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鰯崎友×born

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鰯崎友の個人note+WEBマガジン bornでの記事、作品をまとめました。
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#コンテンツ会議

学生作品上映祭2019

先日は塚口サンサン劇場へ出かけてきました。目的は、私の母校、ビジュアルアーツ専門学校 放送・映画学科の「学生作品上映祭2019」。4時間ほど劇場にいて、10作品を観ました。 こんなにどっぷり学生作品にふれるのは数年ぶりで、なんとも懐かしい気分でした。ハリウッド映画なんかを観るのとはまったく異質な、身内感が漂っていて。 もっといえば、自分たちが撮った映画を観て、面白い、とか、つまらん、とか言い合ったりする、アットホームさと緊張感が両方入り混じっていて、これこそ学生作品を観る

『わたしの名は赤』イスラム細密画の世界にさまよう

16世紀のオスマン帝国の首都、イスタンブルを舞台とした物語で、そのことにハードルの高さを感じる人もいるかも知れないが、作者、オルハン・パムクの文章はそんなに難解ではない。オスマン帝国はこの当時、世界で最も洗練された文化をもち、欧州の諸国をリードしていた。 また、ヨーロッパ諸国としのぎを削ったイスラム教国家、というイメージがあるが、フランスとは長きに渡って同盟を結んでいて、ヨーロッパの政治に深く関わっていた国である。アジア、ヨーロッパを股にかける世界帝国だったのだ。 主人公

『バジュランギおじさんと、小さな迷子』映画映画した映画のパワー

タイトルは『バジュランギおじさんと、小さな迷子』だが、おじさんというよりお兄さんというかんじだ。インド人の青年バジュランギは、嘘が大嫌いで心のやさしい、ナチュラルポジティブな男だ。反面、ちょっとマヌケ、というかだいぶマヌケな性格である。猿の姿をしているという神様、ハヌマーンを崇拝していて、猿を見かけると条件反射的に拝んでしまう。勉強は得意でなく、体はごついが相撲は苦手だ。相手と組み合うと、体がこそばゆくなって、競技の途中で笑いが止まらなくなるからだ。昔のコメディにでてくる、ち

プロ野球チームができちゃった!

私は目下、大阪府堺市に住んでいるのですが、今年から、この堺という街をホームとするプロ野球チームが誕生するのです! 野球好きとしてはとてもうれしい限り^^その名も…… 【堺シュライクス】 堺市の鳥である、百舌鳥の英語名、「シュライク」を冠するこのチーム、「関西独立リーグ」の一員として2019年から活動をはじめます。 ところで、「関西独立リーグ」って何よ? プロ野球って、阪神タイガースや読売ジャイアンツのいる「セ・リーグ」や、ソフトバンク・ホークスが所属する「パ・リーグ」の

『線でマンガを読む』黒田硫黄

「恋人もいないし、クリスマスなんてなにも楽しいことないぞ!リア充爆発しろ」という方に、ぜひ読んでいただきたいマンガである。たぶん深い共感が得られることと思う。 黒田硫黄の『大日本天狗党絵詞』は、職業、学歴、恋愛などといった社会のステータスとされるものからはみ出た人間たちが、「天狗」を名乗り、やがて日本国を一大危機に陥れるカルト集団となる物語。怪しげな術を用いて天狗たちの長となる「師匠」と、主人公「シノブ」の師弟の愛憎の物語でもある。 『大日本天狗党絵詞』黒田硫黄 講談社 

イングリッシュ・ナショナル・バレエ『ジゼル』

イングリッシュ・ナショナル・バレエの『ジゼル』が斬新で面白いと聞いて、わたし、バレエ初心者なのですが、行ってきました。ロンドンまで15時間、優雅な空の旅でしたね^^ ……そんなわけはないのである。いち庶民が海外のバレエを観るのって、そこそこハードルが高い。しかし、庶民には映画がある。イングリッシュ・ナショナル・バレエによる『ジゼル』が、映画として先月末から全国各地で上映されていて、それを観に行ってきたのだ。 ナマのバレエの舞台を観たこともなく、知識もほとんどない。山岸凉子

『見えない都市』イタロ・カルヴィーノ

昔、お仕事をご一緒させてもらったイタリア人に、親愛の念を込めて、「ぼく、イタロ・カルヴィーノの『見えない都市』大好きなんです」って伝えたら、「君は変わり者だね!カルヴィーノなんてぜんぜん面白くない」って言われた。 まあ、そうだよな。イタリア人だからといって皆がカルヴィーノを好きとは限らないよな… と、はたと思い直した。たしかになんとなく、もやっとしていて、明瞭でない。誰かれかまわず虜にしてしまうような作品じゃない。 でも、そのぼやっとした感じが、好きなんだ。フォローさせ

