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怪#12-1(魔のカーブ)


<1>

覚えているのは高校の時
それまでも
あったのかもしれませんが
シッカリと記憶に
刻まれたのは
16歳の冬

本人は
すごくいいやつ(男子)
だけど
なんでだかわからないが
母親がすこぶる
悪評高い人でした

妬み、嫉み
いつも誰かのことを
悪しざまに言うか

仲の悪い相手同士に
それぞれの誹謗話を
告げ口みたいに言って
争いごとを起こさせ

それを、うれしそうに
見ている

理由など無いのです
自分が
知っていることを
吹聴したいタイプ

情報通であると
自称しているが

実態は
もめ事を起こす原因

自分の子供と
仲が良い子でも
我が子が何かしら
劣っていると

容赦なく相手の親を
争いの火種にして
打ちのめし

子供まで
巻き込んで痛めつける


周囲の人は
最初こそ
頼りにしていたが
話をたどると
いつも発端が
その母親だとわかり
いつしか距離を
置くようになった

子どもの会話から
火種を作る天才
とも言われていた

誰しも自分の親が
悪く言われることを
喜ぶ子はいない

嫌ったわけではなくとも

自然・・その子(正樹)も
孤立しがちに
なっていきました

正樹は自分の小遣いと
家計を助けるために
新聞配達のバイトを
小学生の時から続けていて
その日も、早朝
販売店に新聞を
取りに行くところでした



私たちが住んでいる地域には
山海病院という
とても大きな病院があります
増設、増床を繰り返し
駐車場まで入れると
ひとつの町ほどの大きさです


病院の巨大化に伴い
大急ぎで道路がつくられ
整備されたのですが

病院から出て
橋を渡った先が
大きなカーブになっており
スピードを落とさないと
曲がりづらい形なのです

大人になって建設業についた
友人から
教えてもらったのですが

通常、カーブを描くときは
弧のカーブ曲線と言われる
R測定をし
法則に基づいて
カーブを作るらしいです

これを無視すると
事故率がとても高くなる

病院のカーブは
やっつけ仕事で
まったくRを描いてない

だから、あそこは・・・

納得しました

ここは
事故多発地点


16歳の冬
正樹は、いつものように
バイトに行くところです

テスト勉強をしていたため
ほとんど眠る暇が
ありませんでした

睡眠不足と「馴れ」
加えて
取得したばかりの
バイクは
自転車と違って
アクセルさえ開いていれば
勝手に進んでくれる

そんなことが重なり

正樹は眠くて一瞬だけ
眼をつぶって
しまったのでしょう

前述の病院カーブ
ノンブレーキで
電柱に突っ込みました

正樹のために泣く人は
たくさんいましたが

誰も
母親のそばには
近寄らなかった


<2>

正樹と仲が良かった
達夫は高校を
辞めてしまいました

規則の厳しさもでしたが
取ったばかりの中型免許で
バイクに夢中になったのです

高校では50ccまでしか
許可していません

それも認可制で取得
だったのですが
お構いなしに取ったのです

それが学校に知られてしまい
謹慎処分を受けたのを機に
そのまま
行かなくなってしまいました

中退した仲間たちとの
バイクでの走りは
とても楽しかったようです

兄貴分の雄二君は
KawasakiのNinjiya
ライムグリーンがきれいで
強いトルクと
加速が自慢

友達の信二は
HONDAのCBR400
カウルが自慢だったみたい

達夫は
YAMAHAのRZ350に
乗っていた

軽量級なのに
パワーがあるから
凄くスピードが出る
と言ってました

ただ、
前輪が大きい
スポーツタイプだから
コーナリングが難しい

ニケツでも前輪が浮くから
ウィリーができると
喜んでいたのに


結局、それが原因で
正樹と同じ
病院カーブでコーナーを
曲がり切れず

大きく外に膨れてしまい
帰らぬ人と
なってしまったのです

しばらく経つと


ひとけが無くなった深夜に
遅番の看護師さんが
帰宅のためにカーブを
通りがかると

シュォーォン

シュゥーンと

ギアを切り変えながら
走り抜けるバイクの音を
聞くようになったのです

でも、何も
道路を走ってはいません


<3>

高校を卒業して半数は進学
半数は就職しました
私を含めて仲の良い子たちは
地元就職組で
卒業後も頻繁に
会うことができました

かねてから交際していた
司と美咲は
あっという間に
出来ちゃって
結婚一番乗りでした

スラっとして背の高い
司は美咲をとても
大切にしており

小さくて華奢
何より流れるような
ストレートロングの
細い髪が
お気に入りで
櫛ですいたり
結い上げて
お団子にしてあげたりと

仲の良い二人でしたから
納得の結婚でした

でも、あまりに仲が
良すぎたから
なのでしょうか?

仕事帰りに
身重の美咲が待つ家路を
急いでいた?

目撃者がいないので
詳しいことが
分からなかったのですが

あの

病院カーブで
またしても
曲がり切れずに
事故ってしまったのです

足回りを固め
バネを一巻き半
切った
シャコタン
(当時はこう言ってた)
自慢のハコスカ
もろとも
潰れてしまったのです

美咲はひとりで
子供を産みました

正確には
両家の親御さんが
面倒を見ていたので
孤独ではなかったのですが

優しく包んで
大事に守ってくれた
司くんだけが
居なかった

他は居なくとも
彼にだけは
傍に居てほしかった
であろうと
私たちには
わかっていました

出産後、しばらくすると
おかしな噂が
聞こえてきて
それは

病院カーブに
差し掛かる
橋のたもとに

司によく似た
男が立っている

深夜にだけ目撃されるが

前照灯に一瞬だけ
照らされた姿は

スーツにネクタイ姿で
頭から血を流して
立っている

そんな様子に
私たちは
心当たりがある

おしゃれな司は
いつもスーツで決めていた

自分にはそれが一番似合うと
自負していたから

何せ、バブルな時代
アルマーニを
こよなく
愛した奴だったのよ

産後の美咲を
慮って
この話は、絶対に
してはならないと
戒厳令を敷いた

でも

どこからか聞いたんだよ

きっと

子どもが乳離れをして
普通の食事が出来るほど
成長した頃


美咲は病院カーブのある
橋の欄干で

首を吊った


最期に会ったとき



司に会いたい・・と

寂しく微笑んでいた




毎日の重ねから私なりの 「思い」を綴っております 少しでも「あなたの」琴線に 触れるものがあれば幸いです 読んで下さり、ありがとうございます