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あなたにとってのメンタリングとは?〜成長過程における立ち位置〜

“The delicate balance of mentoring someone is not creating them in your own image but giving them the opportunity to create themselves.”-Steven Spielberg

今回は、友人と同じテーマでの投稿になります。

自分自身が家庭医として研修してきた過程で、メンタリングがどのような影響を与えてくれたのか振り返ってみたいと思います。

これまで「メンタリング」という名目で時間をとってもらったことはほとんどないものの、いわゆる家庭医療研修過程における「振り返り」が実質的にはメンタリングの機能を果たしてくれていました。

藤沼先生のブログから引用させていただくと、

”医療専門職がメンティーの場合は、以下の3つの領域に関して満遍なく取り組む努力がメンターにはもとめられる。

・メンティーが新しい学びを獲得し、それを統合化することを援助すること(教育に関する援助)
・様々な人生上の移行期や過渡期をうまくとりあつかえるように援助すること(個人への援助)
・臨床家として満足感をもって仕事ができ、目標を達成できることを援助すること(医療専門職としての発達の援助)”

上記3つの要素を同時並行的に行うことをホリスティックメンタリングとしています。これを踏まえて自分が受けてきたメンタリングを考えてみます。

1)外部指導医による継続したメンタリング

初期研修医から専攻医前半の時期は、周りに同様の興味や関心を持っている仲間がおらず、五里霧中の状態で研修をしていた時期があり、月一回外部の先生に「振り返り」をお願いしていました。振り返りを始めた当初は「振り返ることで、どんな学びを得られるのだろう?」と、それまで受けてきた教育よろしく「指導者からどんな有用な情報をもらえるのか?」と、受け身の姿勢であったように思います。しかし、継続していくことで「これは、自分のための時間なんだ」と気づく瞬間がありました。まさに冒頭のSteven Spielberg氏の言葉通りだと思います。

月一回の振り返りでその一ヶ月間に自分が経験した全てを指導医の先生に共有することはできません。しかし、その一時間のために、自分の行動や感情の動きを客観的に自己省察することが成長につながっていると徐々に気づきました。これは”「この人との間でプライベートなことや感情、価値観などを共有してもいい」「自分のことを知ろう、教育に関わろうと興味を持ってくれている」と思える関係性”(錦織宏・三好紗耶佳 編, 指導医のための医学教育学 実践と科学の往復. 京都大学学出版会, 2020, p121)を指導医の先生が構築してくださったからではないかと思います。この関係性にあるほど、フィードバックは構築されやすくなるそうです。

私にとってはオンラインを通じての関係が、「個人への援助」、そして「医療専門職としての発達の援助」に大きく寄与していました。女性だけに限りませんが、初期研修医〜専門医取得までの期間はライフイベントも含めて大きな過渡期にあたることが多いと思います。この時期に、自分の価値観を理解し、自己開示できる場を持てるかどうかはモチベーションに大きく関わるのではないでしょうか。そして、省察サイクルを回す習慣を持つことで、プロフェッショナルとしての生涯学習継続にもに繋がると感じています。

2)オンライン勉強会への参加

また、上記に加えて「家庭医療コア勉強会〜はっちぼっちステーション〜」という月一回のオンライン勉強会にも専攻医一年目から継続して参加してきました。1)と2)の場を役割で明確に分けることはできませんが、こちらは「教育に関する援助」という意味で非常に助けになったといえます。加えて、同じような境遇の同士に出会えたことで、自分の立ち位置を客観視する機会を与えてもらえました。(「意外と、自分のやっていることと変わらないな」とか、「こんなことまでできるのか!」など)

家庭医療研修は、自分自身が悩んでいる事例をベースに、自己省察やポートフォリオ作成を通じて自身に足りない能力を身につけていくプロセスです。ポートフォリオ作成支援グループである「はっちぼっちステーション」に参加することで、自分に足りない領域の知識やキーワードを知ることができ、モチベーションを保って継続学習につなぐことができました。

3)現場でメンタリングの場を設定する

専攻医後半はプログラムを移籍し、家庭医療専門医を育成するための環境が整った場所に身を置くことができました。前述の1)、2)を経験した上で、体系だったプログラムの違いの一つは、「勤務時間内に振り返りの時間を確保できているかどうか」ではないかと思います。当然ながら、外部の先生にお願いしていた振り返りも、はっちぼっちステーションも平日の夜などに自主的に参加しないと得られない学びでした。それが、ちゃんとスケジューリングされていることに感銘を受けたことを覚えています。勤務スケジュール内に振り返りや面談があることで、後輩が内省する習慣を身につけていく過程をみれたことも、指導する側に立つにあたり非常に学びになりました。

オンラインでの振り返りでも感じていたことではありますが、メンターの力量とともに、「振り返りの場」「メンタリングのための時間」というのを専攻医一人一人に確実に、定期的に確保できる(可能なら準備の時間もとる)ということが重要なのではないかと考えています。

4)メンタリングのタイミングとリソースの分散化

困難事例を経験した現場でこそのタイミングで、上司に相談できてよかったこともありますし、時間をおいて「現場外」の場所で振り返る機会があることで、複数の視点、時間軸から事例を検討することができ、それぞれ学びがありました。

オンラインでも、オフラインでも複数のリソースで振り返りやメンタリングを受ける機会を得られた個人的な経験から言うと、専攻医としての成長過程においても、学習基盤的にも依存先が複数あるメリットは大きいと思います。

良いメンターの要素として、下記の10の特性が挙げられています。*1

1)自己認識:自分の強みと開発ニーズをよく理解している必要があります。
2)組織のノウハウ:物事を成し遂げる方法と物事がどのように機能するかを知っておく必要があります。
3)信頼性:個人的および専門的な信頼性が必要です。これには、関連する組織のメンバーであることが含まれる場合があります。
4)アクセシビリティ:あなたは、サポートとガイダンスを提供するために、メンティーに十分な時間を割いて喜んでコミットできる必要があります。
5)コミュニケーション:優れたコミュニケーションスキルが必要であり、他の人の考えや気持ちを理解することができます。また、優れたリスナーである必要があります。
6)権限を与える能力:個人がさまざまなことを試して安全に作業できる環境を作り、さまざまな方法で貢献できるようにする必要があります。
7)他者の成長を助けたいという願望:個人がどのように発達し、公式または非公式に他者を発達させる経験を持っているかを理解する必要があります。
8)発明性:物事を行うための新しい方法やさまざまな働き方を受け入れる。
9)共感:他の人に共感する能力。
10)理解:さまざまなメンティーのさまざまな視点、アプローチ、および場合によっては背景を理解しようとする準備をする必要があります。

これら全ての要素を職場の上司一人に全て期待できるのは、あったとすれば非常にラッキーだと思います。難しい場合には、意識して外部リソースを探すのもありなのではないでしょうか。

まとめると、メンタリングを通じてプロフェッショナルとして成長していくための基礎体力を養ってもらったんだなと思います。私も、専攻医が安心できる場所を提供し、成長するために必要な力を専攻医自身が身につけていく過程を支えられるようになれればと思います。

*1 Souba WW. Mentoring young academic surgeons, our most precious asset. J Surg Res. 1999;82:113–20. [PubMed] [Google Scholar]


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