第2回ウェビナー「都市におけるカーボンニュートラルの実現に向けて」
2021年10月19日、IURC日本ヘルプデスクは、「Achieving Carbon Neutrality in Cities(都市におけるカーボンニュートラルの実現に向けて)」に関するウエビナーをオンラインで開催しました。これは、テーマ別クラスターの1つである「エコ転換とグリーンディール」についてIURC AA(アジア・豪NZ)が開催する一連のウエビナーの第2回目であり、今回は都市の脱炭素化に焦点を当てました。都市がカーボンニュートラルに向けてどのように変革しているかについての最新の情報を共有し、気候変動との戦いにおける都市間協力の重要性を認識することを目的としています。 当日は、以下のプログラムに沿ってIURC関係者及び参加都市からの発表が行われました。
プログラムはこちらからダウンロードできます。本レポートの最後に各登壇者の発表資料を掲載しています。
■ 開会挨拶
駐タイ国欧州連合代表部においてIURC AAプログラムを統括しているミシェル・ムシロー氏は、「Race to Zero」キャンペーンにこれまで世界の約800都市が参加していることを紹介しました。また、脱炭素社会の実現には、新しい政策、新しい生産と消費のあり方、そしてもちろんグリーンエネルギーへのアクセスが必要であることを述べるとともに、IURC AAはEUとアジアの都市同士の協力を通して、お互いのインスピレーションや革新的なアプローチの交流を促進するものであること強調しました。
また、IURC 日本チームリーダーの井村秀文教授よりIURC日本の活動概要と今後の展望についての紹介が行われました。
■ 背景説明-ゼロカーボン・ムーブメント
ICLEI-Japan事務局長の内田東吾氏は、日本における「Race to Zero」の取り組みを紹介しました。内田氏は、一部の先進的な地方自治体が2050年までに二酸化炭素をゼロにすることを約束したのに続いて、国がすぐに協議会を設立して地方の取り組みを後押しし、その結果を多くの地方自治体が追随するという、マルチレベルでの政府間協力による 「Ambition Loop」(野心的取り組みのループ)について紹介しました。これまでに、日本の人口の88%に相当する464の地方自治体が、2050年までに脱炭素化の目標を達成することを表明しています。この数字は素晴らしいものですが、目標が実際に達成されるためには、各地方自治体は既存の「地域別緩和計画」の見直しを行い、十分に野心的な中期目標を決め、2050年の目標達成に向けた調整を確実に実行しなければなりません。
■ 都市パネルセッション
欧州からは、大規模都市の事例として英国のグレーター・マンチェスター都市圏とハンブルグ市、また中規模都市の事例としてスエーデンのウメオ市の発表が行われました。アジアの事例として、マレーシアの取り組みが紹介され、日本からはIURCプログラムにおいてグレーター・マンチェスター都市圏との協力を開始した大阪市の発表が行われました。
グレーター・マンチェスター都市圏の低炭素部門責任者であるショーン・オーウェン氏は、グレーター・マンチェスターは2038年までにカーボンニュートラルになることを目標に掲げていると述べました。現在、グレーターマンチェスター都市圏に属する10の地区が気候緊急事態を宣言しており、それは具体的な行動を求めるものです。
オーウェン氏は、カーボン排出量について、個別の排出量ではなく、排出総量が重要であることを強調しました。2015年から2019年にかけて、市の排出量は計画を上回っており、今すぐ大幅な削減を行わなければなりません。交通機関と家庭内の暖房が、二酸化炭素の2大排出源です。化石燃料の使用から、水素を含む再生可能エネルギーへと移行するために、「回避・シフト・改善」の視点からなる総合的なシステム的アプローチをとる必要があります。グレーター・マンチェスターは今後3年間で1億1300万ポンドの投資を行おうとしており、その梃入れ効果によって7億5000万ポンドの資本投資が実現され、その結果、さまざまなプロジェクトを通じて100万トンのCO2削減につながることを目指しています。