『ボヘミアン・ラプソディ』天才と呪い

エンドロールがおわって、劇場に明かりが灯った瞬間に、拍手がおこった。誰もがこの映画の余韻に、1秒でもながく浸っていたかったのだと思う。いい年したおじさんやおばさんが、涙でくしゃくしゃになった顔を、少し恥ずかしそうにうつむけながら、ゆっくりと席をたつ。 いや、泣いていたのは彼らだけじゃない。私も泣いていた。妻も泣いていた。クイーンの歌を素敵だとは思っていても、当時の熱狂を知っていたわけではない。でも涙が止まらない。 劇場には、フレディ・マーキュリーがこの世を去った1991年

『線でマンガを読む』植芝理一

奇怪な事件が起こっている。とある女学校にて、数ヶ月のあいだに中等部の24人もの生徒が妊娠したのだ。学校は性的モラルの乱れとしてその生徒たちを停学処分にしたが、検査の結果、生徒たちは本当に妊娠していたわけではなかった。病院は彼女たち全員を、なんらかの精神的な抑圧で、身体が妊娠したときと同じ様子になる、「想像妊娠」だと推定するが、原因は分からない。 『夢使い』というマンガを、ざっくりと説明するならば、京極夏彦の影響を色濃く受けた伝奇ミステリに、萌えマンガの要素をつけたした作品、

劇場版『フリクリ オルタナ』『フリクリ プログレ』

『新世紀エヴァンゲリオン』という90年代最大の話題作を生み出したアニメスタジオ・GAINAXにとって、エヴァ以降、どのような作品を作っていけばいいかというのは、結構たいへんな課題だっただろう。 『エヴァ』の監督の庵野秀明は、1998年の『彼氏彼女の事情』のあと、しばらくアニメ制作から遠ざかってしまった。最大の立役者が第一線から退いてしまったのだが、アニメファンの、GAINAXのSFアニメに対する期待値は天井知らずに上がっていた。私も『エヴァ』のイベントに通い、グッズを集めて

小津安二郎監督『東京物語』

シネ・ヌーヴォにて、小津安二郎監督の『東京物語』4K修復版を鑑賞。1953年の、モノクロ映画だが、そこは世界的評価を得た作品だけあって、はじめは古いな、という感じがするけど、それも一瞬、あっというまに作品の世界にひき込まれる。さすがだ。 よく言われることだが、小津のローポジション、ローアングルのショットは絶品だ。これ以上、削るものも、つけ足すものもない、完璧なバランス。『東京物語』の画面からは、幾何学的にかたちを配置する、例えて言うなら理系的な知性を感じる。パッションに任せ

絵画のナゾを解け!『CHART project EXHIBITION』

大阪にある、江之子島文化芸術創造センター [ e n o c o ]。この施設にて『CHART project EXHIBITION』という展覧会が開催中です。 昨日は開催地、展覧会の名前を伏せていたので、改めてこの展覧会で観ることのできる作品の一部をご紹介します。 さて、上の5つの絵、それぞれ別のアーティストの作品で、描かれているものや画材はバラバラですが、じつは共通点が存在するのです。それは何か、ということを昨日はクイズにしていたのでしたよね。おまたせしました。答えを

絵画のナゾを解け!【とある美術展にて】

ここは、大阪府のとある美術館… 目下開催中の展覧会で見ることのできる、作品の一部をご紹介します。 どうですか?どれも素敵な作品ですよね~ いきなりですが、ナゾナゾです。上の5つの絵、それぞれ別のアーティストの作品で、描かれているものや画材はバラバラですが、じつは共通点が存在するのです。 わかりますか?よーく見て下さい。この作品たちに共通するのは何か? 答えは明日の更新にて! (※この展覧会の作品は撮影、SNSシェアOKとのことです。また、今回私が使った作品画像は主

『線でマンガを読む』ひさうちみちお

ハンガリー生まれの社会学者、カール・マンハイムが語るように、あらゆる知識、信念体系はそれを信ずる個人や集団の社会のなかでの位置によって規定される。誰にとっても都合のよい、真に中立的な知識や信念は存在しない。政治家は政治の、宗教家は宗教の、国民は自身の置かれた生活の枠組みのなかから、各々にとってよりベターとなる信念を表明する。 いっけん自分にとって不利益になるような行動をする人もいる。たとえば自分の全財産を慈善団体に寄付するような人だ。しかし、彼も先のマンハイムの言葉からけし