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第4回ウェビナー 「 リノベーション・ウェーブ(建築物のエネルギー消費性能)」

中野さん

都市がカーボンニュートラルを達成するためには、古い建築物をエネルギー効率の高いものに改修することも重要です。欧州委員会の共同研究センター(JRC)によると、EUでは総エネルギー消費量の40%、GHG排出量の36%を建築物が占めています。上述のような改修を行わなければ、正味ゼロ・カーボンの目標は達成できません。
2021年11月29日、IURC AA(アジア・豪州NZ)は、IURC AA 日本事務局(ヘルプデスク)業務を担当する公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)と共同で、「リノベーショ・ウェーブ(建築物のエネルギー消費性能を向上させるためのイニシアティブ)における自治体の役割」と題したウェビナーを開催しました。このウェビナーは、同財団主催の「持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム」(ISAP2021)の一環としても位置づけられました。
このセッションでは4人のメイン・スピーカーが、既存の建物のリノベーションに関するEUの政策や、これに関する各都市の経験について情報を共有しました。モデレーターは、IGES都市タスクフォースのリサーチ・マネージャー(IURC AA 日本ヘルプデスク・マネージャー)である中野綾子氏が務めました。井村秀文氏(名古屋大学名誉教授、IGES上席研究員/IURC AA 日本 チームリーダー)がウェビナーの背景を説明しました。また、IURC AAのチームリーダーであるパブロ・ガンダーラ氏は登壇者とのディスカッションを行い、テーマ別の国別協力における次のステップについて情報を提供しました。

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JRCの上級専門家であるパオロ・ベルトルディ博士は、既存および新築の建物を対象とした「リノベーション・ウェーブ」、「新ヨーロッパ・バウハウス」、「建物のエネルギー性能指令」、「エネルギー効率指令」、「エコデザイン指令」など、建物とエネルギー効率に関するEUの政策を紹介しました。ベルトルディ博士は、現在のリノベーション率は年間1%未満であり、EUがエネルギー効率、再生可能エネルギー、気候に関する目標を達成するためには、少なくともこれの2倍のリノベーション率が必要であると述べました。
リノベーション・ウェーブは、GHG排出量の60%削減、エネルギー消費量の14%削減、建設部門における16万人のグリーン雇用創出、リノベーションされた不動産の価値向上、屋外大気汚染の減少など、多くの直接的・間接的な恩恵をもたらします。年間2,750億ユーロという高額な投資が行われるため、インセンティブ(動機付け)や資金調達のスキームが重要となります。これらのスキームとしては、減税、ゼロ金利ローン、エネルギー不足の家庭への補助金などがあります。さらに、改修に関連する公共サービスを一元化し、施策の質を確保するために、地方レベルでワンストップショップが設置されています。
また、ベルトルディ博士は、EUの9,858都市(2億1700万人)が加盟する「気候変動とエネルギーに関する世界首長誓約(GCoM)」に加盟している都市の状況についても言及しました。これらの都市では、GHG排出量の56%を建物が占めています。建物のエネルギー分野では、9万件の行動や対策がとられており、その大部分は、照明システム、建物の外壁、空間暖房・給湯システム、電気製品のエネルギー効率の向上を目的としています。一部の都市では、空間暖房・給湯システムに自然エネルギーを提案していることが紹介されました。

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自治体からのパネリストとして最初にリノベーションの経験を披露したのは、ドノスティア-サン・セバスチャン市 エネルギー効率部門のJon Gastañares氏とIker Mardaras Larrañaga氏です。スペインの北部に位置するドノスティア-サン・セバスチャンは、冬は寒く、夏はそれほど暑くありません。平均気温は13℃で、建物のエネルギー消費の中では暖房が大きな割合を占めています。ドノスティア・サン・セバスチャンは、2018年に「気候プランDSS 2050」を立ち上げ、2020年に気候緊急事態を発表しました。2030年には40%、2050年には80%のCO2排出量削減を目標としています。現在、同市の総排出量の約22%を建物が占めています。
ドノスティア - サン・セバスチャン市の建物の70%は、1980年以前に建てられたもので、断熱性能がよくありません。前述の目標を達成するために、市は年間3,000棟以上の建物を改修する必要があります。2009年から2020年の間に、88,327戸の住居の20%が改修されました。建物の所有者や建設業者に行動を促したのは、遵守すべきエネルギー性能レベルの数値目標を定めた市の条例でした。この条例に従わないと、市から建築許可が下りません。これにより、住宅の総エネルギー消費量を7%、CO2排出量6%、市の総エネルギー消費量を2.7%、CO2排出量を0.73%削減することができました。小さな数字ではありますが、このプロセスは様々なステークホルダーの支持を得ました。
改修された自治体の建物の事例の紹介も行われました。これらの建物では、電力システムの変更、熱設備、建物の壁面の変更、バイオマスや太陽光発電による再生可能エネルギーの生産などが行われています。自家消費用に11の建物に太陽光発電設備が設置され、入札中の5つの施設を加えれば合計802kWpとなる予定です。また、売電用に28棟の建物に太陽光発電が設置されており合計805.6kWpの電力を送電しています。

