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鰯崎友×born

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鰯崎友の個人note+WEBマガジン bornでの記事、作品をまとめました。
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2018年12月の記事一覧

質量

中古車でろくに整備もしていないから、サスペンションがくたくたにへたっている。おまけに路面も悪いから、走り心地は最低だ。 高架をくぐって右折すると、その先ですこし渋滞している。 近づくとガラスの破片が散乱していて、警官が交通整理をしていた。 どうやら事故が起こったのだ。まだあまり時間は経っていない。 がたがたと、時折大げさに揺れるシートに座っていると、頭が痛くなってくる。助手席で、妻はすうすうと寝息をたてている。窮屈そうに寝返りをうっている。 頭痛を紛らわそう

『線でマンガを読む』黒田硫黄

「恋人もいないし、クリスマスなんてなにも楽しいことないぞ!リア充爆発しろ」という方に、ぜひ読んでいただきたいマンガである。たぶん深い共感が得られることと思う。 黒田硫黄の『大日本天狗党絵詞』は、職業、学歴、恋愛などといった社会のステータスとされるものからはみ出た人間たちが、「天狗」を名乗り、やがて日本国を一大危機に陥れるカルト集団となる物語。怪しげな術を用いて天狗たちの長となる「師匠」と、主人公「シノブ」の師弟の愛憎の物語でもある。 『大日本天狗党絵詞』黒田硫黄 講談社 

クリプキ 「規則に従う」とはなにか?

文法や数学の四則演算など、私たちは「規則」に従ってものごとを「常に自分がしてきたことと同じやり方」でやり続けてきた、と思っている。でも、私が、他者のいう規則でなく、自分の主張する規則を自分に適用してきた、ということを示す事実は、じつは何もない。 他者は、私の今まで行ってきた事実をもって、私が私に課していたと主張する規則とは異なる、別のなんらかの規則を、知らず知らずのうちに適用してきた、ということを、いとも簡単に指摘できるのだ。私たちは、規則に従うさいに、いうなれば「暗黒

【グローバル・ヒストリー】アメリカ・中国(清)

「グローバル・ヒストリー」というワードをご存じだろうか。国家や民族を超えた、商業や文化のネットワークに注目した歴史の見方を示す言葉だ。 むかし学校の授業で習ったような、国家の変遷や歴史的著名人を覚えることに重点をおいた歴史に留まらず、より巨視的に、世界を一体のものとして、その大きな流れを理解すること。 このような物事の見方が、大きな変化の真っ只中にある現代を生きるわたしたちに必要なのではないか? という考えに基づいて書かれた、『大人のための世界史入門 教養のグローバル・ヒ

イングリッシュ・ナショナル・バレエ『ジゼル』

イングリッシュ・ナショナル・バレエの『ジゼル』が斬新で面白いと聞いて、わたし、バレエ初心者なのですが、行ってきました。ロンドンまで15時間、優雅な空の旅でしたね^^ ……そんなわけはないのである。いち庶民が海外のバレエを観るのって、そこそこハードルが高い。しかし、庶民には映画がある。イングリッシュ・ナショナル・バレエによる『ジゼル』が、映画として先月末から全国各地で上映されていて、それを観に行ってきたのだ。 ナマのバレエの舞台を観たこともなく、知識もほとんどない。山岸凉子

『見えない都市』イタロ・カルヴィーノ

昔、お仕事をご一緒させてもらったイタリア人に、親愛の念を込めて、「ぼく、イタロ・カルヴィーノの『見えない都市』大好きなんです」って伝えたら、「君は変わり者だね!カルヴィーノなんてぜんぜん面白くない」って言われた。 まあ、そうだよな。イタリア人だからといって皆がカルヴィーノを好きとは限らないよな… と、はたと思い直した。たしかになんとなく、もやっとしていて、明瞭でない。誰かれかまわず虜にしてしまうような作品じゃない。 でも、そのぼやっとした感じが、好きなんだ。フォローさせ