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1. 手をつなぐ 【30日CPチャレンジ】

※古泉×長門の二次創作小説です


「ブランコ」
「こめかみ」
「ミドリガメ」
「めだま」
「…マスコミ」
「みぞおち」
「あの」
「『あ』ではない。『ち』」
「いえ、そうではなくて。なんでさっきから人体関連ばかりなんですか」
「『しばりのないしりとりって決着がつかなくてぜんっぜん面白くないわよね。たらたらつまんない言葉が続くならいっそ難題でしばった方が盛り上がるのよ。〝人体の急所〟とか』」
「……涼宮さんですね」

どうやらSOS団女子は、僕の知らないところで不穏なしりとりを楽しんでいるらしい。
ほのぼのなのか殺伐なのか分からない光景を思い浮かべながら、つないでいる手をゆるく握り直す。するとそれに応えるように、彼女の方からも僕の手を握り返してきた。
自分より二回りほど小さな手から与えられる微弱な力は、僕をなんともくすぐったい気分にさせる。
それでいて、ちょっとまずいくらいに心地いい。

そもそも僕と彼女が手をつなぐような関係であることが、すでに色々とまずいことである。お互いの所属だとか、SOS団内での立ち位置だとかの面で。
とはいえ前者については建前のようなものなので、あまり差し障りはない。
機関の「現状維持」と情報統合思念体の「観測」という目的は互いに不可侵であるし、情報漏洩の懸念なんて〝この銀河を統括する〟存在相手にはあってなきが如しだ。きっと彼らは僕らについて、僕の知らないことまで知っている。
問題なのはSOS団の面々に露見することだ。
大きく非難されることはないだろうし、多少の驚きや冷やかしののちに受け入れてくれそうだとは思う。
けれど、いまSOS団が保っている関係性の均衡は崩れてしまうかもしれない。それは避けたいということで、僕らの意見は一致している。
なぜなら僕にとっても彼女にとっても、〝今〟のSOS団は特別に大切な居場所だからだ。
もちろんまったく変化のない関係性なんてありえない。でも、僕たちは自らそれを揺るがせる震源にはなりたくないのである。

そういう訳で僕たちは、SOS団全員で下校し解散したのちに時間をおいてこっそりと落ち合い、彼女のマンションまでの短い距離を共にする、という回りくどい手段を取っている。念には念を入れているし、何より長門さんの情報操作能力を持ってすれば、僕らの密かな日課の発覚を阻止することなど容易いことだ。
でも。
長門さんの手に触れていると、こうして気を回している全てのことがどうでもよくなってしまいそうになる。バレたらバレたでこれをきっかけに、素直になれない彼らの仲も進展するんじゃないだろうか、などという無責任かつ投げやりな楽観的思考まで浮かんできたりもする。いや、さすがに本気じゃないけれど。
とにかくそれほどまでに、このやわらかな指先の魔力は絶大なのだ。

「『ち』」
「え?」
「しりとり。『ち』で止まっている」
「ああ…そうでしたね。ええと…」

しばりがあることを聞いたからにはそれに倣うべきだろう。でも、唯一思いついた『ち』で始まる人体急所を口にするのはいささか憚られる。

「すみません、思い浮かばないようなので降参します」
「……」

長門さんは無言で、しかしどこか不思議そうな目で僕を見た。
……もしかして僕が思いついた品のない言葉の他に、別の答えがあるのだろうか。ちょっと気になる。

「ちなみに、長門さんだったらなんて答えますか?」
「直腸」

そうくるか。
しかしそれはもはや急所というかなんというか。

「内臓は確かに急所ですけど、そこを急所として狙うシチュエーションはかなり限られそうですね」
「不可能ではない」
「いえ、可能か不可能かという問題ではなくて」

噛み合わないようで噛み合っているような、やっぱりそうでもないようなあるような会話を楽しむうちに、いつもの曲がり角が見えてきた。この角を曲がればすぐに彼女のマンションだ。
――僕はいつもここで、無意味な往生際の悪さを発揮してしまう。

「長門さん」
「…なに」
「負けてしまったので罰ゲームが必要ですね。どうでしょう、少し歩きますけど僕がコンビニで長門さんになんでもおごるというのは」

彼女と過ごすようになって知ったのは、僕も案外素直じゃないということだ。
『もう少し一緒にいたい』だとか『離れたくない』だとか、100万人のために唄われたラブソングめいたことを思ってしまうくらい俗っぽいのに、それを言葉にして正直に伝えられるほど大人ではないらしい。これでは素直になれない彼と彼女を笑えない。
日々、適当な口実を上げることだけが上手くなっていく自分に内心呆れてしまう。でも、そんなことはおくびにも出さないようにして、彼女に微笑みかけた。

「……」

長門さんはぱちりと一度まばたきをして、そのまままっすぐに僕を見上げた。いつもはすりガラスのような黒目がちの瞳が、今はプラチナの粒子を放つかのようにきらきらと光っている。
……分かりやすい。そして、かわいい。

「行く」
「はい」

予想通りの答えに、思わず吹き出しそうになったのをどうにか堪えた。口元の緩みは抑えられなかったが、普段の基本的な表情が笑顔なため、そこまでの違和感はないだろう。
心持ち足早になった彼女が歩みを進めるたびに、わずかに手が引っぱられる。けれどあえて歩調は合わせず、むしろ少しだけ、速度を落とした。
あまり急いでは、すぐに着いてしまうから。
この歩行速度のかけひきに気づいているのかいないのか、小さな手が僕の手を握り直した。
すべすべとしたなめらかな皮膚の感触が、再び僕をくすぐったい気分にさせる。


……やっぱりこれは、かなりまずいくらいに、心地いい。





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こちらのお題を使わせていただきました。
古長は付き合い始めても徹底的に周囲に隠しそうだなーと思っていて、じゃあ隠す心理はどんなもんかな?というのを妄想してみました。SOS団大好き古長概念。
古泉は付き合うとこまできたら長門にめちゃくちゃ惚れてそうだけど、そういう凡人な自分を受け入れるまでにちょっと時間がかかって欲しいです。「ヒトメボレ」での中河へのイヤミな言い草から見るに、自分だけは恋愛なんかしてもおかしくならないと思ってるタイプっぽいので。

そしてなんで久しぶりに小説なのかというと年末年始のバタバタで漫画の仕上げができないフラストレーションを、古長小説を書くことで昇華させたかったからです。やっぱり文字は楽しい。
残りのお題を続けるか小説で書くか絵で描くかも未定なんですが、他のお題にも妄想が止まらないので、少しづつこなしていけたらなーと思ってます。


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