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怪#4<2>(Leeと叔父)

Leeの話からつながる
スピンオフ物語です

前話でLeeとともに現れた
叔父は痛みのわかる人でした

このあたりの男性は
男尊女卑の考え方が根強く

女は働くもの

女は頭が悪い

口答えは許さない
など・・・

母の年代の人たちは
鼻持ちならない
思考の持ち主で
名前すら呼ばない

「おい」とか
「こら」とかで
妻を呼びつけるのだ

でも、叔父は違っていた
他の男たちと
諍いにならぬように
注意しつつ
陰に回って女性陣の
苦労をねぎらう
気配りある人でした

Leeは男性を恐れる子で
乱暴な言い方で呼ばれると
ペタンと座り込んで
それこそ
腰が抜けたように
動けなくなっていました

私たちの見ていないところで
いじわるした奴がいたのかもしれないと
後になって思い至りましたが
「その時」はわからなかったのです

それでも
叔父だけは別でした
「キュンキュン」と
甘えたように泣きながら
叔父の足に自分の頭を
こすりつけて
撫でてくれと
ねだるほどでした

そんな叔父はなくなる前に
大変、苦しい思いを
したのです

呼吸器系の疾患で
患いついており
一度、危篤に陥った際
延命措置を
どうするか
医師に迫られました

他県に嫁いでいた娘が
まだ到着していなかった
こともあり
奥さんは詳しく
聞くこともせずに
「お願いします」と
答えてしまいました

最後に一目会わせたいという
気持ちからでしたが
これが叔父に
とんでもない苦痛を
与えることになるなど
誰一人
わかっていなかったのです

懸命の措置が功を奏して
何とか命を取りとめましたが
自発呼吸ができないため
抽管したことが仇となり
「つば」すら飲み込めない
状況になっています

多分ですが

胃カメラを飲むとき
気道いっぱいを管が占領し
窒息しそうで
嘔吐しそうな状態

そんな感じなのかなと
想像しました

飲食が口からできない
管の隙間から指一本が
やっと入る程度

口腔内はガーゼを湿らし
固く絞ったのち
拭くだけ

くちびるはガサガサに
ひび割れて
口の横は切れています
そんな状態が数か月
続いた挙句に
亡くなりました

壮絶な苦痛との戦いで
延命措置を簡単に
承諾してはならない

いちど、処置されたのち
覆すことは殺人になる

私たちは後悔しました

機械や薬で強制的に
つないだら
どこかで必ずひずみができ

その対価は患う本人が
払うことになる

医術の良し悪しを
考えさせられました


やっと楽になったんだよ




葬儀の間中
みんなが口をそろえて
言っており
失った悲しみよりも
叔父の苦痛が終わったことに
安堵する葬儀でした

Leeを失い
叔父も去り
疲れ果てて
葬儀翌日の夜を実家で
過ごしていると
天井から変な音がします


ゴトン コツ
ゴトン コツッ
ゴトン コツ
ゴトン コツッ


ね、ねぇ・・・
こ、これって
叔父さんの杖を突きながら
歩く音に聞こえる
・・・・・

亡くなった叔父は
養鶏場の職員で
昔はマスクなどせずに
働いており
そのせいで
いつの間にか肺を
患っておりました

歩くのに杖を用い
酸素吸入のボンベを
カートで
引きながら
鼻にチューブで
空気を送っていたので
足音はしないのに
杖の音やカートの音がします

だから
叔父が来ると
嫌でもわかっていました


その懐かしい音が
いま
うちの天井でしています

恐ろしくはありませんでした

亡くなった方は
「天国」に行く前に
お世話になった方のところに
ご挨拶に回る
その期間が
49日だと
聞いたことがあります


早速、家に来てくれた
のだなと
呑気に思ったことでした

ところが
その日一日だけかと思いきや
毎日毎晩20時になると
現れ21時には
きっかり居なくなるの

最初こそ驚いたが
慣れると
叔父が
そこにいることありきで
話しかけるありさまでした

もう苦しくないんね?

何でまだ杖ついてるの?

何もかも
治ったんじゃないの?

などなど
痛いところを突く
質問など織り交ぜながら
日々を重ねていた

Leeを亡くし
仲良しの叔父を
亡くした
母を心配して
来てくれたのかも知れない
優しい叔父ならきっと
そうすると
みんなが、思っていました



またたく間に日々は過ぎ
叔父宅で
49日の祭りを済ませ
帰宅した夜


嘘のように
ピタッと
音がしなくなりました



無事、旅立ったようです




毎日の重ねから私なりの 「思い」を綴っております 少しでも「あなたの」琴線に 触れるものがあれば幸いです 読んで下さり、ありがとうございます