岡村隆史氏の発言は「女性蔑視」と言っていいのか
4月23日放送の「ナインティナイン岡村隆史のオールナイトニッポン」での発言が批判を集めている。
私も最初に聞いた時、耳を疑うような衝撃を受けた。公共の電波に乗せてはいけない発言であるという感覚だった。新型コロナウイルス感染拡大の、風俗産業への影響についての発言である。
しかし、批判の内容にどこか違和感を抱くのである。
性に関する投稿を募集するコーナー「WET STREAM」内でのコメント。以下全文。後ろに要点を抜粋しているので読み飛ばしていただいても構わない。
岡村隆史氏の発言・全文
(岡村)続きまして、東京都のブーメランチャンネルからいただきました。
(リスナー投稿)「コロナの影響で今後しばらくは風俗に行けないし、女の子とエッチなこともできないと思うので、思い切ってダッチワイフを買ってしまおうかと、今真剣に悩んでます」
(岡村)いや、もうあかんてこれもう、あのー、あれやねんから、んー、いつかもう、雨は上がってく(スタッフ笑い声)。今は辛抱、辛抱よこれは。ゆうてあるやんか、みんながもうほんまに、あのー、止まない雨はないってゆうて、言うてはんねやから、もー、このー、神様はあれなんですよ、あのー、人間が乗り越えれない試練は作らない、って、あのー、言うてはりますから、あー、ここは絶対なんか、あのー、なんか、乗り切れるはずなんですよ。おー。
んでだから、いま面白くなかったとしても、これ、コロナが収束したら、もの…絶対面白いことあるんですよ。おー。ほんで、あのー、なかなかね、苦しいえー、状態がずっと続きますから、コロナ明けたら、なかなかの可愛い人が、短期間ですけれども、美人さんが、お嬢やります。これなんでかというか、あのー、短時間でお金を、やっぱり、稼がないと、苦しいですから。そうなったときに今までのお仕事よりかは、ちょっと。
これ僕3か月やと思ってます。苦しいの3か月やと。3か月の間、あのー、集中的に可愛い子が、あー、そういう所でパッと働きます。で、パッと辞めます(スタッフ笑い声)。あの、それなりの生活に戻ったら。だから、コロナ明けたときのその3か月。3か月は今まで、あの「え?こんな子入ってた?」っていうような人たちが絶対入ってきますから。はい。
だから今は我慢しましょう。今は本当に我慢して、はい。コロナ明けたときに、我々風俗野郎Aチームみたいなモンは、この3か月。3か月をあの、目安に、がんばりましょう(スタッフ笑い声)。フフッ。そのために今は我慢して、風俗に行くお金を貯めとき、そして、えー、色々ね、仕事ない人も、あれですけども、切り詰めて切り詰めて、その時のその3か月のために、頑張って今、あのー、こう歯食いしばって、えー、踏ん張りましょう。そうしたらコロナ明けたときのその3か月。見てみ。行ってみ。「え?こんな子入ってた?(スタッフ笑い声)マジすか?」でも3か月やで。その子らも。パッてやってパッて辞めるから(スタッフ笑い声)。それだけはもう、あの、多分そうなんじゃないかと、僕は、僕はそれを信じて今、頑張っています(スタッフ笑い声)。フフッ。WET STREAM。
(太字はニュースサイト等で主に取り上げられた部分)
要点をまとめると以下。
・いま面白くなかったとしても、コロナが収束したら絶対に面白いことがある
・コロナが明けたら可愛い人が風俗で3か月間の間に集中して働き始める
・コロナで働けない分、短時間で稼がないと苦しい。
・3か月間、集中的にパッと働いてパッと辞める。
・その3か月のために今は我慢しましょう
いかにも批判を集めそうな内容である。著名人の発言としてはあまりに不用意といえよう。
各誌の批判
ではどのように批判されているのか。目立った記事・ニュースサイトの記述を抜粋する。
「日本における性産業、性の商品化の需要は凄まじく、異常なほど女性の性的搾取に執着する構造が福祉の拡大や拡充を阻止している実態がある。つまり、金がない女性は身体を市場で売れ、という野蛮な社会が至るところにあり、岡村のような思想、価値観が福祉の拡充を阻んでいる」「生活困窮者支援をするなかで、今回の緊急時だから女性が『性の商品化』をされているのではなく、日常的にそうなっている社会構造があるということだ。日常的に問題視されてこなかったものである」「岡村隆史を含めて「性の商品化」を待ち望み、女性の生活困窮や貧困を支援、縮小に向けて取り組むのではなく、待ち望む下劣な購入者たちが市場で待っている」(藤田孝典氏、ニュースサイト「BLOGOS」より)
「ネット上では『女性蔑視だ』『隠れた人間性がにじみ出た』と大炎上」「世の中にはコロナ禍で生活が困窮し、ほかに選択の余地がない中で風俗の世界に足を踏み入れている女性もいる。他方で貧困女性は性的な搾取の対象になりやすいという社会問題も生じている。岡村の発言はそうしたセンシティブな部分への配慮が圧倒的に足りなかった」(東スポweb)
「放送後から『女性蔑視』『性的搾取』などの批判が集まっていた」(オリコン)
「放送終了後から、ネット上などで『女性蔑視』『不謹慎』などと、岡村への批判の声が高まっていた」(日刊スポーツ)
