意味から整理していこうと思います。この記事における「耳コピー」の意味を定義させてください。

「耳コピー」・・・楽譜に頼らず耳だけを頼りに、聴いた曲を楽器で再現すること

 まあ一般的なイメージに沿っているとは思いますが、ここでは「耳コピー」の目的を「採譜」ではなく「楽器で演奏すること」とさせて頂きました。以下、主にピアニスト向けに話を進めますがご了承ください。

 さて、一口に「耳コピー」と言っても、実際のレベルは千差万別です。参考までに、初級、初中級、中級、上級の4つのレベルに分けて、耳コピーレベルの基準の目安をつくってみました。(専門用語が多いので、「意味わかんなくて頭が痛くなりそう!」という人は、ここはざっと眺める感じで読み飛ばしてもOKです。)

楽譜を見ずに、頭の中にあるイメージだけを頼りに、以下それぞれの条件で演奏ができそうか自問自答してみてください。

【初級者】:調号が#1つ、♭1つまでの調(長調のみ)、使用和音がダイアトニックコードに限られ、メロディーに臨時記号を含まない曲について、メロディーをドレミで聴き取れて(「固定ド」「移動ド」は問わない)、伴奏付きで両手で弾ける(流暢さは問わない)。

【初中級者】:調号#3つ、♭3つまでの調(長調・短調両方、ただし平行調以外の転調はない)、使用和音はダイアトニックコードに加え、セカンダリードミナント、サブドミナントマイナーまで。このような楽曲について、メロディーをドレミで聴き取れて(「固定ド」「移動ド」は問わない、伴奏付きで両手で弾ける(流暢さはあまり問わない)。

【中級者】:基本的には何調の曲でも(転調については一般的な近親調への転調のみとする)、適切な伴奏を組み合わせ、それなりに流暢に弾ける。コードの知識は必ずしも問わないが、7thまでの基本的なコード(テンションは含まない)について結果的に正しく認識できており、その場にふさわしい転回形を使いながら、ある程度聴き心地が良い演奏ができる。

【上級者】:トリッキーな転調を含み、高度な代理和音やオルタードテンションが複合された曲でも、ツボとなる音を外さず、いい感じのヴォイシングで、曲の雰囲気を保ちながら流暢に弾ける。

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 いかがでしたか? 一つお断りしておきますと、上記のレベル基準目安は、私がこの記事を書くにあたり即席で考えたものなので、あまり深くは練っていません。厳密な基準でも何でもありませんので、くれぐれも結果を深刻に捉え過ぎないでくださいね。

 ただ大事なポイントだけはお伝えします。上記の4レベルの基準目安は、それぞれの項目は適当に設定しているものの、注目して頂きたいのはレベルが上がるに連れて制約がゆるくなっているという点。

 耳コピーのレベルは、その人が認識・対応できるパターンの数によって決まります。

 初級は「これは対象外、あれを含んだらNG」と制約条件だらけですが、上級は「何でもアリ」です。

 耳コピーの究極形態は、「①どんな曲でも、②パッと聴いて、③スラスラ弾ける」という事になると思いますが、①~③についてはそれぞれ、①は認識・対応できる曲のパターン数の問題②は反応速度(分析スピード)の問題③はイメージ通りに演奏できるかという技術的スキルの問題、と分解して捉えることもできます。

 ここで「パターン」「スピード」「スキル」という用語が出てきました。これらに共通するのは、正しい方法で訓練すれば上達可能という事です。

 今回はここまで。次回は「耳コピー」の力を訓練するための方法について、実践的なアドバイスをしていきたいと思います。お楽しみに!(^^)!


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江古田Music School

代表  岩倉 康浩

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