続いて、大阪市環境局環境施策部長の井原優子氏の発表が行われました。IURCでは、大阪市はグレーター・マンチェスターとペアを組み、気候変動問題に取り組んでいます。井原氏はまず、SDGsに貢献するアイデアやイノベーションを集めた「2025年大阪・関西万博」について紹介しました。この万博では、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、再生可能エネルギーを活用した統合型リゾートアトラクションの取り組みが紹介されます。
次に大阪市地球温暖化対策実行計画についての説明が行われ、「ゼロ・カーボン大阪」の5つのコンセプトが紹介されました。そのコンセプトとは、① 低炭素なエネルギーで暮らすまちの実現、② 脱炭素マインドに満ち溢れ、脱炭素ファーストの行動が浸透したまちの実現、③ 脱炭素のしくみを組み込んだ持続可能なまち(新しいモビリティサービスなどの環境新技術が都市システムの様々な部分に組み込まれた都市)の実現、④ 多様なきずなを活かし、脱炭素化をリードするまち(官民連携と国際ネットワーク都市)の実現、⑤ 気候変動への備えがあるゆるぎないまちの実現です。
自由ハンザ都市ハンブルク上院国際プロジェクト部長のトーマス・ヤコブ氏と、ハンブルク環境・気候・エネルギー・農業省次長のブリジット・コーンライン氏(両氏は2021年7月の「New Green Possibility」フォーラムでも登壇)の2名が登壇し、2030年までに55%、2050年までに95%の削減を目指す「ハンブルク気候計画」を発表しました。
2011年に "European Green Capital "の称号を得たハンブルクは、2030年に向けて ① 一般家庭、② 貿易・商業・サービス、③ 産業、④ 交通の4つのセクターごとに2030年の目標を設定しました。2030年までに400万トンの削減を達成するために、20億ユーロの投資を必要とする400以上の対策を制定しています。この計画では、暖房分野とエネルギー効率の高い建物、そして輸送を重要な分野としています。建築物については、非住宅建築物の改修、新築の公共建築物の高効率基準、新築建築物への太陽光発電の義務化などを推進しています。交通機関については、公共交通機関、自転車、自転車シェアリング、e-モビリティ、トラック用LNGインフラなどの物流の拡大を推進しています。
ウメオ市戦略開発・男女共同参画担当官のアンニカ・ダレーン氏は、気候変動と社会的持続性、特に男女共同参画との密接な関係を強調しました。ウメオ市は、2050年までに人口を13万人から20万人に増やしたいと考えています。このビジョンでは、社会的、環境的、経済的、文化的に持続可能な成長でなければならないと明記されています。
ウメオは30年以上にわたり、その仕事の方法を「ジェンダーを可視化した風景」と呼び、男女平等を目指してきました。2040年までに消費に伴う気候変動の排出量を一人当たり2トンCO2/年に削減する計画の中で、「もし男性が女性のように旅をしたらどうだろう?」「ソーラーパネルなどの技術を普及させる際には、誰をターゲットにするのか?」といったような疑問を提起し、気候ニュートラルを達成するためには、新しい技術を導入することと同様に、権力、アイデンティティ、規範に挑戦することが重要であると結論づけました。ジェンダーの視点を持つことで、気候変動対策をより具体的かつ効率的に行うことができます。
最後に、ボルネオ・オーガニゼーション社の気候・エネルギーとレジリエント・エンバイロンメント担当ディレクターであるボイド・ジョウマン博士が、マレーシアの事例を紹介しました。一例として、マレーシア初の低炭素社会の青写真を作成したイスカンダル・マレーシアの事例を紹介しました。2025年までに2010年を基準にして単位生産当たりのGHG排出量を58%削減することを目標とし、目標達成のために12のアクションと281のプログラムを制定しています。昨年時点で65のプログラムが完了しています。
一方、ペナンパンは2019年に「持続可能なエネルギーと気候の行動計画」を策定しました。興味深い取り組みとしては、テガルシステムと呼ばれる先住民族の川の保護方法や、食糧安全保障のための水田の保全に力を入れていることなどが挙げられます。ボイド博士は最後に、気候行動計画を開発計画システムに統合し、申請前に計画を厳密にテストすること、また、効果を確実にするために市民や民間セクターを巻き込むことの重要性を強調しました。
プログラム・発表資料
開会・背景説明
都市パネルセッション - 相互学習のための行動、課題、機会
閉会