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歴代日本ダービー馬の子孫は、どれほど現存するのか?①(初代~第20代ダービー馬編)

はじめに

さて、いよいよ日本ダービーの季節がやってまいりました。

ご存知の通り、日本ダービー(及び3歳クラシックレース)は優秀な繁殖馬を選定する目的があり、多くの馬主や生産者が大目標とするレースです。

では、過去に日本ダービーを勝った馬たちの血は、果たして現代の競走馬の血統にどれほど残っているのでしょうか?
今回は、今年の第90回日本ダービーを目指して覇を競った2020年生まれのサラブレッドのうち、一体何頭が各歴代日本ダービー馬の子孫であるのか検証してみました。

検証方法

今回は、ある1年間に日本国内で生まれて血統登録されたサラブレッド(今回は2020年に生まれた馬たちが対象)の内、各歴代日本ダービー馬を血統表(9代血統表)に含む馬は何頭いるのかを調査していきます。

例えば、2023年若駒Sを制したマイネルラウレアは、第20回日本ダービー馬のボストニアンを7代前の先祖に持っています(父→母→父→母→母→母→父)。この場合、マイネルラウレアはボストニアンの子孫であるとカウントします。
この検証作業を、2020年に国内で生まれて血統登録された7388頭のサラブレッド全頭に対して、各歴代日本ダービー馬ごとに行います。

なお本検証では上記の例のように、父→父→父や母→母→母のように血が繋がった直系子孫以外も子孫としてカウントします。

以下、この記事の内容について、2点の注意点があります。

注意点①
今回は2020年に国内で生まれ、血統登録された7388頭のサラブレッドを調査対象とします。

2020年に国内で生まれたサラブレッド自体は7497頭いますが、生まれて間もなく亡くなった馬や、血統登録されなかった馬もいるため数字に差が生じています。血統登録されていない各馬については、血統情報を集めることが困難であったため本検証では調査対象外とさせていただきます。

なお上記の通り、「2020年に生まれた馬=2020年に生まれて血統登録をされた馬」とはなりませんが、便宜上そう表記させていただきます。

注意点②
今回の調査に用いるのは9代血統表になります。そのため、10代以上前に過去の日本ダービー馬の祖先を持つ場合はカウントできていません

これは筆者が所有しているデータセットの限界ゆえです。第1回日本ダービーが91年前であることを考慮すると、正確な調査をするためには15代程度前の祖先まで遡る必要があるため、今回の検証結果の数字はあくまで参考程度に見ていただくようお願いいたします。

検証結果(第1回〜第10回ダービー馬)

それでは、検証結果に移ります。まずは第10回優勝馬まで。
前述したとおり、このあたりの馬は年代的に血統表の10代以上前に含まれるケースもあるため、数字はあくまで参考程度に見ていただければ幸いです。

まず目に付くのは、クモハタでしょうか。2020年に生まれたクモハタの子孫は100頭。頭一つ抜けています。
このうち34頭が、自身の子孫であるニシケンモノノフの産駒となります。子孫に現役の種牡馬がいると、必然的に生まれる子孫の数は多くなりますね。

しかし残りの66頭に関しては、クモハタ自身の娘たちから広がった多彩な牝系から生まれているケースが多く見られました。以下はその例です。

・クインナルビー牝系(過去にはオグリキャップなど)
  2022年アルテミスS馬のラヴェル
クニハタ牝系(過去にはリンデンリリーなど)
  2023年浦和の桜花賞馬メイドイットマム
・クモツバキ牝系
  圧勝でデビュー2連勝も悲運の死を遂げたトレド

その他にも、過去にはイングランディーレなどを輩出したタカハタ牝系などが未だに伸び続けており、現代の競走馬の血統におけるクモハタの影響力が大きいことが分かります。

次に、ヒサトモについて着目していきます。
歴代で3頭しか存在しない牝馬の日本ダービー馬であるヒサトモですが、特筆すべきはやはり、自身の牝系からトウカイテイオーを輩出している点でしょう。

実際、2020年に生まれたヒサトモの子孫31頭のうち、約2/3にあたる20頭がトウカイテイオーを介する子孫となります。代表例を挙げるとすれば、レーベンスティールでしょうか。VMデーの3歳1勝クラスでの末脚は特に衝撃的でした。

一方で、トウカイテイオーを介さない残りの11頭は全てヒサトモ自身の牝系から生まれた馬になりますが、その中にはトウカイラメールといった中央勝ち馬もいます。まだまだ根強く伸びていきそうな牝系ですね。

続いては、セントライトについて。
三冠馬セントライトの2020年産子孫27頭のうち、約半数の16頭がチヤイナトウショウの牝系(過去にはスイープトウショウなどを輩出)から生まれた子孫となります。

従って、ディープインパクトとスイープトウショウのラストクロップであるスイープアワーズも、セントライトの子孫ということになります。第6代三冠馬の最後の仔が初代三冠馬の血を継いでいると考えると、ロマンを感じずにはいられません。

また、チヤイナトウショウを介さないセントライトの子孫としては、2020年産世代ではありませんが、地方競馬で活躍のベンテンコゾウ(母母父トウショウゴッド経由の子孫)などが生まれています。

次に、カブトヤマについて。
2020年に生まれたカブトヤマの子孫7頭のうち3頭はアイファーダイオウアイファーグラッドアイファープレミアと、中島稔氏の所有馬が約半数を占める形となっていました。いずれも同牝系。