「リスナーからのメールに『笑いで返した』かたちではあるのだが、これが“女性”や“貧困層”、“職業”に対する蔑視だとネットで炎上」(週刊女性PRIME)
「インターネットなどでは、『生活が困窮して性風俗に女性が流れてくるのを楽しみにするのは異常』『女性蔑視だ』などと多くの人から批判が集まっていた」(朝日新聞デジタル)
「《急にそんな所で働かなきゃならない人って、物凄く困っている人でしょう? 好きで働いている人じゃない。それを楽しみにしているっていうの?》《社会が不況に陥っても性風俗に通える経済的余裕を確保出来る人と、確保出来なくて性風俗で働かざるを得ない人が出て、前者が後者の発生を「楽しみに待つ」という、グロテスクにすら感じる搾取の構造がそのまま言葉で言い表されてるのがスゲーよな》《何が一番嫌って「何の罪もない人たちがコロナによって不幸になるのを楽しみにしている」のが本当に嫌。それにさらに女性差別も加わった形。本当に最悪》《岡村隆史のあの発言は「シモネタギャグ」ではありませんよ。「暴言」です》」「岡村が話している最中、スタジオからはスタッフの笑い声もしきりに聞こえていた。つまり、スタッフ側も岡村の発言を問題視しないどころか許容していたのだ。そのためTwitterでは、メディア側の倫理観を問う声も上がっている」(女性自身)
「ネット上は『出た女性蔑視発言w』『気持ち悪すぎる!』『ドン引き』などのコメントが殺到し、大ブーイング。貧困状態に陥り、やむを得ず風俗で働かざるを得ない女性をカモにすると取られ、発言が徹底的に叩かれている」「笑って済まされる発言ではない」「弱者を“食い物”にする岡村の人格なき“下半身”。チコちゃんに叱られるだけでは済まされない」(日刊ゲンダイDIGITAL)
女性の性的搾取に深く言及する藤田氏の記事を除くと、多くの記事でインターネット上の発言を掲載している。大別すると、
①コロナ禍で苦しむ人の不幸を喜ぶことに嫌悪感を抱く
②女性蔑視である
③女性、貧困層、性風俗産業従事者への差別である
④発言を問題視せず、笑って済ますスタッフの倫理観に問題がある
といったところであろうか。ここにわずかな違和感を抱く。
コロナ禍での人の不幸を楽しみにする、これは不謹慎である。誰もが感じるポイントであろう。人の不幸を喜ぶというのは、戦時下でもない限り普遍的に非難の対象になるものだ。今回の発言もこの点においては激しい非難を受けてしかるべきである。
また、スタッフの倫理観にも疑問符が浮かぶ。実際に放送を聞いた人なら感じるであろう。彼の発言に問題があるとは微塵も感じていないようなスタッフの笑い声はあまりに軽率であったと言わざるを得ない。
ではこの発言は「女性蔑視」なのか。「差別」なのか。私が疑問を抱いたのはこの点だ。
この発言は「女性蔑視」なのか
たとえば彼が「3か月は可愛い人が風俗に堕ちると思うんですよ」という発言をしたとする。これは明らかに女性蔑視、風俗産業という業種への差別である。だが岡村氏の発言はこれとは違う。
仮に、コロナ禍の帰結として(間の論理は一旦置いておくとして)「可愛い女子アナが増える」という事実を岡村氏が述べていたとしよう。「コロナが終わったら3か月間は可愛い女子アナが増える、それが楽しみです」という旨の発言だった場合、それは女性蔑視といえるのか。更に極端な例を言えば、「強い女子ゴルファーが増える」という発言だった場合、それは女性への差別と言われないのではないか。
勿論、コロナによる貧困の影響を楽しみにしているという点では歓迎できる発言ではない。しかしこれらに、(岡村氏の実際の発言ほど)女性蔑視の向きを感じないのは、「女子アナ」「女子ゴルファー」が「卑しいものである」と我々が感じていないからなのではないか。
岡村氏の発言には、「風俗産業は卑しいものである」という要素がない。すなわちこの発言を女性蔑視と解釈するための論理がひとつ足りないのだ。
彼の発言が女性蔑視、性差別であると断定するためには、「性風俗産業は不当な性の商品化であり、そこに従事する者は卑しい者である」という前提が必要なのである。
批判の根底にある価値観
ここまで考えてみると、この発言を女性蔑視であると批判する者の価値観の根底に
「風俗産業は卑しい」という観念
があることを認めていることになるのではないだろうか。これが私の違和感の原因である。
批判を投じる者は、それによって風俗産業の価値を貶めたことを認める覚悟が必要である、と言えまいか。岡村氏の発言を擁護するつもりはないが、彼の発言に自らの「風俗産業は卑しい」という価値観の補強をすることでしか、この種の批判は為し得ないからである。
勿論、批判している当人たちはそのような意識はないだろうし、私もこの場で性の商品化の是非を議論するつもりもない。しかし、このような発言への論理付けができないと気が済まない性分なのである。
それだけです。尻切れトンボ
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