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日本の京都市も再生可能エネルギーに力を入れています。冬は寒く、夏はとても暑く、夏場は40℃にまで気温が上昇します。京都市環境政策局地球温暖化対策室の藤田将行氏によると、京都市の任務は建物の断熱性能の向上とソーラーパネルの設置です。
2019年5月11日、京都市長が日本で初めて「2050年までのCO2排出量ネットゼロ」を宣言しました。続いて、2020年10月26日には、菅前首相が日本のネットゼロを宣言しました。現在、日本では479の自治体が2050年までにカーボンニュートラルを達成することを宣言しています。京都市の「新築・増築建物対策」によって、これまで延床面積2,000m2以上の大規模建築物には、義務量30GJの再生可能エネルギー発電機の設置と地域産木材の利用が義務付けられていました。京都市は「新築・増築建築物における再生可能エネルギー普及対策」を強化し2022年から大規模ビルの義務を増やし、固定量(30GJ)からメーターごとの計算(60~450GJ)に変更し、中規模ビルには義務量30GJの再生可能エネルギー発電機の設置を義務付けます。また、太陽光発電の共同購入スキームなど、家庭への普及を促進するための施策も用意されています。
この取り組みにおいて、建築家は、再生可能エネルギーの普及に重要な役割を果たしています。彼らは、再生可能エネルギーによるCO2削減効果や、導入可能な再生可能エネルギーの上限、導入可能な再生可能エネルギーの種類などを住宅所有者に説明する役目を担っています。調査によると、改修された建物の53%が、建築家の提案した再生可能エネルギー設備を導入しています。

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最後に、ハンブルク環境省の連邦・欧州・国際局副局長であるブリジット・ケーンライン氏が、ハンブルクの「リノベーション・ウェーブ戦略」を紹介しました。2011年にヨーロッパのグリーンキャピタルに選ばれたハンブルクは、持続可能な都市開発に力を入れています。最近のIPCCレポートを受けて、気候に関する野心的取り組みを推進するという政治的なコミットメントを行った結果、2045年までに気候ニュートラルな都市となることを目指しています。これは、450万トン以上のCO2排出量を削減しなければならないという重い課題です。
なかでも、建物は重要なセクターで、ハンブルクの総エネルギー需要の25%を占めており、そのほとんどが暖房です。ハンブルク市は、改修率を2倍にして質の高い改修を実現するとともに、建物の外壁と暖房システムを同時に考慮した統合的な改修コンセプトに取り組もうとしています。市が実施しているツールは3つあります。1)情報とアドバイス、2)インセンティブ(市と連邦政府からの資金援助)、3)法律による規制です。
省エネルギー対策のための情報提供や財政支援を受ける方法はたくさんありますが、支援を受ける時には混乱がつきものです。そこでハンブルクでは、公共サービスとして、エネルギーに関するあらゆる問題についてアドバイスを提供する「エネルギー・パイロット」を設置しています。民間企業の優秀なエンジニアが、連邦政府からの補助金(費用の80%)を得て、より詳細なアドバイスを提供しています。また、建物の改築に対する財政支援のためのさまざまな選択肢についてもアドバイスを受けることができます。エネルギー・パイロットのサービスは好評で、2021年前半には約5,000件の相談が寄せられています。
インセンティブに関しては、連邦政府が低コストのクレジットと返済補助を組み合わせて提供したり、補助金を提供したりしています。一般的な原則として、エネルギー基準が高ければ高いほど、より多くの資金を得ることができます。この支援は、すべての改築と、新しい屋根や新しい外壁などの単一の対策に適用されます。商業施設の場合は、より詳細で複雑な支援制度があります。
法律の分野では、ハンブルク市が所有する公益事業については、石炭や熱源の使用を廃止することが法的に義務付けられています。民間企業は、2030年までに再生可能エネルギーと熱源のシェアを30%にする方法を示した脱炭素ロードマップを提出しなければなりません。2キロワット以上の直接電熱システムの新規設置は禁止されています。新築の建物や既存の建物の新しい屋根には、可能な限りソーラーパネルを設置しなければなりません。また、2009年以降に建設された建物については、新規または改修された暖房システムの再生可能エネルギーの割合を15%にすることが義務付けられています。全体的にハンブルクは、公共部門が気候変動対策のロールモデルとして行動し、2030年までに行政が気候変動に左右されないようにしたいと考えています。

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本ウェビナーの録画と発表資料は公益財団法人地球環境戦略機関(IGES)のISAP2021 TT5のウェブページからご覧いただけます。
https://isap.iges.or.jp/2021/jp/t5.html

IURCのウェブサイトでは英文記事をお読みいただけます。