アイファー軍団以外だと、2004年京成杯馬フォーカルポイントを叔父に持つレディメローラなどがいます。カブトヤマも、活力を持った牝系に僅かながらもその血を残し続けています。

ここからは、9代血統表にその名を残す子孫が2020年に生まれていない馬たちについて触れていきます。

ガヴアナーイエリユウは現役中に死亡しており、産駒を残せず。初代ダービー馬のワカタカはサラ系だったこともあり、目立った子孫を残せず。トクマサスゲヌマは戦後の混乱期に行方不明に。

フレーモアは中山大障害馬を輩出するなど種牡馬としても活躍しましたが、子孫は確認できず(種牡馬時代はブラオンジヤツクという馬名だったようですが、こちらの馬名の子孫も確認できず)。こちらも戦後の混乱期に行方不明になったようです。

検証結果(第11回〜第20回ダービー馬)

次に、第11回~20回優勝馬の子孫について見ていきます。

ボストニアンの数字が抜けてますね。
ボストニアンはメジロマックイーンの3代母・アサマユリの父であるため、その子孫のオルフェーヴルゴールドシップといった現役有力種牡馬を介して、ここまで数字が伸びた形となります。

従って、2023年フローラS馬のゴールデンハインド(父ゴールドシップ)や、2022年ホープフルS馬のドゥラエレーデ(母父がオルフェーヴル)もボストニアンの子孫ということになります。

因みに、2020年産ボストニアンの子孫228頭のうち、メジロマックイーンを介した子孫は204頭、アサマユリを介した子孫は222頭でした。
アサマユリを介さないボストニアンの子孫としては、マイネサマンサの孫にあたるマイネルズーメンや、2020年産世代ではないですが、門別で活躍したアザワクソロユニット姉妹などがいます。

この表で次に数字が多いのは、子孫数34頭のクリノハナ
この数字のうち約半数の18頭が、クリノハナの娘であるクリヒデ(1962年天皇賞秋を勝利)を介した子孫となります。

クリヒデから広がる牝系は近年でもローレルゲレイロディープボンドノースブリッジを輩出するなど、未だ活気に満ち溢れています。
2020年産のクリノハナの子孫としては、同じくクリヒデ牝系から、2023年共同通信杯2着馬のタッチウッドが挙げられます。

次に、ミナミホマレについて見ていきます。
2020年に生まれたミナミホマレの子孫としては、2022年芙蓉S馬のシーウィザードが挙げられます。シーウィザードの母父にあたるメジロベイリーを介してミナミホマレの血が繋がった形ですね。

同様にメジロベイリーを介した子孫は2020年に計7頭生まれており、他には2022年レパードS馬カフジオクタゴンの半弟ネイビースターなどがいます。

あと、ここで触れていきたいのがギンザグリングラスの存在。
2023年現在、メジロマックイーンの父系を継ぐ唯一の種牡馬となっていますが、それと同時にミナミホマレの血を継ぐ存在でもあります(ギンザグリングラスの6代母の父がミナミホマレ)。

ギンザグリングラスは毎年1~5頭の種付けをこなしているため、彼を介したミナミホマレの子孫も毎年コンスタントに生まれていることになります。名馬の血を後世に繋げる、あまりにも貴重な存在です。

続いて、クモノハナ
数字は8頭に留まりましたが、中央勝ち馬シュヴァルツリーベなどの有力な子孫も2020年に生まれています。

因みに、この子孫8頭のうち4頭は、2013年クイーン賞馬アクティビューティーの母ファンドリオボッコの牝系から生まれていました。
この牝系からは毎年1~4頭ほどの仔が生まれているため、クモノハナの血を後世に繋げる貴重な牝系となっています。

次に、ミハルオーについて。
2020年に生まれたミハルオーの子孫3頭(マリノフェアレディキョウエイロッソシャンドゥルン)は、いずれも自身の娘ミスミハルの牝系から生まれていました。
過去には1991年菊花賞馬レオダーバンなどを輩出したミスミハルの牝系ですが、現在も僅かながらミハルオーの血を繋ぐ役目を果たしています。

最後に、クリフジ(繁殖名は年藤)について触れておきます。
表の上では、クリフジの名を9代血統表に持つ馬は0頭となっていますが、翌2021年にはクリフジの子孫が生まれています。

これは、南関で走っていたクリフジの子孫・ガリシヤヒルに待望の初仔が生まれたためです(2018年、2019年も種付けはされていたものの、仔は生まれず)。
ガリシヤヒルは昨年も仔を生んでおり、クリフジの血を継ぐ貴重な存在となっています。


おわりに

今回はダービー黎明期の優勝馬の子孫を見てきましたが、クモハタとボストニアンの血の残り方が凄まじかったですね。

特にクモハタは様々な有力牝系の祖先として現在まで子孫を残しており、現代の競走馬の血統における貢献度は計り知れません。内国産種牡馬ながら6年連続リーディングサイアーに輝いたその実力は、伊達じゃありませんね。

今回はここまで。第21回以降優勝馬については、また続編の記事で触れていきます。

なお、本記事の内容はあくまで私個人で調査、分析したデータに基づくため、提示した情報には誤りが含まれる可能性があります。何卒ご容赦ください。


参考資料(2020年産サラブレッドの生産頭数と血統登録頭数に関して)

https://www.jairs.jp/contents/tokei/tokei_pdf/20-41.pdf

https://www.jairs.jp/contents/tokei/tokei_chiikibetsu_s.html


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