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【FM店主日記Day44】花粉を運ぶ人たちと春を待つ人たち

新しい暮らしが始まる時、新しい町に引っ越した時、新しい仕事を始める時。

そういう時は心細くて、周りはみんな敵に見える。自分以外の人たちはみんな知り合いで、昔から仲良く繋がっていて、友達も知り合いもいないのは世界で自分だけで、周囲の人間は新参者の自分を目ざとく見つけてはあることないこと自分に関する噂話を吹聴している。そのせいで誰も自分に話しかけてくれないし、話しかけてもみんな自分と関わると仲間外れにされるかも知れないから誰もかまってくれない。世界は灰色で、みんな悪どくて、天気も景気も悪くて、海の向こうでは戦争が始まろうとしている。

とか、思ってしまいがちだけれど、実は誰も自分のことなんてこれっぽっちも気にかけていやしないし、そもそも自分の存在自体に誰も気が付いていない。

景気が悪くて、海の向こうで戦争が始まろうとしているのは確かにその通りで、物価は上がるし、治安は悪くなるし、失業率も高いし、高齢化社会や少子化問題、おまけに空き家問題も表面化してきていることも確かにその通りだ。

転職して新しい仕事を始める時というのは、既存のそこそこ人気のドラマシリーズのシーズン5の4話目くらいで唐突に出てくる新しいキャラクターのように周りの目に映っていることはおそらく確かだけれど、新しい環境での日常が始まる時に、そこでの暮らしをよいものにするために最初にとるべき手段がある。それは、まず一人、たった一人で良いので自分の味方になってくれる人を見つけることだ。そしてその人を頼りに、その人を軸として、少しずつゆっくりと人の輪を広げていくことだ。

知らない町に一人で行っても大抵の場合、何も起こらない。だが、友達が暮らす町をはるばる訪ねて行くと、多くの場合、その友達を中心にいろんな人を知ることになる。一人でいると心細くて、周りはみんな敵に見えるし、自分以外の人たちはみんな知り合いで、昔から仲良く繋がっていて、友達も知り合いもいないのは世界で自分だけで、周囲の人間は新参者の自分を目ざとく見つけてはあることないこと自分に関する噂話を吹聴しているように見えるかも知れないし、世界はポイズンにしか見えないかも知れないけれど、たった一人の味方がいてくれるだけで、自分も仲良く繋がっている人たちの輪の中にいとも簡単に入れてもらえたりするし、知らない人が見たら自分も昔からその繋がりの中にいた仲良しメンバーの一人に見えることだろう。

友達100人作るのは素晴らしいことかも知れない。もしかしたら、そんなにいると面倒なだけかもしれない。友達が365人以上になると毎日誰かの誕生日なので大変すぎて嫌になるかも知れない。でもそれだけ知り合いがいるなら困った時に助けてくれる人も出てくるはずだ。

全てはたった一人の味方を作るところから始まる。いつもそうだし、どこでもそうだ。だから新しい環境で不安そうにあたりを見渡している人がいると、とりあえずその人の味方になってみよう、といつも思っている。誰かにとってたった一人の味方になることは誇らしいことだし、その人の世界にたくさんの光をもたらすことだってできるかも知れない。その人がそのうち自分ではない別の人とより仲良くなっても構わない。大切なのは最初に手を差し伸べてくれる誰かがいることであり、その誰かがその人のベストフレンドになる必要はない。

蜂は花から花へと飛び回り蜜を集めているだけで、花が咲くかどうか、あるいはどんな花が咲くかにはそんなに興味がない。だけど、蜂が花粉を運ばない限り花は咲かないし、果実もみのらない。

たった一人の味方、花粉を運んでくれて、そこにいる仲間たちの輪の中に招き入れてくれる人。僕は新しい環境でいつもそんな人に助けてもらってきたし、新しい環境で不安そうにしている人に対しては出来る限りそういう人でありたいと思っている。フェルマータは花粉運ぶ人たちが気ままに集まるような、ふと羽を休めるような、そんな何気ない場所であって欲しいと常に思っている。

一説によると、花粉を運ぶミツバチたちがいなくなると世界は四年で滅びるらしい。

https://ikimono.city.nagoya.jp/PDF/group06_1.pdf

フェルマータ店主 KAORU

進化するサルたちのアイロニー

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