見出し画像

怪#9-4(本物)


倉内の「祓い」は的確で
私限定なるも
私の子供には別でした

母親と子供は
ある時期までは
魂がつながっている

特に先輩とお子さんの
つながりは強い

命を懸けて守る存在
お互いが
そう捉えているからと
言っていました

その日は休日出勤を言われ
私たちは半日だけ
当番を務めました

主人が自分の実家で
子どもたちを見てくれて

というより
おじじとおばばに
見てもらい
自分は楽するパターンですね

倉内が唐突に
子供に会いたいと
言いました

なにか感じているようです

「それじぁ、一緒に
    お昼を食べようか」と
主人の実家に伴い
到着と同時に

丁度、主人が
子供たちを連れて
帰り付いたところでした

車から降りると
子どもたちの具合が悪い

頭を押さえて
「いたい・・いたいの」
と、言うではありませんか

何をしたのか尋ねても
遊んでいただけだと
言います

猛暑日でしたので
熱中症にでもなったかと
大急ぎで寝かせて
冷やしました

倉内、そっちのけで
バタバタしましたが
クーラーの効いた部屋で
おでこ、わきの下など冷やし

母親(私)が帰ってきた
安心感も手伝って
二人とも、あっさり
寝てくれました

何も言わず
私の横に座っていた
倉内が
二人の子供の間に座ると
ひとりひとりに
手をかざし

眼を閉じて
息をつめて
眉間にグッと
力を込めたことが
わかりました

足元、かかと辺りから
頭の上に向かって
手のひらを、ゆっくり
持ち上げていきます

そのまま
自分の胸のあたりに
持ってくると
合掌するように
手を合わせ
それぞれの拳を
「ぎゅっ」と握りました


大きく息を
ふぅぅっぅぅぅー
と、吐き出し
ひゅぅぅぅぅーと
音を立てて吸いました

これで大丈夫・・・


たくさんの死者を
乗せていましたよ
具合が悪くなるはずです

溺れて死んだ者
自ら入水したもの
悪い思念のやつらです

恐らく
海か川に行き
水遊びを
したようですねぇ

はぁぁぁ!

今、お盆じゃないの

先輩、こいつらに
飲み込まれたら
お子さん方
命無かったですよ

頭に血がのぼり
外で呑気にタバコ吸ってる
亭主に食って掛かった

あなた、お盆なのに
水遊びに連れて行ったのね


驚いた顔で

ちぇっ、口止めしたのによ

と、言いながらも


あんまり暑いから
海に連れてって
1時間ばっかし
波打ち際で遊ばせた

俺がちゃんと見てたから
目は離さなかったよ
と、悪びれもせず答えた


この時期
波に乗って陸に
上がってくる
水死者に
幼い我が子を
差し出したも同然
ではないか

確かに主人の家では
冠婚葬祭や
親戚の集まりが
皆無だ

理由は不明

そのせいか
社会一般的な常識が
身についていない
ところがある

主人の妹の
夫の母親が亡くなった
初盆の時は
皆がお線香を
あげに来ることすら
知らず

何の用意もしていなかった


ひとりっ子の長男
喪主でもあったから
皆が必ず来訪するはず

なのに
お坊さんの来る日とか
連絡がない


仕方がないので
提灯と線香セット
祭り用にお金を包んで
持っていくと

「何の話?」と

聞かれる始末でした

そんなことすら
知らなかったのです


初盆なのに
お坊さんの予約もしてない

慌てて準備しましたよ

まぁ、そんなですから
お盆の時期に
海に行くことが
禁忌なんだとは
わからなかったのです


倉内のおかげで
我が子が守られました



子どもの「祓い」を
終わらせた後
私が亭主に文句を
言ったサッシに
近づき、ガラス越しに
夫を見ると
眉をひそめました


自分のスマホを取り出すと
窓越しに
こちらに横顔を
見せている夫を撮影し

「すいません  
  これも持って帰ります」


こいつも相当強い
恨みを呑んでます

場所的になんですし
ご主人、こんな事象に
懐疑的な人みたいだ

言っても
信じてくれなさそう
ですから

と、見せてくれた
スマホの画面


主人の横に
「漆黒」ともいえるような
真っ黒な子供がいます

墨で
塗りつぶされたような
「黒」です

形だけは子供

髪型のシルエットが
伸び放題になった
ウルフカット

真っ黒な影
それが
主人の傍らに
膝を抱えたように
座っているが

恐ろしいのは

その目つき

目だけが真っ黒な中にも
ぽかっと
開いており

血走り
上目遣いの三白眼が
睨みつけている



コイツは子どもの
大きさと形ですが
邪悪で
怨念と恨みの塊です



こりゃーすごいわ


軽く言っていましたが

翌日から夏休暇に入った
倉内とは
1週間
連絡が途絶えました




毎日の重ねから私なりの 「思い」を綴っております 少しでも「あなたの」琴線に 触れるものがあれば幸いです 読んで下さり、ありがとうございます